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円花は咄嗟に、街灯の下に並ぶ娼婦たちの間に身を隠した。娼婦たちは一瞬迷惑そうな顔をしたけれど、なにも言いはしなかった。
「じゃあ、またね。」
井上くんの隣に立った、ほっそりとした人影が、そう囁く。その声を聞いて、円花は目を見張った。その声が、低かったからだ。笙子のように声が低い女性というのではなくて、もっと低いその声は、明らかに男のものだった。それにそもそも、気が付くべきだったのだ。その人影は、長身の井上くんと変わらないくらいの身長をしていた。ほっそりとしなやかな身体つきや、長めに伸ばされた黒髪、そして漂う色香に目をくらまされてはいたのだけれど、その目をきちんと開いてみれば、その人影は、明らかに男であった。
「はい。」
頷いた井上くんが、名残惜しげに男の肩に触れた。その手は肩から腕をたどり、男の白い手にたどり着く。男は軽く微笑み、自分の手を握る井上くんの指を、しなやかに愛撫した。二人の間に漂う淫靡な空気を読み取れるほど、円花は大人ではなかったし、場数だって全然踏んではいないのだけれど、それでもこの二人がただの友人同士などではないことくらいは、さすがに分かった。
「また来ます。」
井上くんが、なんとか自分の情を吹っ切るみたいに、低く言う。男はあでやかに微笑み、小さく頷いた。その横顔は真っ白く整っていて、円花や井上くんより10歳くらい歳上に見えた。
井上くん、
円花はなんとか二人の間に割って入りたかった。井上くんの腕を引っ張って、この場から駆け出したいような衝動に駆られた。だって、ふたりの間に漂う空気はあまりに濃密すぎる。
それでも、足が動かなかった。その場に縫いとめられたみたいになって、全然動けない。
男の切れ長の黒い目をじっと見つめていた井上くんが、長く重い息を吐き、ようやく男に背を向けた。円花はそこで、はっとした。井上くんの足は、こちらに向いている。このままここにいては、井上くんと顔を合わせることになってしまう。
彼を追いかけてここまできて、数時間も観音通りをうろうろしていたくせに、円花には今、井上くんと顔を合わせる勇気がなかった。だって、井上くんはあまりにも、観音通りの夜に馴染みすぎている。教室で円花が盗み見している井上くんとは、まるで別人みたいだ。
どうしよう。どこに隠れよう。
円花は焦って辺りを見回したけれど、隠れられる場所なんてない。
「……高野さん?」
ぽつりと、井上くんが円花の名を口にした。彼は円花のすぐ目の前までやって来ていた。けれど、それだけだった。それだけで、井上くんはその場に足を止めることすらなく、円花の前を通り過ぎて行った。
「じゃあ、またね。」
井上くんの隣に立った、ほっそりとした人影が、そう囁く。その声を聞いて、円花は目を見張った。その声が、低かったからだ。笙子のように声が低い女性というのではなくて、もっと低いその声は、明らかに男のものだった。それにそもそも、気が付くべきだったのだ。その人影は、長身の井上くんと変わらないくらいの身長をしていた。ほっそりとしなやかな身体つきや、長めに伸ばされた黒髪、そして漂う色香に目をくらまされてはいたのだけれど、その目をきちんと開いてみれば、その人影は、明らかに男であった。
「はい。」
頷いた井上くんが、名残惜しげに男の肩に触れた。その手は肩から腕をたどり、男の白い手にたどり着く。男は軽く微笑み、自分の手を握る井上くんの指を、しなやかに愛撫した。二人の間に漂う淫靡な空気を読み取れるほど、円花は大人ではなかったし、場数だって全然踏んではいないのだけれど、それでもこの二人がただの友人同士などではないことくらいは、さすがに分かった。
「また来ます。」
井上くんが、なんとか自分の情を吹っ切るみたいに、低く言う。男はあでやかに微笑み、小さく頷いた。その横顔は真っ白く整っていて、円花や井上くんより10歳くらい歳上に見えた。
井上くん、
円花はなんとか二人の間に割って入りたかった。井上くんの腕を引っ張って、この場から駆け出したいような衝動に駆られた。だって、ふたりの間に漂う空気はあまりに濃密すぎる。
それでも、足が動かなかった。その場に縫いとめられたみたいになって、全然動けない。
男の切れ長の黒い目をじっと見つめていた井上くんが、長く重い息を吐き、ようやく男に背を向けた。円花はそこで、はっとした。井上くんの足は、こちらに向いている。このままここにいては、井上くんと顔を合わせることになってしまう。
彼を追いかけてここまできて、数時間も観音通りをうろうろしていたくせに、円花には今、井上くんと顔を合わせる勇気がなかった。だって、井上くんはあまりにも、観音通りの夜に馴染みすぎている。教室で円花が盗み見している井上くんとは、まるで別人みたいだ。
どうしよう。どこに隠れよう。
円花は焦って辺りを見回したけれど、隠れられる場所なんてない。
「……高野さん?」
ぽつりと、井上くんが円花の名を口にした。彼は円花のすぐ目の前までやって来ていた。けれど、それだけだった。それだけで、井上くんはその場に足を止めることすらなく、円花の前を通り過ぎて行った。
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