三人暮らし

美里

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明日美

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 「ねえ明日美、今日暇? 他校の男子とカラオケ行く約束してるんだけど、明日美もこない?」
 購買で買ってきた焼きそばパンをかじっていた私の首に、志奈子が後ろからぐるりと腕を回してきた。反対の手には、かわいらしいピンク色の巾着袋を提げている。志奈子の母さんはお料理が上手で、毎日お弁当を作ってくれるのだ。
 「うーん。ごめんね。ちょっと今日は用事ある。」
 家に帰って悠ちゃんに勉強を見てもらうというのは、立派な用事のはずだ。悠ちゃんは昨日の夜、明日はバイトないから、徹底的に付き合うと、約束してくれた。それに、もしも今日悠ちゃんがバイトでいなかったとしても、わたしは多分、他校の男の子とカラオケにはいかない。志奈子が言う『約束』といううのはつまり、合コンだし、悠ちゃんはそういうのに私を参加させたがらない。まだ早い、と言うのだ。
 「えー、また悠ちゃん? いいじゃん、たまには。ほんとに明日美はブラコンなんだから。」
 手近にあった空いている椅子を引き寄せ、私の向かいに腰掛けながら、志奈子が頬を膨らませる。
 「髪染めるのも、ピアスも、悠ちゃんが嫌がるから駄目なんでしょ?」
 「んー、まあねぇ。」
 志奈子が初めて髪を染めたとき、私は一緒に美容院行こう、と誘われたのを断った。ピアスの穴をあけるときも、志奈子と和紗に、一緒にあけてお揃いのピアスしよう、と誘われたのだけれど、やっぱり断った。悠ちゃんが悲しい顔をする、と思ったからだ。
 悠ちゃんは、私が合コンに行っても、髪を染めても、ピアスをあけても、怒ったりはしないと思う。ただ、悲しい顔をするのだ。ずっと前、私がお母さんが夜の仕事をしているのがどうしても嫌で、駄々をこねたことがある。そのときと同じ、悲しい顔を。私はもう、悠ちゃんのそんな顔を見たくない。
 「和紗も来るよ。由佳ちゃんと、愛美も。楽しいのに。」
 「うーん。やっぱやめとく。」
 「そんなに怖いの? 悠ちゃん。」
 「怖くないよ。全然。」
 ただ、悠ちゃんに悲しい顔をさせたくないだけだ、と言っても、きっと志奈子には分かってもらえないと思う。色とりどりのおかずがこまごまと詰められた、かわいいお弁当をつまみながら、志奈子はつまんないの、と肩をすくめた。
 「ごめん。また今度遊ぼ。」
 「……分かった。今度ね。」
 悠ちゃんが本当のお兄ちゃんなら、と思うのは、こういうときだ。こういうとき、本当の兄妹なら、志奈子を優先するのだろうとなんとなく考えるから。
 本当の兄妹なら……。
 本当の兄妹なら、相手が悲しい顔をするかどうかなんて、深く考えたりしないんじゃないのかな。お互いに相手の表情を上手に理解できないと、相手がいなくなってしまうんじゃないかみたいな、そんな薄氷を踏むような読みあいなんて、しないんじゃないかな。
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