ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

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70. 子離れはつまらない

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目覚めたあとのミケは、何かがおかしかった。
透明な笑い方としゃべり方、異常な物分かりの良さと気遣い。
砂の城が、波に崩されていくような毎日にパチドの心が削られて行く。

ミケの体調は悪くない。足と背中のケガも、毒も、快癒した。
ちゃんと食べられるようになったし、よく笑う。ただ、前と違う顔で。

ミケは殆んど外出しない。
街に気分転換に誘っても嫌がるし、魔の森へすら行かなくなった。

ミケが俺以外で話すのは、たまにご機嫌伺いに来るルカと、あと、なぜだか花を持ってくるソナ・・毒蛇の箱を勝手にあけてミケに守られた女、位。

ソナは、ピンの商売女だった。占領下のフェルニアで楽な暮らしのはずもないのに、ミケの、あんなに怖い『大丈夫』を放っておけない、と何度も見舞いに来る。
一度はその手の目的で家に呼びつけた俺にコナをかけることもなく、売れ残りの花を買ってはミケと話に来るもので、今では家の者が素通りさせるほど。

ソナと話しているときのミケの方が、俺と話している時よりはまだ覇気がある気がする。

あかりをつける気にすらならず、座り込んでいると、風が吹いた。

「あらぁ、ミケちゃん回復!って聞いて来たのに、ひどい顔ねぇ、シェド。200年まえに彼女の灰をあつめていた誰かさんの顔みたいよ」

「・・チャド・フロライン?いや、チャドか?」

「なぁに?お腹を出して寝ていないか気になって風に溶けて来たわ。子離れなんてつまらないし。それに、若いって・・・だめねぇ」

「・・・どうしてやればいいのか、わからないんだ」

ミケが、とても、穏やかになって。
ルカ風にいうなら、クロヒョウからカタツムリにジョブチェンジ。

シェドを呼ぶこともなく、パチドを『好き』だという。
あいつの『好き』が、どういうものかわからないが、俺を気遣って、どんどん自分の動く範囲を狭めていく。

萎縮させたいわけじゃない。
ミケを『飼いたい』わけじゃない。
ルカやシェドのように、笑わせてやりたいだけなのに。

風に溶けたチャドが、うつむいた俺の頬を撫でる。
チャドが、シェドの子どもの頃に良くしたように。

「えーとぉ。とりあえず、ミケちゃんじゃなくて、あのとぼけた魔術師グリーンの方を、なんとかしましょ?」

「・・・は?グリーン総司令?」

まったく頭になかった名前が出て、顔を上げる。

「ええ。魔術弱小国のムーガルの中ではまだマシだったから手術を任せたけど、あなたのことが好きすぎて、いつまでも患者離れできないあのじいさんよ」

「患者、離れ?」

「そう。骨がくっついてるのに、何年もギプスをはめているようなものだわ。グリーンに、いい加減に、手術後の封印をどけろと、邪魔だと言いなさい。あなたがこんなにぐちゃぐちゃで、どこに触れても揺れるのに、ミケちゃんに委縮するなと言う方が無理よ」

「ミケが、委縮するのは、俺のせい?」

聞きたくて、聞きなくない事実。
俺は、ミケを手放せないのに、ミケは俺の側で不自由になっていく。

「正確には、あなたの負い目が歪なせいね。グリーンは手術だけじゃなく、封印も下手だから、綻びまくって余計に歪になるんだわ」
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