姉弟

美里

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 シュンはゆっくりと紅茶を飲んだ。ゆっくり、ゆっくり芳しい香りを啜りながら、健少年に次にかける言葉を考えていた。
 はっきりと言った方がいいだろう。もう、誤解のしようも期待のかけようもないくらいに。
 君に恋愛感情は一切ないよ。今後持つことだってない。俺、男抱けるけど、恋愛対象ではないから。
 頭の中で組み立てた台詞は、どこか嘘の臭いがした。
 男抱けるけど、恋愛対象ではない。
 そこが嘘だ。
 たしかに男は恋愛対象ではないけれど、更に言ってしまえばどうしようもなく、シュンにとっては女だって恋愛対象ではない。
 だけどそれを言うと話がややこしくなるから、やっぱり男は恋愛対象ではないと、それだけでいいだろう。
 そう考えたシュンは、紅茶を飲み干し、マグカップをテーブルに置いた。変なふうに身体に力が入っていたみたいで、がちゃん、と、マグカップの底がテーブルに打ち付けられてやかましい音を立てた。
 その音に、ぴくりと肩を揺らした少年は、シュンの目をまっすぐに捉えたまま、お代りいりますか? と小首をかしげた。
 いいや、もう十分。
 そう応じたシュンは、少年の目を正面から捉え返した。そうすることは、シュンのうちに、じわりと冷たい汗をかくような恐怖を植え付けたけれど、構わず口を開く。
 「君に恋愛感情は一切ないよ。今後持つことだってない。俺、男抱けるけど、恋愛対象ではないから。」
 頭の中で組み立てた通りの台詞。多少の嘘はあるけれど、大きな嘘は存在しない。
 シュンはそのことを自分の中で考え直し、確信を持って小さく頷いた。
 「だから、ここを出ていくね。色々ごめんね。もう、戻るつもりはないから。美沙子が帰ってきてもね。」
 美沙子が帰ってきても、この家には戻らない。それが正しいと思った。もう潮時なのだと。
 ここには長くいすぎた。ヒモとしての分別がついてから、半年間も同じ女の家に留まったことはなかった。
 単純に、居心地が良かったのだ。美沙子は一切シュンに独占欲を示してこなかった。それは、今回の件を除いて。
 健少年は、黙っていた。多分、シュンにこういう種類の言葉をぶつけられるだろうと、予想はできていたのだろう。
 じゃあ、と、シュンはソファから立ち上がった。
 健少年と、触れるか触れないかの位置にあった肩が、ふわりと薄ら寒く冷えた。
 健少年は、今度はシュンを引き止めなかった。ただ、大きな猫目でシュンを見上げていた。
 それは、シュンが前言を撤回するのを待っているようにも見えた。
 男でも女でも、相手の望通りに振る舞うことが癖になっているシュンは、一瞬その場にとどまりかけた。
 けれど、すぐに思い直して足早に玄関に向かった。
 これは、健少年のためだ。こんなどうしようもないヒモ男と同じ部屋で一週間を過ごすなんて、絶対に彼の生育に良くない。
 
 
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