ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

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71. 魔術師グリーン

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「総司令、戦時中フェルニアの魔術師の腹がつぎつぎに裂けた件、原因がわかりました」

グリーンの手に、分厚い報告書が渡る。
フェルニアの魔術師の事件を、パチドの冷酷無惨説に使われるのが我慢ならず、グリーンは1年以上も原因究明を続けさせていた。

「おお、そうか!ご苦労だったな、レイ。やはりパチドは無関係じゃったろう?」

グリーンはホクホクとページをめくり始める。

「はぁ。確かに、パチド様は原因には無関係であられますが、現在非常に関係性が深いと申しますか、早急なご相談が必要です」

「何をわけのわからんことを・・・」

『結論:公妾ミケの魔素を取り込み過ぎた魔術師が、魔力制御不能に陥り、自らの魔力に腹を裂かれて、錯乱、自傷、無差別攻撃等を経て死亡したものである。』

ぶほっ がほっ ごほっ

驚きのあまりむせ込んだグリーンの背を、レイと呼ばれた部下がせっせとさする。

「早めに引き離さねば危険ですが、パチド様は、下賜されたミケのカラダを大層お気に入りとのこと。魔性に魅入られたのやもしれません」

パチドがミケに夢中なことは、グリーンも把握している。
そりゃぁもう、風疹を通り越し、麻疹を飛び越え、天然痘レベルの破壊力で執着している真っ最中だ。

ああ、もっと早くに女遊びをさせておくんだった。
優秀だからと、働かせすぎた。

「て、て、手練手管に長けた結婚相手を探せ!」

「はぁ?!パチド様のですか?それとも司令官の?!」

「パチドに決まっとろうが!ワシの相手を探してどうする!」

「いや、そうしたら手練手管はないでしょう?!まだ御年21ですよね?清楚で儚げとか、年上なら包容力とか、ご趣味があるのでは?!」

「相手は、公妾だぞ?うちの上層部16人が数日で骨抜き!ライヒはミケミケ騒いでティムマインを殺害!フェルニア魔術師の腹が裂ける現象とて何年続いた?腹が裂けるかもと気付いてもやめられなかったのじゃろが!そんな魔性相手に清楚儚げがかなうのか?!」

「知りませんよ!そんなもん、手練手管で押し切れるとおもいます?カラダの問題じゃなくて魔素の精神作用だと思いますが?!」

「レイ、貴様、パチドを愚弄するか!パチドの魔術耐性は世界一だぞ!だから、絶対、カラダじゃ、カラダなんじゃぁー!」

涙目でそう叫びながら、グリーンは司令官室を飛び出した。

「司令官どのー?!パチド様のフェルニアでのお屋敷は逆方向ですよー!」

レイの声を聴いて、あわてて逆向きに走り出すあたり、どうやら直談判に行くらしい。
やれやれ、有能でいい人なんだけどな。たまにやらかすんだよな。

よれよれとしか言いようのないムーガル上層部を何とかまとめて、一応占領から平定に移行できつつあるのも、交代制とはいえ、軍の人間がムーガルへ帰還することが出来るのも、ひとえにグリーン総司令のおかげである。

もちろん、すべてうまくいっているわけではないが、フェルニア市民の活動は、占領前と比べて、農民の活動はほぼすべて、商人の活動は3分の2程度まで回復している。
魔道具や武器も含まれてしまう工業系の産業は滞っているが、これはまぁ、やむを得ない範囲だ。
治安の面はパチド様にまかせて、自分は専門でもない為政面で口ばっかりの上層部をなだめつつ、身を粉にして働いてくれているのだ。

その総司令の、唯一ともいうべき弱点がパチド様とくれば、レイをはじめとした部下の目も温かくなろうというものである。

まぁ、望みは薄いが、あの動転ぶりを見たら、パチド様もほだされるかもしれない。
レイは、とりあえず、パチドのお相手候補を各種取り揃えておこうと、報告書を手に引き返していった。



「レイ様、パチド様が、グリーン総司令に会いたいのに見あたらないとおしゃっているのですが、お心当たりは?」

せっせとパチドのお相手候補をリストアップしていたレイに、受付からの連絡がはいる。
あれ、グリーン総司令は行き違いかな?

「分かりました。司令官室に行きます」

なんとなく、お相手候補のリストを作っていたなどと知れたら機嫌が悪くなる気がして、レイは、報告書の方だけをもって、司令官室に向かう。

「お待たせしました。パチド様。総司令は30分ほど前に、パチド様のお屋敷の方へ駆けていかれました。お会いになれませんでしたか?」

「は?俺の屋敷へ?駆けて?なぜだ?」

「それが、ですね、一大事が発覚いたしまして」

そういって、レイは分厚い報告書をバタンバタンと振ってみせる。

「かいつまめ」

「はい。フェルニア魔術師の腹が裂ける現象が相次ぎましたよね。あの原因を調査した報告書がこれです」

ぺらり

『結論:公妾ミケの魔素を取り込み過ぎた魔術師が、魔力制御不能に陥り、自らの魔力に腹を裂かれて、錯乱、自傷、無差別攻撃等を経て死亡したものである。』
パチドは天を仰いだ。

「よくわかった。屋敷に戻る。報告書の件は当面他言無用だ、いいな」

じろりとパチドににらまれて、レイは青くなって最敬礼をした。

「はいっ、パチドさま!」

だめだ、グリーン総司令の100倍は迫力がある気がする。
お相手候補の推薦はぜひグリーン総司令ご本人にやってもらおう。自分達だと、きっと視線で殺される!



パチドは、家に向かって駆けながら、手元の魔道具を耳に寄せる。屋敷は私室以外集音可能にしてある。グリーンとミケは応接室にいた。

「・・と、いう訳で、あなたの魔素はパチドに有害で、存在も結婚して子を設けるのに邪魔なのだ。身を引いもらえるなら、下賜は取り消し、あなたも通常の捕虜として解放しよう。私に、あなたを邪悪な魔女として討伐させないで欲しい」

「なるほどぉ、それはお困りでしたね。私を討伐してパチド様との仲がぎくしゃくしてしまうとお辛いですし、私と結婚はございませんしねぇ」

「うむ。理解があって助かるぞ。頼めるか?」

「かしこまりました。パチド様には大変お世話になりましたので、ご挨拶はさせていただきたいと存じますが、それを終えましたら、早めに出奔いたします」

「よし」

2人が椅子から立つ音がして、音が拾えなくなる。

ぎり。

パチドは奥歯をかみしめて、スピードを上げた。
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