三人暮らし

美里

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 そこそこ混んだ電車の中で、ドアの脇のスペースを確保して、二時間目に小テストがある英単語を覚えてしまおう、と、単語帳を開いたところで、不意に声をかけられた。
 「明日美!」
 単語帳から目を上げると、少し離れたところのつり革につかまっていた二人組の女子高生が、せっせと人波をかき分けてこっちにやってくるところだった。スーツ姿のサラリーマンなんかが迷惑そうにそっちを見ているけれど、志奈子と和紗は、まるで気にした様子も見せない。
 「おはよ。」
 私は、小テストの点数はもう諦めることにして、単語帳を前向きに背負ったリュックサックの中に押し込んだ。
 「どしたの、明日美。スカート。」
 「あー、朝、悠ちゃんに言われて。」
 直し忘れていた、膝丈のダサいスカートを指さして、志奈子が笑う。
 「悠ちゃん?」
 私の家族構成を知らない和紗が、だぁれ、と首を傾げた。すると志奈子があっさり、お兄ちゃん。イケメンだよ、と答える。正確には悠ちゃんはわたしのお兄ちゃんではないのだけれど、ここで一から私と悠ちゃんの関係を説明するのは面倒だし、なんか変な同情とかをされても嫌なので、私は志奈子の肩をつついて、ひとの兄ちゃん狙うなよー、とからかうだけにしておく。
 「いいな、明日美ちゃんのお兄さんかっこいいんだ。うちのなんて、普通にダサいよ。」
 「しかも明日美のお兄ちゃんは頭もいいし。」
 「いや、別にそんなことないよ。普通普通。」
 顔の前でぶんぶん手を振って謙遜しつつも、私は内心では志奈子の言いようが嬉しくて仕方なかった。志奈子の言う通り、悠ちゃんは、かっこいいし頭もいい。
 肝心なのは、それだけ、と、私は自分に言い聞かせた。
 悠ちゃんが私の本当のお兄ちゃんじゃないことなんて、別に大した問題じゃない。
 学校の最寄りまでの20分間、私は志奈子や和紗と何気ない会話をしながら、はじめて悠ちゃんに会ったときのことを思い出していた。
 あの日、夕方、お父さんが悠ちゃんをうちにつれてきた。私は学校から帰ってきて、お母さんの夕ご飯の支度を手伝っていた。お母さんは、悠ちゃんについて、事前に私に説明してはくれなかった。今思えば、どうやって説明するのが適当なのか、お母さんは迷っていたのだと思う。
『悠一くんだよ。今日から、明日美のお兄ちゃんだ。』
 悠ちゃんを連れて帰ってきたお父さんは、悠ちゃんの肩を抱いたまま、笑ってそう言った。
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