観音通りにて・姉

美里

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真央

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 真央が貴子に拾われたのは、半年前のことだ。真央が同棲相手に家から放り出されて、馴染みのバーでくだをまいているところを、同僚の貴子が憐れんで家に置いてくれたのだ。同僚、と言ったって、働いているのはオフィスではない。観音通りで、隣同士の街灯の下に立っている仲、という意味だ。貴子は20代の半ばくらいなのだろう、娼婦としては少し歳はいっているけれどうつくしかったし、真央は18歳の男娼盛りだ。
 『最近観音通りで見ないから、もう売春やめたのかと思ったのに。』
 しこたま飲んで、バーカウンターにへばりついていた真央を、苦笑しながら引きはがし、連れて帰り際に貴子が言った。その物言いは、面倒見のいいお姉さん、という感じで、真央は少し驚いた。煙草を咥えて観音通りに立つ貴子は、いつだって官能的で、家庭の匂いなど少しもしなかったからだ。
 『客と住んでただけ。』
 真央は強がってそう吐き捨てた。客と住んでいた。嘘ではない。確かに元は客だった男だ。でも、一緒に住もう、と言われたときは、いくら15からの男娼稼業で擦れきった真央といえども、夢を見た。その夢は、相手の浮気及び本気へのシフトであっさり破れてしまったのだけれど。
 『貴子さんは、ひとりなの?』
 観音通りの娼婦には、どうしたってヒモを飼っている女が多い。次々と男たちが通り抜けて行く心と身体が、寒い寒いと訴えるせいだろう。
 『ひとりよ。』
 真央の腕を肩に回させ、よろけながら立ちあがった貴子は、ハイヒールの分を差し引いても、女にしては背が高い。
 『弟がいるけど、一緒には住んでないの。』
 弟。口の中で、真央は呟いた。真央は一人っ子だったので、兄弟、という感覚からしてよく分からないのだけれど、貴子の思わぬ面倒見のよさは、そこから来ているのかもしれない。
 よろよろとよろけながら貴子が真央を連れ帰ったのは、観音通りの裏道を一本入ったところにある灰色のアパートだった。昔、観音通りが隆盛だった頃、女の子の住居兼仕事場の長屋が立ち並んでいた場所を、取り壊してアパートがたくさん建てられた。そのうちの一つだ。真央も、客と同棲するまでは近くの似たようなアパートに住んでいた。それが、真央にはいささか意外だった。貴子は観音通りでは売れっ子だし、真央のように気分で立ったり立たなかったりするいい加減さもない、職業的な娼婦だ。もっといい家に住んでいるものと思っていたのである。
 『貴子さんは、もっといいとこに住んでると思ってた。』
 酔いにまかせて素直に言ってみると、貴子はかいがいしく真央のスニーカーを脱がせてくれながら、赤い唇を笑わせた。 
 『弟に仕送りしてるの。お金なんて、全然ないわよ。』
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