逃げても浮気と責めないで

美里

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 そのおんなとは、一年くらい続いた。結局一度も、おんなは私と寝なかった。その間、私以外のおんなと寝ていたことは知っている。バーのカウンターに座って、声をかけてくるおんなを待っていると、時々、私を哀れに思ったバーの常連たちが、もうやめなさい、と諭しにきた。あのおんなには、ちゃんと他に付き合っている人がいる。だからもう、こんな生活はやめなさい、と。
 私は、そんな救いの手を払いのけた。うるさい、そんなこと知っている、それでも私はこの生活を選んだのだ、と。
 おんなの恋人は、私とは似ても似つかない、きれいな巻髪と硝子細工みたいな身体をした、年上のひとだった。
 私は、この街でそのおんなを見かけるたびに、殺すか死ぬかしたくなったのだけれど、結局どちらもできなかった。私の手首には、今でもそのときの躊躇い傷が残っている。馬鹿な子供だった印だ。
 おんなのマンションを出たのは、15の冬だった。もう手首には切れる皮膚もなく、太ももを傷つけては誰かに抱かれに行っていた。それでもあのおんなは、私をもう、かわいい、とは言ってくれなかった。多分、恋人と上手くいっていなかったのか、別れたのか、そのどちらかで、私で遊んでいる余裕がなくなったのだと思う。どちらにしろ、私はただの暇つぶしの玩具で、恋人に格上げされる日はこないと頭で分かってはいた。
 あの夜も、私は性病を伝染され、ついでに前日のおんなに妙な薬を盛られて朦朧としてもいた。あのおんなは、そんな私を置いて仕事に出かけ、残業をしているのか中々帰ってこなかった。あのおんなは、マンションから歩いて行ける距離の役所で、長い髪をひっつめて働いていた。
 朦朧とした頭で、ベッドに転がり、それでも今日も、バーでおんなを待たなくてはと、強迫観念みたいに身体を起こそうとしていると、変な幻覚みたいのを見た。内容はよく覚えていないけれど、これまで寝てきたおんなたちがそろって私を殺しに来るみたいな、とにかく嫌な夢だった。
 それで、冷や汗でびしょ濡れになりながら飛び起き、ああ、もうすぐ日付が変わる、早くしないと終電になってしまう、と思って、上手く足が立たたずにベッドから転がり落ちた。頭を強く打ち付け、更に朦朧としながら、それでもとにかく着替えなくては、と床をひっかいていると、寝室のドアが外から開いた。
 彼女が帰ってきた。
 そう思って、廊下からの灯りが射すドアの方を見ると、きれいな巻髪と硝子細工みたいな身体をした、年上のひとが立っていた。
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