痛がり

白い靴下の猫

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53.自滅の上の総崩れ

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んー。ビール?は苦いから初めて飲むには向かないよな。
炭酸水、は大量にあるけど焼酎のストックがイマイチ。
あ、ラム酒は飲み口いいか?ケーキやアイスクリームをつくる時ように、姉貴から高級品を送ってもらったばかりだし。

さとるがキッチンで、私室のミニ冷蔵庫に運ぶべく濃い酒を漁っていると、またしても無線イヤホンを片耳にだけさした畑里が、腹立つほどあきれた視線をぶち込んでくる。
「あんたねぇ、そういう対症療法に出るわけ?」
「おうよ。ドラッグ実験の日時がわかったら教えてくれ、メイを酔い潰していけなくさせる」
畑里の、このヘタレっ!と雄弁に語る目を見ながら知らんぷりを決め込む。
「失敗したわねぇ?」
「控えめに言っても、返り討ちというか自滅というか、だな。驚きのツチノコ出現だぞ、仕方ねーだろ。そっちは?」
「聞くも涙語るも涙の自爆の上総崩れだわね」
同じじゃねーか。

しばらく無言だったあかりが、軽く舌打ちをする。
「あー、この流れは、まずいかも」
「聞かねーぞ!奥さんのプライバシーは大事だ」
ひとには聞かせといていい根性をしている。
「シューバ君が、嫌がるメイに、さとるとのキスが気持ちよかったのかって詰め寄りながら、無理やり恥ずかしい言葉を言わせようと・・・」
「よこせ!!」
さとるは、あかりから一方の無線イヤホンをむしった。
結局聞いてしまうわけだ。

『・・その、狂おしい表現が多くてだな。ひょっとすると、お前のいう、苦しいのと幸せなのが一緒になった感じの方が近いのかもしれない』
『確かに、部屋がキレイでも、正気を失ったりしませんよねぇ』

???
「おい、何の話だ?」
さとるが脳内はてなマークを飛ばしながらあかりに聞く。
「セックスの気持ちいい、が、早起きして小鳥の囀り聞いた時とか、掃除が行き届いていて気持ちいい、とどう違うかという話よ」
早起きの小鳥?!
「てめ。あいつらがUMAレベルでまずいのは固定だろ!流れがマズイ訳じゃ・・」
「絶対前回よりさらに流れがヤバい方向に行くからきいとけってゆってるの!」
「不吉なんだよ、このカッサンドラが!」
だが、カッサンドラの予言は当たるからこそ不吉なのだ。

『さとるさんに、ほっぺ叩かれたことがあって』

あ。やばい、それ、さとるの地雷。
数十秒後に慌てたのはあかりの方。
こじれ具合のあまりの激しさにさとるを強引に共犯にしておいてなんだが、あかりとしてはそっちには流れてほしくなかった。

『さとるさんの元に戻れた後のフラッシュバックは、本物も偽物も私が殺したさとるさんもグルグルになって、息をするのもつらかった。でも、叩かれたほっぺ思い出すと・・・息が、できた』

ガタ。
さとるが席を立つ。
左の頬を抑えて泣くメイを、さとるがどれ程気にしていたかを知っているあかりとしては、ああそうなんだ、で済むとは思えない。
とりあえず踏み込むってか。
あかりは『あちゃ~』という顔で、止めもせずについて行った。
自分の感情を抑えられないさとるなど、あかりにもレアすぎて、せいぜい暴れたら麻酔銃を撃とう、位しか考えられない。

歩いているうちに、明かりの予想した方向のマズイ展開に進んでいくが、さとるの表情は変わらない。メイのフラッシュバックの話の方がインパクト過ぎたらしい。
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