三人暮らし

美里

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 放課後、やっぱり行かないの? と、誘ってくれた志奈子と和紗に、ごめんね、と手を振って、私はひとり急いで家に帰った。悠ちゃんの大学は今日は3時までと言ってたから、もう悠ちゃんは帰っているはずだ。数学の晩強は憂鬱だけど、悠ちゃんと一緒にいられる、というのは嬉しかった。
 悠ちゃんがはじめてうちにきた頃は、悠ちゃんはふさぎ込んでいたし、私はそんな悠ちゃんがちょっと怖かった。悠ちゃんになにがあったのかとか、ここにくるまでの経緯とか、そんなことはお母さんもお父さんも、もう少し大きくなるまでは私に説明したりしなかったのだけれど、悠ちゃんからは、なんだかただならぬような気配がしたのだ。悠ちゃんが、と言うよりは、その気配が私は怖かった。
 私が悠ちゃんを怖がらなくなったのは、お父さんが死んでしまった夜からだ。
 あの夜、仕事から帰ってくる途中で、お父さんは車にはねられてしまった。私はまだ7歳で、なにが起きているのか全然分かっていなかったけれど、なにかよくないこと、とんでもなくよくないことが起こったことだけは、お母さんの張りつめた表情と、絶望的な気配から感じ取っていた。
 『明日美は悠ちゃんと寝ててね。お母さん、ちょっと出かけてくるから。』
 お母さんはそれだけ言って、タクシーを呼ぶと、家を出て行ってしまった。取り残された私は、不安で泣いた。どうしていいのか分からなかった。体中が不安一色で塗りつぶされてしまった感じだった。
 悠ちゃんはそのとき11歳で、私よりよっぽどちゃんと状況を把握できていたのだろうと思う。私を家族の寝室に連れていくと、一緒の布団に入り、髪を撫でてくれた。悠ちゃんとそんなにくっついたのは、はじめてだった。私は悠ちゃんにしがみついて泣いた。悠ちゃんは、静かに私の髪を撫でていた。泣きはらした顔のお母さんが帰って来るまでずっと。 
 その日から、私は悠ちゃんが怖くなくなった。悠ちゃんに張り付いていた、ただならぬ気配も、気が付いたら消えていた。悠ちゃんにくっついて歩く私を見て、お母さんも、先生や知らない大人のひとも、仲のいい兄妹ね、と、頬をほころばせた。私は、そうならいい、と、思うようになった。いつからか。そうならいい。本当に、本物の兄妹ならいい。ずっとずっと、一緒にいられるからいい。
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