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悠一
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なにも考えないように、考えないように、そう意識してバイト先までやってきて、それからやっぱり、考えないように、考えないように、それだけ意識して、受け持っている授業を終わらせる。でも、考えないように、なんて思っている時点で俺は、ずっと考えていたのだろう。咲子さんのこと、明日美のこと、俺のこれからのこと。
明日美が家を出ようとしていた。
それは俺にとっては、結構なショックだった。俺がそこまで明日美を追い詰めた。あの、末っ子気質で甘ったれなところがある明日美が、自分から咲子さんと俺から遠ざかろうとするなんて。
『好きなの。だから、行くの。』
いくら何も考えないように努めたところで、明日美の声がずっと頭の中を響いて離れなかった。
もしも、俺がその言葉に応えていたら、明日美と一緒になって、ずっと今と同じように三人で暮らすことができるのかもしれない。そんな、邪悪なことまで過ぎりはした。でも、臆病で半端な道徳心に縛られている俺に、それができるはずもなくて。
授業が終わり、帰り支度をした俺が裏口から出ると、いつものように東さんが目立たない路地裏に立って、俺を待ってくれていた。
「もう、辞めるのかと思ってた。」
ぽつんと、東さんが言った。
「バイトを?」
「そう。」
「辞めないよ。……ちょっと、辞めよっかなって思ったりはしたけど。」
東さんがじっとこっちを見上げているから、俺は軽く肩をすくめて、妹が出ていこうとしたんだ、と、彼女に言うつもりはなかったことを口にしていた。
「家出?」
「もっと、周到な感じで。」
「本気だったのね。」
「そうだと思うよ。」
明日美は、突発的に家を飛び出したりはしなかった。その分、俺も咲子さんも、彼女の本気を感じたのだと思う。
「それで、先生は?」
「俺?」
「ずっとこのままでは、いられないんでしょ?」
そうだった。俺はそれをうっすら感じてはいたけれど、明日美が家を出ようとしたことで、それは確信に育っていた。
「……出てくよ。俺も、周到に。」
家出ではなくて、ちゃんとした独立みたいに。俺はもう大学生で、これからシフトを増やせば、自分ひとりが食べていくくらいの金は稼げる。だから、周到に出ていこう。そうすれば時々は、咲子さんや明日美の顔を見に、あのマンションに帰ることだってできるだろう。それくらいはまだ、許されるはずだ。許されないほどに、咲子さんと明日美との関係は、まだ壊れ切ってはいないはずだ。
明日美が家を出ようとしていた。
それは俺にとっては、結構なショックだった。俺がそこまで明日美を追い詰めた。あの、末っ子気質で甘ったれなところがある明日美が、自分から咲子さんと俺から遠ざかろうとするなんて。
『好きなの。だから、行くの。』
いくら何も考えないように努めたところで、明日美の声がずっと頭の中を響いて離れなかった。
もしも、俺がその言葉に応えていたら、明日美と一緒になって、ずっと今と同じように三人で暮らすことができるのかもしれない。そんな、邪悪なことまで過ぎりはした。でも、臆病で半端な道徳心に縛られている俺に、それができるはずもなくて。
授業が終わり、帰り支度をした俺が裏口から出ると、いつものように東さんが目立たない路地裏に立って、俺を待ってくれていた。
「もう、辞めるのかと思ってた。」
ぽつんと、東さんが言った。
「バイトを?」
「そう。」
「辞めないよ。……ちょっと、辞めよっかなって思ったりはしたけど。」
東さんがじっとこっちを見上げているから、俺は軽く肩をすくめて、妹が出ていこうとしたんだ、と、彼女に言うつもりはなかったことを口にしていた。
「家出?」
「もっと、周到な感じで。」
「本気だったのね。」
「そうだと思うよ。」
明日美は、突発的に家を飛び出したりはしなかった。その分、俺も咲子さんも、彼女の本気を感じたのだと思う。
「それで、先生は?」
「俺?」
「ずっとこのままでは、いられないんでしょ?」
そうだった。俺はそれをうっすら感じてはいたけれど、明日美が家を出ようとしたことで、それは確信に育っていた。
「……出てくよ。俺も、周到に。」
家出ではなくて、ちゃんとした独立みたいに。俺はもう大学生で、これからシフトを増やせば、自分ひとりが食べていくくらいの金は稼げる。だから、周到に出ていこう。そうすれば時々は、咲子さんや明日美の顔を見に、あのマンションに帰ることだってできるだろう。それくらいはまだ、許されるはずだ。許されないほどに、咲子さんと明日美との関係は、まだ壊れ切ってはいないはずだ。
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