72 / 141
72. 封印
しおりを挟む
「ここであったが、百年目―!」
パチドの屋敷の門を出た瞬間、グリーンの目の前が金色になり、衝撃と共に地面に倒れた。
チャド・フロラインが、いきなりグリーンに跳び蹴りを放った挙句、倒れ込んだグリーンの上にどっかりと腰を下ろしたのだ。
「こ、これは精霊殿!ご無沙汰をしております。相変わらず、おきれいで・・」
いきなり髪を振り乱した精霊のお尻に潰されても状況把握が出来るグリーンは、流石に現役である。
「社交辞令かましてる場合かー!いつまで、シェドの封印はっとく気だったのよ、このヤブ魔術師!総入れ歯でがたつかせる奥歯もないわ、腹の立つ!!」
「封印とは人聞きの悪い、ちょっとした親心のお守りではありませんか」
この精霊にたのまれた手術で、蘇生した瞬間涙を流す少年に、術をかけた。
心をしめる苦しみを手放せ、自戒と自罰につながる、恨みも焦りも痛みもすべて忘れてしまえと。
おかげでパチドは、纏足をとかれた足のようにもとの活力を取り戻し、こんなに立派にすくすくと・・・ん?こんなに?
地面に倒れて見ると、また一段と大きく見える、愛しの我が子、兼、頼れる部下のパチドが、息を切らして駆けつけて来るではないか。
「チャド・フロライン?本体だよな?!その困ったじいさん離さないでくれ!」
「アイアイ!ほら見なさい、怒っているわよ!嫌われたんじゃないの?」
「そ、そんな!ワシの可愛いパチドが・・」
「あんたのじゃないっつーの!愛着形成期も反抗期も思春期もご一緒してない独身老人が、いきなり毒親かますとか、どんだけヤブよ?!」
フロラインは、よいしょと立ち上がり、グリーンの後ろ襟をひっつかんで引き上げ、同時に到着したパチドが、間髪入れずにグリーンの襟首を掴んだ。
「ミケに、何を言った?!」
「んあ?公妾?・・・あー、戦争捕虜の解放にまぜてやろうかと。ほれ、お前、そろそろ結婚して、孫・・ぐえ」
「それだけでっ、ミケが自分から、出奔すると言ったっていうのか?!」
今にもグリーンをゆすり倒した挙句地面にたたきつけそうな勢いのパチドに、チャド・フロラインがあきれ顔で、「どーどー」と、動物でもなだめるような声をかけるが、グリーンとパチドはヒートアップしていく。
「どこがおかしい?あの女の魔素はよくないモノじゃった!腹を裂かれた魔術師を見たろうが!本来なら生存も許されん黒もどきの魔女だ!目を覚まさんか!」
「ムーガルも、彼女がそんな魔素を吐くまで傷つけた奴らと同類だろうが!引きずって行って、ミケの前で撤回させてやる、来い!」
ゴチンッ
額を突き合わせていた、グリーンとパチドのそれぞれの後頭部に手を添えての、チャド・フロライン発、容赦ない相頭突き。
キュウ
チャド・フロラインは、強制的に大人しくさせた二人を引きずって、屋敷の門をくぐったのだった。
☆
「ミケちゃん、ご無沙汰!」
「チャド・フロライン?!どうしたの?」
大柄な軍人二人をずるずると引きずり、使用人を自ら指図して 2人の靴を脱がせているチャド・フロラインをみて、ミケは目を丸くする。
「ああ、チャドがついに『若いってダメねぇ』とか言い始めたから、助太刀にきたの・・まぁ、覇気のない顔しちゃって。大丈夫よ。すぐに、正気のシェドを迎えにやるわ。お部屋で待っていてあげてちょうだい」
「正気の、シェド?えーと、私、パチドに挨拶したら、ここを出ていかなければならなくなって・・」
「まぁ、そうなの?それもいいわね!私も魔の森も回復してきたから、家も増築したのよ?いつでも帰っていらっしゃい?」
「いえ、あの、パチドの目に触れないとこじゃないといけなくて・・」
「んー、じゃぁ、ミケちゃんのお部屋に、直接魔素回廊をつなげてあげる。好きなだけシェドと追いかけっこをすればいいわ」
そういって、チャド・フロラインはくるくる回る。
そうか、元気に魔の森を出られるくらい回復したんだ。逆に言えば、回復に何年もかかる位、ひどかったのだ。それでも帰っておいでと言ってくれる。
うれしくて、うれしくて、絶対に帰れない。ミケは気合いを入れる。
魔術師たちを裂いたとばれた今、公妾ミケは、いつでも大義名分が付く攻撃目標だ。
二度と、魔の森は焼かない。
「チャドさん、フロライン、ありがとうございました」
ミケは、なるべく元気に見えるような笑顔をつくって、頭を下げる。
「んー。確かにこれは、あんなぺらぺらなパチドじゃ、崩せないわね。まぁ、待っていなさい。すぐに本物の『うちの子』が行くから」
にやりと笑ったチャド・フロラインは、むんっ、と、にぎり拳を作って、呻き始めた二人を強引に追い立てて、応接室へとどつき入れた。
そして、応接室からは、チャド・フロライン、いや、元祖ババァ・フロラインのオラオラ声が響きわたり、使用人がお茶を出し直そうと向かった時には、ドアの隙間からでもわかる程つよく、オーロラのような色合いの光が噴き出していた。
なんの、こんなもので驚くものかと、使用人は、後ずさりたいのをぐっとこらえて、光が消えるまで待っていた。
も、もういいかな?
光が消えて3秒。使用人はそうっと応接のドアを開ける。
中には、再びキュウ、とばかりにテーブルに突っ伏したグリーンと、険しい顔で仁王立ちになった主人と、どっかりとソファに身を沈めた金の髪の精霊がいて。
使用人は、職業魂に根性を入れて、三人分のお茶を配り、頭素下げて優雅に去ったのだった。
パチドの屋敷の門を出た瞬間、グリーンの目の前が金色になり、衝撃と共に地面に倒れた。
チャド・フロラインが、いきなりグリーンに跳び蹴りを放った挙句、倒れ込んだグリーンの上にどっかりと腰を下ろしたのだ。
「こ、これは精霊殿!ご無沙汰をしております。相変わらず、おきれいで・・」
いきなり髪を振り乱した精霊のお尻に潰されても状況把握が出来るグリーンは、流石に現役である。
「社交辞令かましてる場合かー!いつまで、シェドの封印はっとく気だったのよ、このヤブ魔術師!総入れ歯でがたつかせる奥歯もないわ、腹の立つ!!」
「封印とは人聞きの悪い、ちょっとした親心のお守りではありませんか」
この精霊にたのまれた手術で、蘇生した瞬間涙を流す少年に、術をかけた。
心をしめる苦しみを手放せ、自戒と自罰につながる、恨みも焦りも痛みもすべて忘れてしまえと。
おかげでパチドは、纏足をとかれた足のようにもとの活力を取り戻し、こんなに立派にすくすくと・・・ん?こんなに?
地面に倒れて見ると、また一段と大きく見える、愛しの我が子、兼、頼れる部下のパチドが、息を切らして駆けつけて来るではないか。
「チャド・フロライン?本体だよな?!その困ったじいさん離さないでくれ!」
「アイアイ!ほら見なさい、怒っているわよ!嫌われたんじゃないの?」
「そ、そんな!ワシの可愛いパチドが・・」
「あんたのじゃないっつーの!愛着形成期も反抗期も思春期もご一緒してない独身老人が、いきなり毒親かますとか、どんだけヤブよ?!」
フロラインは、よいしょと立ち上がり、グリーンの後ろ襟をひっつかんで引き上げ、同時に到着したパチドが、間髪入れずにグリーンの襟首を掴んだ。
「ミケに、何を言った?!」
「んあ?公妾?・・・あー、戦争捕虜の解放にまぜてやろうかと。ほれ、お前、そろそろ結婚して、孫・・ぐえ」
「それだけでっ、ミケが自分から、出奔すると言ったっていうのか?!」
今にもグリーンをゆすり倒した挙句地面にたたきつけそうな勢いのパチドに、チャド・フロラインがあきれ顔で、「どーどー」と、動物でもなだめるような声をかけるが、グリーンとパチドはヒートアップしていく。
「どこがおかしい?あの女の魔素はよくないモノじゃった!腹を裂かれた魔術師を見たろうが!本来なら生存も許されん黒もどきの魔女だ!目を覚まさんか!」
「ムーガルも、彼女がそんな魔素を吐くまで傷つけた奴らと同類だろうが!引きずって行って、ミケの前で撤回させてやる、来い!」
ゴチンッ
額を突き合わせていた、グリーンとパチドのそれぞれの後頭部に手を添えての、チャド・フロライン発、容赦ない相頭突き。
キュウ
チャド・フロラインは、強制的に大人しくさせた二人を引きずって、屋敷の門をくぐったのだった。
☆
「ミケちゃん、ご無沙汰!」
「チャド・フロライン?!どうしたの?」
大柄な軍人二人をずるずると引きずり、使用人を自ら指図して 2人の靴を脱がせているチャド・フロラインをみて、ミケは目を丸くする。
「ああ、チャドがついに『若いってダメねぇ』とか言い始めたから、助太刀にきたの・・まぁ、覇気のない顔しちゃって。大丈夫よ。すぐに、正気のシェドを迎えにやるわ。お部屋で待っていてあげてちょうだい」
「正気の、シェド?えーと、私、パチドに挨拶したら、ここを出ていかなければならなくなって・・」
「まぁ、そうなの?それもいいわね!私も魔の森も回復してきたから、家も増築したのよ?いつでも帰っていらっしゃい?」
「いえ、あの、パチドの目に触れないとこじゃないといけなくて・・」
「んー、じゃぁ、ミケちゃんのお部屋に、直接魔素回廊をつなげてあげる。好きなだけシェドと追いかけっこをすればいいわ」
そういって、チャド・フロラインはくるくる回る。
そうか、元気に魔の森を出られるくらい回復したんだ。逆に言えば、回復に何年もかかる位、ひどかったのだ。それでも帰っておいでと言ってくれる。
うれしくて、うれしくて、絶対に帰れない。ミケは気合いを入れる。
魔術師たちを裂いたとばれた今、公妾ミケは、いつでも大義名分が付く攻撃目標だ。
二度と、魔の森は焼かない。
「チャドさん、フロライン、ありがとうございました」
ミケは、なるべく元気に見えるような笑顔をつくって、頭を下げる。
「んー。確かにこれは、あんなぺらぺらなパチドじゃ、崩せないわね。まぁ、待っていなさい。すぐに本物の『うちの子』が行くから」
にやりと笑ったチャド・フロラインは、むんっ、と、にぎり拳を作って、呻き始めた二人を強引に追い立てて、応接室へとどつき入れた。
そして、応接室からは、チャド・フロライン、いや、元祖ババァ・フロラインのオラオラ声が響きわたり、使用人がお茶を出し直そうと向かった時には、ドアの隙間からでもわかる程つよく、オーロラのような色合いの光が噴き出していた。
なんの、こんなもので驚くものかと、使用人は、後ずさりたいのをぐっとこらえて、光が消えるまで待っていた。
も、もういいかな?
光が消えて3秒。使用人はそうっと応接のドアを開ける。
中には、再びキュウ、とばかりにテーブルに突っ伏したグリーンと、険しい顔で仁王立ちになった主人と、どっかりとソファに身を沈めた金の髪の精霊がいて。
使用人は、職業魂に根性を入れて、三人分のお茶を配り、頭素下げて優雅に去ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
不器用な大富豪社長は、闇オクで買った花嫁を寵愛する
獅月@体調不良
恋愛
「 御前を幸せにする為に、俺は買ったんだ 」
〜 闇オク花嫁 〜
毒親である母親の為だけに生きてきた彼女は、
借金を得た母の言葉を聞き、
闇オークションへ売られる事になった。
どんな形にしろ借金は返済出来るし、
母の今後の生活面も確保出来る。
そう、彼女自身が生きていなくとも…。
生きる希望を無くし、
闇オークションに出品された彼女は
100億で落札された。
人食を好む大富豪か、
それとも肉体を求めてか…。
どちらにしろ、借金返済に、
安堵した彼女だが…。
いざ、落札した大富豪に引き渡されると、
その容姿端麗の美しい男は、
タワマンの最上階から5階部分、全てが自宅であり、
毎日30万のお小遣いですら渡し、
一流シェフによる三食デザート付きの食事、
なにより、彼のいない時間は好きにしていいという自由時間を言い渡した。
何一つ手を出して来ない男に疑問と不満を抱く日々……だが……?
表紙 ニジジャーニーから作成
エブリスタ同時公開
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
聖女を解雇された私のハーレム奮闘記
小村辰馬
恋愛
聖女として召喚されて3年が経過したある日、国の邪気は根絶されたので、城から出ていくように告げられた。
ついでに新たな命として、隣国の王子の妃候補として、住み込みで入城するよう言い渡される。
元の世界へ帰ることもできず、かと言って働きたくもない。というか、王宮で散々自堕落を繰り返していたので今更働くのとか無理!
だったら入ってやろうじゃないのハーレムへ!
働くことが嫌いな怠惰な主人公が、お付きの騎士と一緒に他国の女の園で頑張ったり頑張らなかったりするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる