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私は彼女の姿を、幻覚の一種だと思った。そうでなければ、彼女がここにいる意味が分からない。私はただの壊れかけの玩具で、彼女にとっては気に掛ける必要もない存在だったはずだ。それなのに、幻覚のはずの彼女は、膝を折って私の頬に触れた。冷たい指をしていた。
「……起きてるの?」
彼女は、声まで可憐だった。そんなところも、私と似ても似つかない。
私が辛うじて頷くと、彼女は私の手を引いて立ち上がらせ、部屋の隅に置き去りにされていた私のリュックサックを取ると、無言のまま荷造りを始めた。
「お財布は?」
「……ない。」
養い親のところから、靴も履かずに逃げ出してきた私には、そのとき財布すらなかったのだ。彼女は私の返答にも表情を変えず、銀細工の妖精みたいに整った横顔で、自分のコートのポケットから財布を取り出すと、中身の札を、そっくり私のリュックにいれた。私はまだ朦朧としていて、彼女のその行動に驚きはしても、なにを言うこともできなかった。
金と、数組の下着と、一組の服。それだけ入れるとリュックはいっぱいになった。彼女はそれを私に背負わせると、私の肩を押すみたいにして部屋から出した。私は茫然としたまま彼女に従った。抵抗できるほど意識がはっきりしていなかったし、多分はっきりしていたとしても、抵抗はできなかった。だって、私はただの玩具だ。あのおんなにであれ、彼女にであれ、逆らうことができるはずがない。
彼女は私を、マンションから徒歩10分くらいの駅まで連れて行った。そして、なにも言わずに私の肩を改札口へ押し出した。私は素直にその手に従って改札をくぐった。従わない、という選択肢がなかった。それが私の、はじめての夜逃げになった。
私はそのまま街へ流れ、その晩のうちにつかまえた手近なおんなの部屋に転がり込んだ。私にももう、おんなに抱かれるだけではなくて、抱けるくらいの技量は備わりつつあった。
その後、街であの女や彼女の姿を見たことはない。二人で仲良く暮らしていて、街でおんなを物色する必要なんてないのかもしれないし、単に街に飽きただけか、それともそろって首でもくくったのかもしれない。分からない。私には知るすべがないし、知りたいとも思わない。
「……起きてるの?」
彼女は、声まで可憐だった。そんなところも、私と似ても似つかない。
私が辛うじて頷くと、彼女は私の手を引いて立ち上がらせ、部屋の隅に置き去りにされていた私のリュックサックを取ると、無言のまま荷造りを始めた。
「お財布は?」
「……ない。」
養い親のところから、靴も履かずに逃げ出してきた私には、そのとき財布すらなかったのだ。彼女は私の返答にも表情を変えず、銀細工の妖精みたいに整った横顔で、自分のコートのポケットから財布を取り出すと、中身の札を、そっくり私のリュックにいれた。私はまだ朦朧としていて、彼女のその行動に驚きはしても、なにを言うこともできなかった。
金と、数組の下着と、一組の服。それだけ入れるとリュックはいっぱいになった。彼女はそれを私に背負わせると、私の肩を押すみたいにして部屋から出した。私は茫然としたまま彼女に従った。抵抗できるほど意識がはっきりしていなかったし、多分はっきりしていたとしても、抵抗はできなかった。だって、私はただの玩具だ。あのおんなにであれ、彼女にであれ、逆らうことができるはずがない。
彼女は私を、マンションから徒歩10分くらいの駅まで連れて行った。そして、なにも言わずに私の肩を改札口へ押し出した。私は素直にその手に従って改札をくぐった。従わない、という選択肢がなかった。それが私の、はじめての夜逃げになった。
私はそのまま街へ流れ、その晩のうちにつかまえた手近なおんなの部屋に転がり込んだ。私にももう、おんなに抱かれるだけではなくて、抱けるくらいの技量は備わりつつあった。
その後、街であの女や彼女の姿を見たことはない。二人で仲良く暮らしていて、街でおんなを物色する必要なんてないのかもしれないし、単に街に飽きただけか、それともそろって首でもくくったのかもしれない。分からない。私には知るすべがないし、知りたいとも思わない。
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