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飛来物再来
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ルウイとともに、水を汲もうと川べりに出たときだ。
バチバチバチっ
虚空に銀色の火花がいくつも散った。
これは、前に一度見た。肩から背中にひどい衝撃が走った時だ。
しなだれかかっていたルウイを引き離そうとする。何が来るかしらないが、くっついていればルウイにも当たりかねない。
だが、ルウイが鋭く制した。
「離すな!敵に狙われたように見える!」
周囲を見ると、兵士達の顔が絶望から恐慌の表情に移行するところだった。
『待ち伏せされたのか?』『奇襲?』
身一つで野営地から転がり出ようとする兵がいる。
装備も持たず慌ててここから出ればそのまま凍死だ。
まずい。
「落ち着け!集まれ!敵襲ではない!」
大声を張り上げたが、振り向いたのは何人か。
同時に。ルウイがアルトの肩を支えにまっすぐたった。
かぶりものを打ち捨て、緑がかった銀髪が広がる。
“ま・て”
頭の中に響き渡る、月に愛された声。
振り向いた兵たちは、雷に打たれたようだった。
息を呑み直立不動でルウイを見た。
その異様な様子に、他の兵士達が、反射的にルウイを振り返る。
“き・け”
直立不動の第二群ができた。
役に立たないはずの能力を全開で使ったせいか、熱のせいか、ルウイの目が光り輝き、肩が激しく上下する。
その迫力たるや、どこの王族の比でもなかった。
バチッバチッ
兵士たちの目に、銀色の火花が映る。
しかし、その火花は、アルトとルウイだけを囲んでいることはあきらかだった。
ルウイが、かすれ気味の声を精一杯張り上げる。
「敵襲にあらず!天啓である!明日そなたらは勝利する!」
銀の火花はまたたきを強め、アルトは気が気ではなかったが、この状態でルウイを突き飛ばしたら、軍は崩壊だ。
「敵兵の騎馬は、夜明けとともに東に駆け去るだろう」
ルウイが少し体をずらした。
ひゅっ。
ドッ。
風を切る音と、ルウイの腰に回している手の甲と手首から上に鋭い痛み。そして、ルウイを通じた間接的な衝撃。
ルウイはよろめくと同時に、アルトに囁いた。
「支えて!」
「おい・・・」
ルウイは倒れなかった。
聞き惚れる兵士に向かってしゃべり続ける。
「怒れる大気がケセルの兵を襲う。彼らは呼吸もままならず、馬もなく、そなたたちに追いすがることもない!」
銀色の火花は、嘘のように静まった。
遠目にはわからなかっただろうが、アルトはルウイの衣に血が広がっていくのを感じていた。
間違いない、飛来物はルウイに刺さったのだ。
「神は王子に、敵軍の呼吸が奪われる時を教えるであろう!」
兵士たちは金縛りが溶けたように、腕を突き上げ、歓呼の声を上げた。
その背後で、アルトの右手には血の滴る感覚がとまらない。ルウイのものか、自分のものか。
ルウイの傷は一刻を争うかもしれない。
それなのに、ルウイはアルトを突き放すようにして、後ずさっていく。
天啓なのだ。血を見せたくはない。そのまま後ろの川に入っていく。
「おいっ」
ふざけんな、死ぬぞ!水は切れるように冷たい。
アルトに兵の目を気にする余裕はなかった。
水を蹴散らしてルウイに追いすがろうとするが、さすがに直属の部下の動きは速かった。普段威圧的に接していないツケというべきか、アルトは三人がかりで羽交い絞めにされた。
ルウイは流れを使って川の中に入っていく。
足をとられて水中に膝をつくと、水はもう、胸の下までくる。
どくどくいう傷よりも、残留思念がうるさい。
“宇宙船に乗せた女だ。あの妊婦の子が生きている!他はもう絶滅したのだぞ!”
傷は脇腹で、致命傷ではない。デプリはすぐに引き抜くつもりだった。
なのに。
宇宙船にのせた妊婦?
ありがたいとは思わないが、物理的な自分の母が、神の船に乗っていた妊婦だったのは事実だ。どうあっても続きが気になる。
ルウイは脇腹に刺さっている異物の大きさを確認すると、そのまま腹の中に圧し込んだ。
さすがに痛くて、脈が1回打つ前にはやっぱりやめておけばよかったと、軽く後悔する。
だが、出血自体は引き抜いてしまうよりも少ない。血が川にうすく流れていった。
手の中に残った残滓をみる。あ、変形していく・・あの、金属もどきだ。
ああ、ミセル、間違いない。このデプリは別文明のものだ。神の国はきっと滅んだ。
神の船がこわれれば、もう、太陽が割れることすらなくなるだろう。
帯を外し、デプリを押し込んだ傷の上に巻きなおす。きつく。
部下を振り払ったアルトが追いついてくる。そんなに慌てなくても。
『体が冷えたら止血になるからいいんだ』と、軽く言ってやろうと思ったが、声が出ない。
「上がるぞ。あと怪我を見せろ。死ぬぞ。」
答えないルウイをアルトが抱き上げる。
何度かゆっくりと息を吐くと、自然にうめき声が出て、ああこうやってしゃべればよいのかと感心する。
「兵には、禊だったと言って」
「自分のことを心配しろ」
いつもの自分とは違う低い声だが、判別できなくはないらしい。
「怪我した兵と、動ける兵を分けて。あたしの馬に食べ物がつんである。チョコレートしかないけど。王女の間から取ってきて改良したから超ハイカロリー」
熱のせいか、傷のせいか。
ルウイの喉が異様な音を立てる。
「もう黙れ」
ルウイはしゃべり続ける。
「動ける奴には酒と興奮剤いりの赤いやつ、怪我人には鎮痛剤と抗生剤いりのベージュね。私、と、一緒に来た娘たちに伝えれば・・・わかる」
岸に戻ると、ルウイについてきた女たちが、テキパキとことを進めていく。
ルウイは安心したようにアルトの腕の中で力を抜いた。
ルウイが、チョコレートと呼んだ食料の効果は凄まじかった。
手のひらに転がるたった三粒の小さな塊で、空腹が吹き飛び、体に熱がみなぎる。
実体験した兵士たちは、熱狂の渦と言っても過言ではない興奮状態だ。
テキパキ女・・・名前はポリンといったか・・・は、こともなげに言った。
「半分以上残りました。うちはルウイ様がこの状態ですから、王女の間・・、いえ、重いものはどうせ捨てます。家族のお土産にでもしますか?」
「感謝します。兵に配って、好きにしろと伝えて・・・いただけますか。」
ルウイの側近を警戒する気持ちは全く起こらなかった。一緒にルウイを洞窟の一番暖かいところに連れて行った。
火を炊き、手足をさするが、ルウイの意識は断続的に遠のこうとした。湯すらろくに飲み込めない。
ルウイの意識が遠のくと、小さいながら生々しい声が、アルトの頭を満たした。
“奪われるな、隠せ。いくらになると思っている”
びくっ。前回とは違い、執着がルウイに向いているのがわかる。
冷や汗がじっとりとにじみだした。
今のは、俺?
いや、違う、あいつが『ぬめぬめ』とよんだ、あれだ。手の甲に破片が残っているから。なぜ、その執着がルウイに向かっているのかわからないだけで。
自分に言い聞かせるが、動悸がおさまらない。
前の時は、どれだけ大声でも自分の感情とはっきり別物だと一蹴できた。
なぜ、今になって。しかも、こんなにもか細い声を、わざわざ探し出すように聞くとは情けない。
声が止み、ルウイの意識が戻ったのがわかる。
ルウイはアルトの顔色を見たのだろう、黙ってアルトの右手を引き寄せる。
傷自体はそれほどひどくはない、派手な擦り傷のようだ。
ただ、取り出すと滑らかに変形する変な金属が、ザラザラの砂粒のように砕けて、手の甲から上腕部の手首付近に入り込んでいる。
「あんたにも、当たったのね」
ルウイが、傷口を吸おうとする。
「やめろ。たいしたことないから」
手を引っ込める。
いっそ、肉ごと削り落とそうか、と考えないこともなかった。
だが、戦闘を前に、利き手の肉を削るほど、こんなか細い声に怯えたと?
認めたくなかった。ましてや、ルウイに気づかれるなど。
「ごめん」
ルウイがわびる。
「嫌味か。とばっちりはお前だろう。破片が小さいせいか、声も小さい。心配するな」
「戦闘が終わったらすぐ取り出すから」
「いい。これぐらいなら、うちの医者でも除去できる。お前、早くミセルのところへ帰れ。あいつならなんとかできるだろう?」
俺と違って。
「私を連れていた方が便利だよ。ぬめぬめ対策」
そんなわけにいくか。こいつが頼れるのは俺ではない。
「何か今度のは、色ボケてるみたいから。いざとなったら適当に周りの女で・・」
ルウイの動きが瞬間止まる。
「うそばっか」
今度の残留思念は色欲無関係だろうに。
「疑うのかよ、こちとら王子さまだぞ、モテそうとか思わないのか」
「べーつーに?」
ルウイは笑いそうになり、笑った時の傷の痛みを想像して、やめた。
「・・・生きていろよ」
「どうかなぁ。失恋のショックで力尽きちゃうかも?」
冷たい不安が足元から駆け上って、アルトの喉を締め上げる。それなのにルウイはあっさりと話題を変えた。
「あ、それより、何ばらまく予定だったの?毒?」
高度のあるここから、崖を伝って吹き降ろす風。この風に乗せれば、大抵のものはサクシアの野営地に届く。
「毒百草と火矢だ。ここから少し下れば、10騎は並べる平らな場所がある。奴らを十分にいぶしてから突撃する」
毒百草。乾燥させて燃やすと、煙で神経毒をまき散らす根性のある毒草だ。
「うおーい。効果はあると思うけど、風速計算した?駆け抜ける前に交戦挑まれたら味方が毒吸うよ。全力疾走で抜けるだけでもギリギリ、止まった瞬間死ぬって」
「・・・仕方ない。もう兵の体力は限界だ。来るかもわからない呼吸マスクの補給を待つ余裕はない」
なるほど、簡易ガスマスクがあれば悪い作戦ではないだろう。
「何を待ってるかと思えば・・そんな大事なパーツが届いてないのに決行するの?」
「兵を無駄死にさせる気はない。血路は俺が・・・」
言い募ろうとするアルトの額にでこぴん。
「そっち向いて頑張るなってば、脳筋。致死毒じゃなきゃいいんでしょ。いいものあげるから」
「いいもの?」
バチバチバチっ
虚空に銀色の火花がいくつも散った。
これは、前に一度見た。肩から背中にひどい衝撃が走った時だ。
しなだれかかっていたルウイを引き離そうとする。何が来るかしらないが、くっついていればルウイにも当たりかねない。
だが、ルウイが鋭く制した。
「離すな!敵に狙われたように見える!」
周囲を見ると、兵士達の顔が絶望から恐慌の表情に移行するところだった。
『待ち伏せされたのか?』『奇襲?』
身一つで野営地から転がり出ようとする兵がいる。
装備も持たず慌ててここから出ればそのまま凍死だ。
まずい。
「落ち着け!集まれ!敵襲ではない!」
大声を張り上げたが、振り向いたのは何人か。
同時に。ルウイがアルトの肩を支えにまっすぐたった。
かぶりものを打ち捨て、緑がかった銀髪が広がる。
“ま・て”
頭の中に響き渡る、月に愛された声。
振り向いた兵たちは、雷に打たれたようだった。
息を呑み直立不動でルウイを見た。
その異様な様子に、他の兵士達が、反射的にルウイを振り返る。
“き・け”
直立不動の第二群ができた。
役に立たないはずの能力を全開で使ったせいか、熱のせいか、ルウイの目が光り輝き、肩が激しく上下する。
その迫力たるや、どこの王族の比でもなかった。
バチッバチッ
兵士たちの目に、銀色の火花が映る。
しかし、その火花は、アルトとルウイだけを囲んでいることはあきらかだった。
ルウイが、かすれ気味の声を精一杯張り上げる。
「敵襲にあらず!天啓である!明日そなたらは勝利する!」
銀の火花はまたたきを強め、アルトは気が気ではなかったが、この状態でルウイを突き飛ばしたら、軍は崩壊だ。
「敵兵の騎馬は、夜明けとともに東に駆け去るだろう」
ルウイが少し体をずらした。
ひゅっ。
ドッ。
風を切る音と、ルウイの腰に回している手の甲と手首から上に鋭い痛み。そして、ルウイを通じた間接的な衝撃。
ルウイはよろめくと同時に、アルトに囁いた。
「支えて!」
「おい・・・」
ルウイは倒れなかった。
聞き惚れる兵士に向かってしゃべり続ける。
「怒れる大気がケセルの兵を襲う。彼らは呼吸もままならず、馬もなく、そなたたちに追いすがることもない!」
銀色の火花は、嘘のように静まった。
遠目にはわからなかっただろうが、アルトはルウイの衣に血が広がっていくのを感じていた。
間違いない、飛来物はルウイに刺さったのだ。
「神は王子に、敵軍の呼吸が奪われる時を教えるであろう!」
兵士たちは金縛りが溶けたように、腕を突き上げ、歓呼の声を上げた。
その背後で、アルトの右手には血の滴る感覚がとまらない。ルウイのものか、自分のものか。
ルウイの傷は一刻を争うかもしれない。
それなのに、ルウイはアルトを突き放すようにして、後ずさっていく。
天啓なのだ。血を見せたくはない。そのまま後ろの川に入っていく。
「おいっ」
ふざけんな、死ぬぞ!水は切れるように冷たい。
アルトに兵の目を気にする余裕はなかった。
水を蹴散らしてルウイに追いすがろうとするが、さすがに直属の部下の動きは速かった。普段威圧的に接していないツケというべきか、アルトは三人がかりで羽交い絞めにされた。
ルウイは流れを使って川の中に入っていく。
足をとられて水中に膝をつくと、水はもう、胸の下までくる。
どくどくいう傷よりも、残留思念がうるさい。
“宇宙船に乗せた女だ。あの妊婦の子が生きている!他はもう絶滅したのだぞ!”
傷は脇腹で、致命傷ではない。デプリはすぐに引き抜くつもりだった。
なのに。
宇宙船にのせた妊婦?
ありがたいとは思わないが、物理的な自分の母が、神の船に乗っていた妊婦だったのは事実だ。どうあっても続きが気になる。
ルウイは脇腹に刺さっている異物の大きさを確認すると、そのまま腹の中に圧し込んだ。
さすがに痛くて、脈が1回打つ前にはやっぱりやめておけばよかったと、軽く後悔する。
だが、出血自体は引き抜いてしまうよりも少ない。血が川にうすく流れていった。
手の中に残った残滓をみる。あ、変形していく・・あの、金属もどきだ。
ああ、ミセル、間違いない。このデプリは別文明のものだ。神の国はきっと滅んだ。
神の船がこわれれば、もう、太陽が割れることすらなくなるだろう。
帯を外し、デプリを押し込んだ傷の上に巻きなおす。きつく。
部下を振り払ったアルトが追いついてくる。そんなに慌てなくても。
『体が冷えたら止血になるからいいんだ』と、軽く言ってやろうと思ったが、声が出ない。
「上がるぞ。あと怪我を見せろ。死ぬぞ。」
答えないルウイをアルトが抱き上げる。
何度かゆっくりと息を吐くと、自然にうめき声が出て、ああこうやってしゃべればよいのかと感心する。
「兵には、禊だったと言って」
「自分のことを心配しろ」
いつもの自分とは違う低い声だが、判別できなくはないらしい。
「怪我した兵と、動ける兵を分けて。あたしの馬に食べ物がつんである。チョコレートしかないけど。王女の間から取ってきて改良したから超ハイカロリー」
熱のせいか、傷のせいか。
ルウイの喉が異様な音を立てる。
「もう黙れ」
ルウイはしゃべり続ける。
「動ける奴には酒と興奮剤いりの赤いやつ、怪我人には鎮痛剤と抗生剤いりのベージュね。私、と、一緒に来た娘たちに伝えれば・・・わかる」
岸に戻ると、ルウイについてきた女たちが、テキパキとことを進めていく。
ルウイは安心したようにアルトの腕の中で力を抜いた。
ルウイが、チョコレートと呼んだ食料の効果は凄まじかった。
手のひらに転がるたった三粒の小さな塊で、空腹が吹き飛び、体に熱がみなぎる。
実体験した兵士たちは、熱狂の渦と言っても過言ではない興奮状態だ。
テキパキ女・・・名前はポリンといったか・・・は、こともなげに言った。
「半分以上残りました。うちはルウイ様がこの状態ですから、王女の間・・、いえ、重いものはどうせ捨てます。家族のお土産にでもしますか?」
「感謝します。兵に配って、好きにしろと伝えて・・・いただけますか。」
ルウイの側近を警戒する気持ちは全く起こらなかった。一緒にルウイを洞窟の一番暖かいところに連れて行った。
火を炊き、手足をさするが、ルウイの意識は断続的に遠のこうとした。湯すらろくに飲み込めない。
ルウイの意識が遠のくと、小さいながら生々しい声が、アルトの頭を満たした。
“奪われるな、隠せ。いくらになると思っている”
びくっ。前回とは違い、執着がルウイに向いているのがわかる。
冷や汗がじっとりとにじみだした。
今のは、俺?
いや、違う、あいつが『ぬめぬめ』とよんだ、あれだ。手の甲に破片が残っているから。なぜ、その執着がルウイに向かっているのかわからないだけで。
自分に言い聞かせるが、動悸がおさまらない。
前の時は、どれだけ大声でも自分の感情とはっきり別物だと一蹴できた。
なぜ、今になって。しかも、こんなにもか細い声を、わざわざ探し出すように聞くとは情けない。
声が止み、ルウイの意識が戻ったのがわかる。
ルウイはアルトの顔色を見たのだろう、黙ってアルトの右手を引き寄せる。
傷自体はそれほどひどくはない、派手な擦り傷のようだ。
ただ、取り出すと滑らかに変形する変な金属が、ザラザラの砂粒のように砕けて、手の甲から上腕部の手首付近に入り込んでいる。
「あんたにも、当たったのね」
ルウイが、傷口を吸おうとする。
「やめろ。たいしたことないから」
手を引っ込める。
いっそ、肉ごと削り落とそうか、と考えないこともなかった。
だが、戦闘を前に、利き手の肉を削るほど、こんなか細い声に怯えたと?
認めたくなかった。ましてや、ルウイに気づかれるなど。
「ごめん」
ルウイがわびる。
「嫌味か。とばっちりはお前だろう。破片が小さいせいか、声も小さい。心配するな」
「戦闘が終わったらすぐ取り出すから」
「いい。これぐらいなら、うちの医者でも除去できる。お前、早くミセルのところへ帰れ。あいつならなんとかできるだろう?」
俺と違って。
「私を連れていた方が便利だよ。ぬめぬめ対策」
そんなわけにいくか。こいつが頼れるのは俺ではない。
「何か今度のは、色ボケてるみたいから。いざとなったら適当に周りの女で・・」
ルウイの動きが瞬間止まる。
「うそばっか」
今度の残留思念は色欲無関係だろうに。
「疑うのかよ、こちとら王子さまだぞ、モテそうとか思わないのか」
「べーつーに?」
ルウイは笑いそうになり、笑った時の傷の痛みを想像して、やめた。
「・・・生きていろよ」
「どうかなぁ。失恋のショックで力尽きちゃうかも?」
冷たい不安が足元から駆け上って、アルトの喉を締め上げる。それなのにルウイはあっさりと話題を変えた。
「あ、それより、何ばらまく予定だったの?毒?」
高度のあるここから、崖を伝って吹き降ろす風。この風に乗せれば、大抵のものはサクシアの野営地に届く。
「毒百草と火矢だ。ここから少し下れば、10騎は並べる平らな場所がある。奴らを十分にいぶしてから突撃する」
毒百草。乾燥させて燃やすと、煙で神経毒をまき散らす根性のある毒草だ。
「うおーい。効果はあると思うけど、風速計算した?駆け抜ける前に交戦挑まれたら味方が毒吸うよ。全力疾走で抜けるだけでもギリギリ、止まった瞬間死ぬって」
「・・・仕方ない。もう兵の体力は限界だ。来るかもわからない呼吸マスクの補給を待つ余裕はない」
なるほど、簡易ガスマスクがあれば悪い作戦ではないだろう。
「何を待ってるかと思えば・・そんな大事なパーツが届いてないのに決行するの?」
「兵を無駄死にさせる気はない。血路は俺が・・・」
言い募ろうとするアルトの額にでこぴん。
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