観音通りにて・姉

美里

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真央

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 真央、これ。
 貴子が微笑んで差し出した白い紙袋には、真央が残していった衣類やちょっとした小物がきれいに整頓されて入っていた。
 「ありがとう。」
 真央が微笑み返すと、貴子は少しだけ眉を寄せ、昨日はどこに泊まっていたの、と訊いてきた。真央は肩をすくめてその問いを流す。
 昨日は客が帰った後のラブホテルに泊まった。今日どうするかはまだ決めていない。答えた方が心配されると知っていた、
 貴子が更に口を開こうとした時、彼女の前に男が立ち止まる。常連客、と言っていい男だった。真央はなんだか救われた気がして、そっと呼気を漏らす。貴子は心配そうに真央の方を見やった後、男とともに歩み去って行った。
 それから30分もたたない内だ。真央の前に、貴子の弟が立ったのは。いつもこの男は、貴子が消えたタイミングを見計らったみたいにやってくる。みたい、というよりは、本当にそうなのだろう。
 自分に一切の悪意がなかったのか、真央には分からない。ただ、男が貴子のいないタイミングを見計らっていると、それははっきりと理解していた。そして、さっきの貴子の客が、いつも30分程度で行為を終えることも、その客と貴子が使うホテルが、真央がいつも使っているホテルへ向かう道の途中にあることも、理解していた。だから、もしかしたらそこには、悪意があったのかもしれない。ただ、それはせめて無意識の悪意だったと思いたい自分もいた。
 とにかく真央は、貴子の弟と一緒にホテルに向かった。そして、おんぼろのラブホテルに入る一歩手前で、背後から貴子の声がした。
 「生馬?」
 聞いたことのない名前だった。せめて、真央の名前を読んでくれればいいのに、と一瞬思った。呼ばれたところで、なにがどうなるわけでもないのに。
 真央の隣を歩いていた背の高い男は、貴子の声に、びくりと足を止めた。聞こえなかったふりをするか、他人のふりをするかでその場を逃げ出せばいいものを、そんなことを思いつきもしないようだった。
 「……いつから?」
 呆然と、貴子が呟く。
 そういえばこの男にも同じことを訊かれた、と、真央はぼんやり思う。いつから、なんて、真央には全然重要なことには思えない、やっぱりこの二人は、姉弟なのだ。真央は肩越しに貴子を振り返り、三か月くらいじゃない、と、素直に答えた。ここで嘘をつく意味も、真央にはなかった。
 「……なんで?」
 今度の問いには、真央は答えなかった。ただ、隣で凍り付いている男の背中を手のひらで叩いて、答えを促した。
 
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