姉弟

美里

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 あれはただのレイプだよ。
 言おうとして、言葉が出なかった。舌が凍りついて上顎に張り付いてしまったみたいに、シュンは沈黙した。
 健少年も口を利かなかったので、少しの間、二人の間に沈黙が落ちた。
 そしてその沈黙の後、健少年は、真正面からシュンに抱きついてきた。シュンの首に両腕を回して、強く。
 シュンは彼を突き放そうとして、それもできずに固まっていた。少年の真意が分からなくて。
 「俺、シュンさんのこと、好きです。」
 健少年の声は、その瞳と同じく、恐ろしいまでに真っ直ぐだった。
 「シュンさんが姉ちゃんの恋人じゃない、ただのヒモって言ってくれたこと、嬉しかったです。……俺にも、チャンスはあるのかなって。」
 チャンス?
 言葉の意味が飲み込めず、シュンは混乱して馬鹿みたいに突っ立っていた。
 するりとシュンの首から腕を離した少年は、照れくさそうに唇を結んで、少しだけ笑った。
 「シュンさんは、男の人でも大丈夫なんですよね? ……それも、俺、嬉しかったんです。」
 シュンが頭の中をぐちゃぐちゃにして混乱しているのにも構わず、健少年は笑ったままの唇でそう言った。
 「とりあえず、中に入りませんか?」
 少年がシュンの右手を掴み、引く。
 シュンは困惑したままその手に従った。頭の中が散らかりすぎていて、逆らうこともできなかったのだ。
 健少年は嬉しそうに頬を上気させ、シュンを連れてリビングへ入り、彼をソファに座らせた。そして自分はまめまめしく台所へ行き、ティーパックの紅茶を淹れてきた。
 健少年が台所で湯を沸かしている間中、シュンはじっと恐怖に耐えていた。
 怖かった。健少年の言葉一つ一つが全て、意味不明で。
 好き、ただのヒモ、チャンス、男の人、大丈夫……、そんな単語たちが、頭の中をぐるぐる回っていた。
 「シュンさん、どうぞ。」
 シュンの前に置かれたマグカップは白い猫の柄で、いつもは美沙子が使っているものだった。健少年の前にある黒いマグカップは、シュンがいつも使っているものだ。
 そのちぐはぐささえ怖いような気がして、シュンは心を落ち着けようと紅茶をすすった。
 熱い紅茶が、喉から胸に滑り込んでいく。
 この紅茶を飲み終わったら、と、シュンは覚悟を決める。
 この紅茶を飲み終わったら、健少年に、君に恋愛感情は一切ないと告げて、本当にこの部屋を出よう。 
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