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8_策略家、笑う!!
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8_策略家、笑う!!
「さて、極まったでしょ?」
光海さんはそう言った。
今日の放課後は、アルバイトのシフトに入っていないこともあって、蔵山は弓道部の部活動に出ていて。喫茶店『ウィル・ベルジュ』のホールにはシフトに入っていた光海さんと宮坂さん。それに、僕が出ていた。
「橋本店長? 僕はキッチンじゃなくていいんですか?」
僕はホールに出るのが初めてなので、店長の橋本さんにそう聞いたのだけれど。
「君は対人スキルを磨くために、この喫茶店でアルバイトを始めたんだろう? 厨房調理のスキルは、人手が足りない時のヘルプが出来るくらいになっていればいいさ」
橋本店長は、そう言って笑うのであった。
「……はい! 頑張ります!!」
といって、僕がホールに出ると。
「さてっと、正時。ちゃんとホールのやり方、教えてあげるからね」
と光海さんが僕に近づいてきて。
「ね? 見事に極まったでしょ? 私の策略は」
と、僕の耳に言葉を転がし入れてきたんだ。
「……? 策略? 何のことです?」
僕がそう聞くと。光海さんは眼鏡の奥からなんか悪戯猫みたいに、輝きのいい視線を送り込んでくると……。
「キスもしたし、もう事実上付き合ってるようなもんでしょ? 正時はあの蔵山さんとさ?」
あ、その事か。
実際、蔵山……、いや水樹は。
一週間前にこの店で働くと言い始め、実際にそれを始めてから。
僕との距離を急速に詰めつつある。
遠因というか直接原因というかは、まあ何となく僕にはわかっていて。
あの時。光海さんが僕の事を水樹から取り上げんばかりの論陣を張って、水樹に僕の価値を再確認させたことが大きいというのは。幾ら僕が鈍くても分かる事だった。
「うふふふふふ~。私はね、まぁ。策略家でもあるのよ。実際に先週、ああ云う風に蔵山さんを論破しかけて、あの子を焦らせること。私がいかにも、正時の事を恋愛対象として欲しがっているかのような、そんな言葉を、ね。それを入れるとどういう行動をあのタイプの子が取るかは、大体わかっててさ♪」
ああ、やっぱりそうか。そうだったんだ。
光海さんは、一幕を演じて見せたんだ。僕の恋を成就させるために。
そもそも、先週のこの店での話し方は、おかしかったもんな。
僕の恋愛の軍師になると言ったのに、光海さん自体が僕を欲しがるような発言は。
で、こうなってみればわかるけど。
それらは全て、水樹の僕に対する積極行動を行わせるための策略だったみたいだ。
「あれは、全部演技で。光海さんは最初っから、僕のことを譲りたくないという態度を水樹に見せて。あの子を焦らせて行動させることが狙いの、行いだったんですね?」
「ふふん♪ ザッツ・ライト。如何にもその通りよ」
「いや……。ホント怖いですね、光海さんって……」
「舐めちゃアカンよ、お姉さんをね」
光海さんはそう言って、いたずらっぽい笑顔満点のウインクをしてきた。
* * *
「いらっしゃいませー!! お客様、何名様ですか……、って?」
「お? 正時じゃないか。お前、アルバイト始めたって言うのはこの店でだったのか」
夕方、というか。もはやディナータイムに入った頃。
この店に入ってきた、二人連れのお客さんは。
兄貴と透子さんだった。
「あら~? 正時君、このお店の制服が似合ってるじゃない♪」
何だか機嫌がいい透子さん。
「? 兄貴もなんだかすっきりした表情してるし。透子さんも機嫌いいね? 何かあったの?」
僕がそう聞くと、兄貴は自分のスポーツ刈りの頭を軽く掻き。
透子さんはそんな兄貴に、なんかとろけそうな表情を向けている。
「いや、な。まあ。男女のアレをやっただけなんだ。それで、腹が減ってな。この店に来たって訳なんだが……。お薦めのディナーメニューはあるか?」
? なんじゃい、男女のアレって?
よくわかんないが、まあ腹が減るようなことをしたらしい、兄貴と透子さん。
腹減ってるならこれだろうな、というメニューを考えて。
「兄貴、Tボーンステーキあるよ、この店。サラダは付くんだけど、スープとライス別料金になるんだけどさ」
「お? 気の利いたものがあるじゃないか。それにしようか。ライスは600グラムぐらいくれよ?」
「出たよ、ラガーマン食い。ホント兄貴って大食漢だよな」
「ははは。使ってるからな、エネルギーを。多分、ステーキだけじゃ足りないからハンバーグも一緒にくれ」
「……まあ、店が儲かるから良いけどさ。兄貴って、親父の仕事継ぐつもりなんだよな? それだけ親父と母さんから投資されてるんだから」
僕が、自分の小遣いと比べて桁が一つ多い、兄貴に対するウチの家庭での手当ての事を言うと。
「まあ、それが約束で。ラグビーも学業もやらせてもらってる。恩は返す。それは違えたら、俺は人としての筋を違えて。真っ当に生きていけやしないさ」
そういって、やっぱり爽やかで精悍な笑顔を見せる兄貴。
「うん、そうね。まだ会社はそんなに大きくないけれど。正治のお家、引っ越し業の有限会社だものね。堅実堅実。頭が良くて体力もすごい正治が、働き始めたら。きっと。バンブール引っ越しセンターは大きくなると思うの」
透子さんは、そう言って。兄貴の腕にぎゅっと抱き着いた。
「順当にいけば、正治は社長さんになるもんね。いい男を早いうちに捕まえるのは、才女の慧眼って云われるけど。私も才女の端くれぐらいの自負もあるし♪」
うん、そうか。
そういうことだよな。
ウチの家業は、引っ越し業者で。まあ中小企業って言われるくらいの規模はある。
『笹倉』の笹の字を取って、語尾をねじって『バンブール引っ越しセンター』という会社の社長が、僕と正治兄貴の父、笹倉泰寛という人間なわけなんだ。
「さて、極まったでしょ?」
光海さんはそう言った。
今日の放課後は、アルバイトのシフトに入っていないこともあって、蔵山は弓道部の部活動に出ていて。喫茶店『ウィル・ベルジュ』のホールにはシフトに入っていた光海さんと宮坂さん。それに、僕が出ていた。
「橋本店長? 僕はキッチンじゃなくていいんですか?」
僕はホールに出るのが初めてなので、店長の橋本さんにそう聞いたのだけれど。
「君は対人スキルを磨くために、この喫茶店でアルバイトを始めたんだろう? 厨房調理のスキルは、人手が足りない時のヘルプが出来るくらいになっていればいいさ」
橋本店長は、そう言って笑うのであった。
「……はい! 頑張ります!!」
といって、僕がホールに出ると。
「さてっと、正時。ちゃんとホールのやり方、教えてあげるからね」
と光海さんが僕に近づいてきて。
「ね? 見事に極まったでしょ? 私の策略は」
と、僕の耳に言葉を転がし入れてきたんだ。
「……? 策略? 何のことです?」
僕がそう聞くと。光海さんは眼鏡の奥からなんか悪戯猫みたいに、輝きのいい視線を送り込んでくると……。
「キスもしたし、もう事実上付き合ってるようなもんでしょ? 正時はあの蔵山さんとさ?」
あ、その事か。
実際、蔵山……、いや水樹は。
一週間前にこの店で働くと言い始め、実際にそれを始めてから。
僕との距離を急速に詰めつつある。
遠因というか直接原因というかは、まあ何となく僕にはわかっていて。
あの時。光海さんが僕の事を水樹から取り上げんばかりの論陣を張って、水樹に僕の価値を再確認させたことが大きいというのは。幾ら僕が鈍くても分かる事だった。
「うふふふふふ~。私はね、まぁ。策略家でもあるのよ。実際に先週、ああ云う風に蔵山さんを論破しかけて、あの子を焦らせること。私がいかにも、正時の事を恋愛対象として欲しがっているかのような、そんな言葉を、ね。それを入れるとどういう行動をあのタイプの子が取るかは、大体わかっててさ♪」
ああ、やっぱりそうか。そうだったんだ。
光海さんは、一幕を演じて見せたんだ。僕の恋を成就させるために。
そもそも、先週のこの店での話し方は、おかしかったもんな。
僕の恋愛の軍師になると言ったのに、光海さん自体が僕を欲しがるような発言は。
で、こうなってみればわかるけど。
それらは全て、水樹の僕に対する積極行動を行わせるための策略だったみたいだ。
「あれは、全部演技で。光海さんは最初っから、僕のことを譲りたくないという態度を水樹に見せて。あの子を焦らせて行動させることが狙いの、行いだったんですね?」
「ふふん♪ ザッツ・ライト。如何にもその通りよ」
「いや……。ホント怖いですね、光海さんって……」
「舐めちゃアカンよ、お姉さんをね」
光海さんはそう言って、いたずらっぽい笑顔満点のウインクをしてきた。
* * *
「いらっしゃいませー!! お客様、何名様ですか……、って?」
「お? 正時じゃないか。お前、アルバイト始めたって言うのはこの店でだったのか」
夕方、というか。もはやディナータイムに入った頃。
この店に入ってきた、二人連れのお客さんは。
兄貴と透子さんだった。
「あら~? 正時君、このお店の制服が似合ってるじゃない♪」
何だか機嫌がいい透子さん。
「? 兄貴もなんだかすっきりした表情してるし。透子さんも機嫌いいね? 何かあったの?」
僕がそう聞くと、兄貴は自分のスポーツ刈りの頭を軽く掻き。
透子さんはそんな兄貴に、なんかとろけそうな表情を向けている。
「いや、な。まあ。男女のアレをやっただけなんだ。それで、腹が減ってな。この店に来たって訳なんだが……。お薦めのディナーメニューはあるか?」
? なんじゃい、男女のアレって?
よくわかんないが、まあ腹が減るようなことをしたらしい、兄貴と透子さん。
腹減ってるならこれだろうな、というメニューを考えて。
「兄貴、Tボーンステーキあるよ、この店。サラダは付くんだけど、スープとライス別料金になるんだけどさ」
「お? 気の利いたものがあるじゃないか。それにしようか。ライスは600グラムぐらいくれよ?」
「出たよ、ラガーマン食い。ホント兄貴って大食漢だよな」
「ははは。使ってるからな、エネルギーを。多分、ステーキだけじゃ足りないからハンバーグも一緒にくれ」
「……まあ、店が儲かるから良いけどさ。兄貴って、親父の仕事継ぐつもりなんだよな? それだけ親父と母さんから投資されてるんだから」
僕が、自分の小遣いと比べて桁が一つ多い、兄貴に対するウチの家庭での手当ての事を言うと。
「まあ、それが約束で。ラグビーも学業もやらせてもらってる。恩は返す。それは違えたら、俺は人としての筋を違えて。真っ当に生きていけやしないさ」
そういって、やっぱり爽やかで精悍な笑顔を見せる兄貴。
「うん、そうね。まだ会社はそんなに大きくないけれど。正治のお家、引っ越し業の有限会社だものね。堅実堅実。頭が良くて体力もすごい正治が、働き始めたら。きっと。バンブール引っ越しセンターは大きくなると思うの」
透子さんは、そう言って。兄貴の腕にぎゅっと抱き着いた。
「順当にいけば、正治は社長さんになるもんね。いい男を早いうちに捕まえるのは、才女の慧眼って云われるけど。私も才女の端くれぐらいの自負もあるし♪」
うん、そうか。
そういうことだよな。
ウチの家業は、引っ越し業者で。まあ中小企業って言われるくらいの規模はある。
『笹倉』の笹の字を取って、語尾をねじって『バンブール引っ越しセンター』という会社の社長が、僕と正治兄貴の父、笹倉泰寛という人間なわけなんだ。
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