姉弟

美里

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 IHとフライパンをリビングに持ち込み、二人は肉を焼いた。
 美沙子の部屋は、いかにも女の子らしく白とピンク色で統一されている。
 もしここで油を飛び散らせながら焼肉をしたことがバレたら、きっと怒られるな、と、シュンは思った。
 健少年も同じようなことを思っていたらしく、焼き立ての肉を口に放り込みながら、シュンの目を見ておかしそうに笑った。
 その笑みを見ると、後で美沙子に怒られることくらいは大したことがないように思えて、シュンも肉に没頭する。
 会話はなかった。シュンは元々食べるときは無口になる質だったし、それが焼肉ともなれば更にだ。健少年も同じような質らしく、沈黙に嫌な感じはなかった。
 用意していた白米と肉をせっせと片付け終わった後、健少年が、ふと思いついたみたいな口調でいった。
 「ずっとこうだったら幸せなのにな。」
 それは、明らかにふと思いついたみたいな口調を装っているだけで、彼は本気なのだと分かった。
 だからシュンはなにも言えず、ただIHとフライパンを台所に片付けにいった。
 ずっとこうだったら幸せ。
 そうかもしれない。シュンも健少年も、他の誰とも関わらずに、ただじっとこの部屋の中で暮らしていたとしたら、それは幸せと呼べるのかもしれない。 
 でも、どうしようもなくここは美沙子の部屋だし、家出してきたという未成年の健少年を連れ回したとしたら、シュンの両手が後ろに回る。
 どうにもならないよ、と、シュンは口の中で呟いた。
 どうにもならない。シュンも健少年も、この部屋から動けないし、ただ美沙子の帰りを待つしかない。
 茶碗や取皿を抱えてキッチンに入ってきた健少年が、フライパンを流しに突っ込んだっきり棒立ちになっていたシュンを見て、首を傾げた。
 「シュンさん?」
 「……なんでもないよ。」
 なら、いいんですけど。
 そう返して、健少年は静かに目を細め、微笑んだ。
 意識をそらしたくて、これ以上考え込みたくなくて、シュンは健少年の肩を抱くようにしながらキッチンを出た。
 「やっぱり肉は旨いね。」
 「ですよね。」
 「毎晩これでいいな、俺。」
 「野菜食べないとだめですよ。」
 「確かに。あ、でも、たしかどっかに青汁あるよ。美沙子がたまに飲んでた。」
 「へぇ。姉ちゃんって、健康志向なとこあるんですね。」
 キッチンを出、リビングのソファに腰掛けながら、そんなぼんやりとした会話を紡いだ。他にどうしたらいいのか分からなくて、それは綱渡りみたいに。
 
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