観音通りにて・姉

美里

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 姉ちゃんに似てるくせに、男なんて、ずるいよ。
 真央は頭の中だけでそう呟き、男の手を引いてベッドに上がった。金をもらっている以上、これはただの仕事。自分に言い聞かせながらも、本当は分かっている。自分がそんなにプロ意識が高い男娼じゃないってことくらい。言い聞かせれば言い聞かせるほど、矛盾が深まっていくことだって。
 男は、滞りなく真央を抱いた。男も女も同じだ、と言っていた彼は、随分女の場数を踏んでいるようだった。真央は男に抱かれながら、こんなことを察っせられるほど、身体を売ってこなければよかった、と思った。売春を後悔したのは、多分これがはじめてだった。
 セックスが終わると、真央はとっととベッドを降りた。次につながるようなピロートークを、なんて考えもせずに、シャワールームに向かおうとした真央の腕を、男が掴む。真央はそれを振り払おうとしたのだけれど、力ではかなわないようだった。
 「貴子とは、いつから。」
 男が低く問うてくる。はじめて会ったときも、同じ問いをされた。
 いつから、なんて、そんなに肝心な問題だろうか。
 反発するみたいにそう思いながら、真央はそれでも、半年、と、正直に答えた。男はまだ、真央と貴子に男女の関係があると誤解したままなのだろう。それを解くための言葉を、真央は一つも口にしていないから。一つもやましいところがない、疑似の弟。そう知られるよりは、ヒモだと勘違いされている方がまだ安全な気がしていた。
 「なんで、貴子なんだ。」
 「……あんたこそ。」
 真央が不機嫌さをあらわに言い返すと、男はまっさらな子供みたいにいっそあどけないくらいの表情で、姉弟だから、と答えた。真央は、いつか貴子に弟にはなんて呼ばれていたのか聞いたとき、貴子、と答えたときの彼女の艶めいていた表情を思い出した。
 「……姉弟なら、なんでこんなとこで俺を買ってるの。意味わかんない。」
 辛うじて絞り出した言葉。振りほどこうとしても、男の手は、真央の腕に張り付いたみたいに離れない。
 男は、しばらく黙り込んでいた。そして、真央の腕を握りしめたまま、また妙に無邪気な感じすらする物言いで、あんたが貴子と寝てるから、と答えた。その答えを聞いて、真央はぞっとした。なんだ、それは。姉と寝ている男と寝て、なにがしたい。そんなことをして、なにになるというのだ。
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