ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

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116. ショータイム

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パチドは最近、タイキとの打ち合わせが多い。

フェルニアは、王都からの即時の、それも、瞬間的な撤退をムーガルに要求し、それができる実力があるならば、国境付近に出来てしまった、空間の歪んだ地域の管理権限をムーガルにゆだねると約束した。

空間の歪んだ地域の管理権限。要は、レーブル、ヘルク、ムーガルとの国境管理が自由にできるということだ。
関所を設けて通行料をとることも出来るし、戦を再開する事になれば格段のアドバンテージになる。砦や賠償金よりも、よっぽど将来向けの実益が得られる財産だ。

この約束自体が、あきらかに他国に対する威嚇だった。

瞬間的な撤退というのは、フェルニアがひと晩で王城に陣を張った時のように、軍ごと空間を跨いで見せろということだ。
それができるなら、対等な国と認めて仲よくしよう。他にいくらでも力のない国があるのに、わざわざ魔術ハイレベルの2国が争うこともなかろう、と。

ムーガル王はこの条件を、よろこんでのみ、パチドが、これ見よがしに千人単位で次々とムーガル兵をムーガルに転移させていく。
フェルニアとムーガルは、当たり前のように、ひと晩で自軍を転移させることができるという宣伝。

それは、すでに震えあがっているレーブルとヘルクだけでなく、海を越えた国々に轟きわたるほど、圧倒的な魔術レベルを印象付けた。こんな、当たり前のように空間を操る2国に仲良くされたら、とても太刀打ちできない、と。

ムーガルは、壮絶なはったりに守られながらの軍事的な優位と、継続的な外貨の収入源をえたわけだ。まさしく願ったりかなったり。

一方のフェルニアは、はったりなど不要だった。パチドを抜いたムーガルの内情を知っているのだから、ムーガルを恐れる必要もない。
国境などいつでもやぶれる。いざとなれば迷宮回廊を使ってムーガルの海にでも、柱状節理にでも抜けることが出来る。ただ、切り札になるから、隠しておきたいだけだ。

金山のあるムロの活性化は目を見張る程で、関所の金に頼る必要もない。あとはもう、魔の森を大切にして、ミケを大切にして、勢いのある商業都市を大切にしていけば、安全で豊かで明るい国になる。未来は約束されたも同然だった。

と、まぁ、構想的には両国WinWinの非常に良い落としどころだった。が、実務レベルの仕事はどうしても残る。

ルカもミケも直感型なので。魔の森をずらしたせいでできたひびだらけの不気味な平地を、道にして、ムーガルに割譲して、防御と管理で金を稼がせるための仕掛けを一度に作り出そう、などという緻密な計算になると、もうタイキの独壇場。

そしてタイキは、ムーガルとの国家間の下準備をパチド以外と行う気は一切ないし、ムーガル側も人材がいないのでパチドに任せきりだ。
フェルニアの屋敷にとどまったパチドが、フェルニアの役所と化した王城に普通に登城して、公務員のように働いている。

そんな訳で、膨大なデスクワークに埋まって時間が遅くなり、パチドとタイキは成り行きで一緒に晩飯を食って。
店を出た時には、すでに、花街の呼び込も真っ盛りの時間だった。

昼間とは明らかに装いを変えた街に、突如として現れる立て看板。
いかにも、裏です、夜です、淫靡です、と主張せんばかりの字体に、縛られて涙を流している女の絵。
内容はとても分かりやすく。

本日の娼館Mの公開ショーの演目は、
『主演リンナ。究極の快感!直接子宮をまさぐられてイキまくる女達!』
1回目 20:00~
2回目 23:00~
ぜひいらしてください

うーむ。
パチドはでかい図体を隠そうともせず、看板の真ん前に陣取って、しげしげとその文字を見ていた。

タイキは、一瞬通り過ぎたが、パチドにつられて止まる。
「興味が、おありですか?」

「正直、ある。子宮って内臓だろう?まさぐれるものか?触れられるなら治癒もできるよな?」

ふむ。そんな感じで、タイキもまじまじと看板を見る。
タイキは、パチドの次くらいには治癒が上手い自負があるし、ソナとパチドのやり取りを盗聴してしまったこともあり、おおよそパチドが何を考えているかわかる。
ミケとの子どもを諦めていない。

「俺も、色々あってこっち方面精進しないとなんです。ショーっていう位だから、触れなくても見ればわかるように構成されていますよね。入るなら一緒します?」

かなり見目の良い二人が恥じらうでもなく、でーんと、看板を見据えているのは相当目立ったようだ。呼び込みが飛んできて、ぜひ良い席にと言いながら引っ張っていく。

そして1時間と少々の後。

2人は帰り道を辿ることすらできず、屋台で冷たい水を飲みながらうなだれていた。

「何というか、ディープすぎませんか。すでに性行為の話でしたっけ?というレベルに記憶が飛び飛びです」

青い顔で、タイキが言う。

「・・・すまん。女『達』って複数で書いてあったし、1日2回公演で主演同じだったから、もう少し一般的な話かと」

頭を下げたままパチドが応じる。

「ええ、俺もそう思いました。自分から入りましたし、むしろ誘ったのは俺の気もしますが、ちょっと、ダメージが」

そんな二人組に、よ、とばかりに声をかけてくる男がいた。

「久しぶりだな、パチド。ミケとはよろしくやっているか?」

レンツだった。
もっとも上手に占領期を乗り切ったフェルニア貴族と言われ、その後の新フェルニア期でもうまく立ち回っている。

性嗜好は歪んでいるものの、まぁ、ライヒのように取り返しのつかないことは起こさないし、同意のある相手としかことに及ばないし、何より、調子に乗った客が無体をしないようにパチドと一緒に治安維持にも取り組んだこともあって。花街ではそこそこの人望を得ている。

「久しぶり、レンツ。せっかく会えたが今日は、酒は無理そうだ・・胃が受け付けない」

そういって、パチドが例の看板に目をやる。
レンツは、とくに珍しがるでもなく言葉をつないだ。

「ああ、娼館Mのショーを見て来たのか?ちょっとストーリーが雑だよね。でも、主演の娘は初々しくて、良いでしょう?」

「ストーリー、あったか?」
「初々しい・・ってなんでしたっけ?」

ほの暗くつぶやいた二人を、レンツが瞬き多めに見つめる。

「なる、ほど。最初に見るにはちょっと刺激つよめか。確かに、恋人といくなら、もうちょっと女性受けするショーの方がいいかもしれないな」

「女性受け、のショーもあるわけですね」
「だからってこのデートコースは無理だ」

その時、見覚えのある顔が、娼館Mから走り出してきた。
きょろきょろと周りを見回し、明らかに誰かを探している風情なのだが、レンツは気軽に声をかける。

「リンナ!こっちだ!今日は随分すごい客がきたんだな!」

「レンツさん!と、パチド様、タイキ様!本日はご来場ありがとうございました!」

勢いよくぴょこんと下げられた頭の髪の色は、あきらかにさっきまでのショーで主演をやっていた娘のもので。
あどけない表情と、溌剌とした動きと。化粧を全部洗い流してしまった今現在を見て言うなら、確かに、かわいらしくて『初々しく』もある。

「おう。こんな大物がそろって見に来たとなれば、成功間違いなしだな。おめでとさん」

「はい!もう、反響が凄くて!責任者が飛んできて、ショーのギャラを倍にしてくれるって!今、チラシを大急ぎで刷って、今日は、真夜中にファンサービスのショーが追加です!」

嬉しそう、だな。パチドが恐る恐る会話に参加する。

「ま、夜中、まで働くのか。あー、体、は大丈夫なのか?」
「はい!元気です!あ、ロイの方は、緊張したみたいで今胃薬飲んで休んでいて、ご挨拶できず申し訳ありません」

ロイ、は多分、女『達』のもう一方だ。
ショーには女性2人しかでなかった。構成は、ロイがリンナを様々な器具でぐちゃぐちゃになるまで嬲り、最後はロイがリンナの蜜口に手首まで埋めてガツガツ犯しながら子宮を揺らしてイカせるという、かなり専門領域?のものだった。

が、そうか、ロイは胃薬をのんで寝ていて、リンナは元気に走り出してこられるのか。
世の中奥が深い。

リンナの元気な様子を見て若干浮上したタイキが、失礼に当たらないといいのだが、と前置きしながら質問する。

「あれは、本当に気持ちが良い・・?すみません、その、初回で、実体験も少ないので、フィクション性の判断が・・」

リンナが、ぱちくり。

「えーと、私の場合は、露出願望もありますし、相手のロイは、恋人、なので。大抵のことは、気持ちが良いです、けど。タイキ様、お噂では、あのソナさんと付き合われていると」

「はぁ、おおむね事実に近い、ですね。ソナと知り合いですか?」

「いえ、まさか!でも、ソナさんは、私達の夢で、希望で、崇拝対象ですから。そう、ですか。ソナさんてば、すごい・・」

何が凄いのだかよくわからないが、リンナはしきりに感心していた。

「その、ずいぶん泣いていただろう?辛そうな時間の方が長かった」

「あー、それは、今回はテーマが子宮だったので仕方ないです」

「?」

「辛くなるくらい気持ちが良いのが続いたり、ひどく焦れたりしないと、子宮が届くところまで移動しないから、ショーがわざとらしくなっちゃいます。実際、今日の1回目公演は失敗しちゃったし」

「え、内臓、動くのか?!」

「女性のナカって割と可動範囲広いですよ?」

「べ、勉強になった、ありがとう」

リンナはかわいらしい顔で笑った後、時計をみて、戻らなきゃ、とあわてる。ファンサービスのショー準備らしい。
レンツもショーの責任者によばれて、2人は屋台を後にした。

リンナは、もう一度、パチドとタイキにお礼を言った去り際に、振り返って大声で叫んだ。

「あのっ。大好きな人とで、意志の疎通しながらだったら、大抵うまくいきます!もう、一緒のコップで飲みもののんだだけでも、ハイタッチでも、全部気持ち良いですから!」

そ、そうか。竹を割ったようなカテゴリー分けだな。回し飲みもハイタッチも内臓の位置が変わる程の専門領域も一緒とは。
それでも応援してくれたのはなんとなくわかるので、タイキとパチドは、座ったまま、軽く手を上げた。
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