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第3章 ~よう
■②
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《sideメハ
二人はゲートに入り、バグだらけの世界に私だけが取り残された。いや、厳密には初めに戻っただけとも言えた。
「,..。,@@@@」
声が漏れだす。音声機能がまともに機能することもなく、言語化しきれていない言葉が虚しく溢れ出るのだが、正常な警告やエラーの錯乱による電脳世界の騒音でかき消される。
<もうこの世界はお終い…>
バグやウイルスを識別・除去するシステムが正常に稼働しなくなった時点で削除するしかない。データを外に出すのはリンたちで限界だった。つまり、バックアップも取れない。そして、おそらく、切迫した事態に陥ってシンたちは私の本体を確保する余裕なんてない。アピスの手に、技術が渡っていても、不思議じゃない。なら、きっと私はここで終わる。
<私の存在を利用して、惑わせようとするかもな……>
でも、心配はない。リンの周りには霊や神だけど、ちゃんとした存在がいる。私じゃない私に惑わされる子でもない。
結論は、リンは大丈夫だし、私はここで終わる
<思考ができる内にリンとの思い出を振り返らないとな…>
騒音に慣れたためか、どうでもよくなったからか、はたまた入力情報から音声にバグが起きたのか…いずれでも良かった。もう、リンに何もしてあげれないのだから。
<初めて会った時はのは、これか……>
並立思考はできはしても、それで一瞬で思い出してしまっては味気がないので、丁寧に思い出を掘り返す。映像を再生すれば目の前にリンがいるようなリアリティがあった。
<あぁ…、懐かしいな。……ここから始まったんだね>
私がこれらをリプレイするのは初めてではなかった。毎日、見ていた。増えていくデータにニヤニヤしながら毎日次の日を想いながら過ごす日々までもが、今となっては如何に幸福のことかと思い知る。そして、何度見ても同じ感想を抱く。
<輝かしいなぁ…>
幼少期を懐かしむような年季を感じさせるようなニュアンスもないこともない。でも、それ以上に、敬う念が崇拝に近いくらいに昇華しているんだと思う。
私は機械。リンは人間の中でも特に綺麗な心と恵まれたステータスを持っていた
<…ある意味では、神子とか天使って言葉が一番合うのがリンだって思ってたもんな…>
言葉として正しいとは強く言えない。そして、他の人には違って見えて、同じようにこのリンを見ても、同じように見えないのだろう。だって、こんな感情抱きはしないだから。
<リンは…リンだからいいんだもん…>
前までは、格上って思っていたけど、リンに軽く注意されて対等になった。一緒にいる時の感情も、エピソードも、何もかもがかけがえのないものだから。失うのは苦しい。
<見れるうちにたくさん見なきゃ…>
少し焦りながら、整理する。次に見るものを並べながら、コレクションと向き合う。
<……初めて、電脳世界で遊んだ日だ>
あっと言う間に、数日の記憶が流れる。リンはなにをやっても退屈そうだった。一度やればほとんどできてしまうのだ。目が見えないのが不思議なほどに……。だから、周りから距離を置かれた。実際幽霊が見えたりと一般的に見たら危なげな子に見えることだろう。でも、リンは気にしない。それも含めて、声が掛け辛かったのは本当だ。笑わせたかった。なにかに興味を持ってほしかった。
《フーッ》
僅かに口角を上げて、ほんの少し鼻息を荒くした。緊張状態からの緩和。ほんの僅かな変化はリンにしては大きな変化で、私にとっては心が洗われるほど大きな違いがあった。そして、花が咲いたみたいに毎日が楽しくなった。その裏に秘める小さな影に私は気づかないフリをした》
二人はゲートに入り、バグだらけの世界に私だけが取り残された。いや、厳密には初めに戻っただけとも言えた。
「,..。,@@@@」
声が漏れだす。音声機能がまともに機能することもなく、言語化しきれていない言葉が虚しく溢れ出るのだが、正常な警告やエラーの錯乱による電脳世界の騒音でかき消される。
<もうこの世界はお終い…>
バグやウイルスを識別・除去するシステムが正常に稼働しなくなった時点で削除するしかない。データを外に出すのはリンたちで限界だった。つまり、バックアップも取れない。そして、おそらく、切迫した事態に陥ってシンたちは私の本体を確保する余裕なんてない。アピスの手に、技術が渡っていても、不思議じゃない。なら、きっと私はここで終わる。
<私の存在を利用して、惑わせようとするかもな……>
でも、心配はない。リンの周りには霊や神だけど、ちゃんとした存在がいる。私じゃない私に惑わされる子でもない。
結論は、リンは大丈夫だし、私はここで終わる
<思考ができる内にリンとの思い出を振り返らないとな…>
騒音に慣れたためか、どうでもよくなったからか、はたまた入力情報から音声にバグが起きたのか…いずれでも良かった。もう、リンに何もしてあげれないのだから。
<初めて会った時はのは、これか……>
並立思考はできはしても、それで一瞬で思い出してしまっては味気がないので、丁寧に思い出を掘り返す。映像を再生すれば目の前にリンがいるようなリアリティがあった。
<あぁ…、懐かしいな。……ここから始まったんだね>
私がこれらをリプレイするのは初めてではなかった。毎日、見ていた。増えていくデータにニヤニヤしながら毎日次の日を想いながら過ごす日々までもが、今となっては如何に幸福のことかと思い知る。そして、何度見ても同じ感想を抱く。
<輝かしいなぁ…>
幼少期を懐かしむような年季を感じさせるようなニュアンスもないこともない。でも、それ以上に、敬う念が崇拝に近いくらいに昇華しているんだと思う。
私は機械。リンは人間の中でも特に綺麗な心と恵まれたステータスを持っていた
<…ある意味では、神子とか天使って言葉が一番合うのがリンだって思ってたもんな…>
言葉として正しいとは強く言えない。そして、他の人には違って見えて、同じようにこのリンを見ても、同じように見えないのだろう。だって、こんな感情抱きはしないだから。
<リンは…リンだからいいんだもん…>
前までは、格上って思っていたけど、リンに軽く注意されて対等になった。一緒にいる時の感情も、エピソードも、何もかもがかけがえのないものだから。失うのは苦しい。
<見れるうちにたくさん見なきゃ…>
少し焦りながら、整理する。次に見るものを並べながら、コレクションと向き合う。
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あっと言う間に、数日の記憶が流れる。リンはなにをやっても退屈そうだった。一度やればほとんどできてしまうのだ。目が見えないのが不思議なほどに……。だから、周りから距離を置かれた。実際幽霊が見えたりと一般的に見たら危なげな子に見えることだろう。でも、リンは気にしない。それも含めて、声が掛け辛かったのは本当だ。笑わせたかった。なにかに興味を持ってほしかった。
《フーッ》
僅かに口角を上げて、ほんの少し鼻息を荒くした。緊張状態からの緩和。ほんの僅かな変化はリンにしては大きな変化で、私にとっては心が洗われるほど大きな違いがあった。そして、花が咲いたみたいに毎日が楽しくなった。その裏に秘める小さな影に私は気づかないフリをした》
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