三人暮らし

美里

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 ひどいよ、そんなのは。だって俺はずっと、いい息子で、いい兄でいるためだけに生きてきたのに、今更そんなのは、ひどい。そんなふうに言われてしまったら、俺にはもう、どうやって生きていったらいいのかが分からない。
 胸の中に渦巻く言葉は、口には出せなかった。口に出したら、終わりだと思った。こうやって、咲子さんと明日美と、三人家族として暮らしている日々の終わり。俺はついに完全なひとりになる。
 「……遠慮なんか、してないよ。もてないだけ。」
 ゆっくりと口にした台詞。ぎこちなくなっていないか、何度も自分の中で確認した。咲子さんは笑って、俺の頭をぽんぽんと撫でた。
 「もてないわけないと思うんだけどな。私のかわいい息子が。」
 冗談で彩られた物言いに笑い返しながら、俺は咲子さんの言葉を何度も頭の中で反芻した。
 私のかわいい息子。
 何度も、何度も。その理由は自分でも分からなかった。
 珈琲を飲み終わった俺と咲子さんは、一緒に部屋の掃除をし、昼飯の焼きそばを食い、夕飯の買い出しに行った。咲子さんは掃除が苦手なので俺が主にやって、俺は料理が苦手なので、咲子さんが焼きそばを作ってくれた。
 夕飯はロールキャベツにする、と、咲子さんは黒いシャツの腕をまくった。トマトソースで煮込んだロールキャベツは、俺と明日美の好物だった。
 「ロールキャベツ、久しぶり。」
 「仕事の前に作るのだと、どうしても手間がかからない料理になっちゃうのよね。」
 「手伝う。」
 「怪我しないでね。」
 「俺、そこまで料理下手?」
 「なんでも器用にできるくせに、料理だけだめよね。」
 俺は別に、なんでも器用にはできない。なんとなくできている感じを装うのが上手いだけで、なにも上手くない。そこそこ以上にできる特技もない。
 改めて、自分のつまらない人間具合を自覚して、腹のあたりを重たくしながらも、俺は咲子さんの料理を手伝った。
 途中で明日美が帰ってきて、彼女も料理に参加する。明日美は咲子さんに似てるのか料理ができる。いつも宿題の工作は手を糊でべとべとにしながら俺に泣きついてきていたのに、器用にロールキャベツを成形していく。
 「悠ちゃんって、料理だけできないよねぇ。」
 他もなにもできないよ。
 なんとなく言い出せなくて、俺は、そんなこと言うなよ、と、明日美の言葉を受け流した。
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