18 / 33
なつめ
しおりを挟む
章吾が女を抱きに行った。
分かってる。それくらいのことは、分かってる。高校に上がった頃から、章吾は俺と寝た後に女を抱きに行くようになった。
悔しいとか妬ましいとは、思わない。というか、思ってはいけない。俺は男だし、章吾のなんでもない。文句を言える立場にはいない。
自分の部屋へあがり、ベッドに転がった俺は、それでもやはり一人に耐えられなくなって、スマホを掴む。
「もしもし? 鈴村さん?」
声が震えた。自分は傷ついているのだとアピールしているようで、嫌になる。それでも俺は、電話をかけずにはいられない。
電話の向こうで、鈴村さんは少し笑った。
『うん。どうしたの? っていうか、中村くんのことだよね?』
俺は情けなくも、崩折れるように頷いた。そして、頷いただけでは鈴村さんには伝わらないことを思い出して、うん、と、声を絞り出した。
『なあに? 今日はどうしたの?』
「どうもしない。……どうもしないんだ。いつもと同じだよ。」
『じゃあどうして、そんな声してるのよ?』
そんな声、というのがどんな声なのかが、俺にはまるで分らない。ただ、きっとひどい声をしているんだろうな、と思う。鈴村さんはいつだって同じように、軽やかで優しい声で電話に出てくれるのに。
中三の夏、俺に好きだと言ってくれた人は、この世でたった一人、俺と章吾の関係を知っているひとで。俺はどうしても一人になりたくない日には、この人に電話をかける。自分が残酷なことをしているのは承知の上で、それでも、他の誰にもなにも話せないから。
「章吾に、一緒にいてくれって言われたよ。……これまでずっと、二人で楽しかっただろうって……。」
切れ切れに、なんとか言葉を紡ぐ。すると鈴村さんは、小さく息をつき、それで、上原君はどうしたの? と尋ねてくれた。こんな話を、聞きたいわけでもないだろうに。
「……セックスだけしようって言ったよ。」
声は、勝手に揺れていた。セックスだけしよう、といったときの、裏切られた子どもみたいな章吾の表情を思い出すと。
『……なんで、そんなふうに言ったの?』
「なんで……?」
『好きなんでしょう? 上原くんが。チャンスだったじゃないの。』
「チャンス……?」
到底そうは思えなかった。章吾は、今も昔も勘違いしているだけだ。性欲にプラスして、親や友達から得られなかった情を、俺一人から得られると誤解して。
そんなのは、チャンスではない。誤解はいつかは解ける。そうしたら、恋人ごっこなんかしてしまった日には、俺たちの仲にはなにも残らない。それだったら、ただセックスだけしていた方が何倍もましだ。
分かってる。それくらいのことは、分かってる。高校に上がった頃から、章吾は俺と寝た後に女を抱きに行くようになった。
悔しいとか妬ましいとは、思わない。というか、思ってはいけない。俺は男だし、章吾のなんでもない。文句を言える立場にはいない。
自分の部屋へあがり、ベッドに転がった俺は、それでもやはり一人に耐えられなくなって、スマホを掴む。
「もしもし? 鈴村さん?」
声が震えた。自分は傷ついているのだとアピールしているようで、嫌になる。それでも俺は、電話をかけずにはいられない。
電話の向こうで、鈴村さんは少し笑った。
『うん。どうしたの? っていうか、中村くんのことだよね?』
俺は情けなくも、崩折れるように頷いた。そして、頷いただけでは鈴村さんには伝わらないことを思い出して、うん、と、声を絞り出した。
『なあに? 今日はどうしたの?』
「どうもしない。……どうもしないんだ。いつもと同じだよ。」
『じゃあどうして、そんな声してるのよ?』
そんな声、というのがどんな声なのかが、俺にはまるで分らない。ただ、きっとひどい声をしているんだろうな、と思う。鈴村さんはいつだって同じように、軽やかで優しい声で電話に出てくれるのに。
中三の夏、俺に好きだと言ってくれた人は、この世でたった一人、俺と章吾の関係を知っているひとで。俺はどうしても一人になりたくない日には、この人に電話をかける。自分が残酷なことをしているのは承知の上で、それでも、他の誰にもなにも話せないから。
「章吾に、一緒にいてくれって言われたよ。……これまでずっと、二人で楽しかっただろうって……。」
切れ切れに、なんとか言葉を紡ぐ。すると鈴村さんは、小さく息をつき、それで、上原君はどうしたの? と尋ねてくれた。こんな話を、聞きたいわけでもないだろうに。
「……セックスだけしようって言ったよ。」
声は、勝手に揺れていた。セックスだけしよう、といったときの、裏切られた子どもみたいな章吾の表情を思い出すと。
『……なんで、そんなふうに言ったの?』
「なんで……?」
『好きなんでしょう? 上原くんが。チャンスだったじゃないの。』
「チャンス……?」
到底そうは思えなかった。章吾は、今も昔も勘違いしているだけだ。性欲にプラスして、親や友達から得られなかった情を、俺一人から得られると誤解して。
そんなのは、チャンスではない。誤解はいつかは解ける。そうしたら、恋人ごっこなんかしてしまった日には、俺たちの仲にはなにも残らない。それだったら、ただセックスだけしていた方が何倍もましだ。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる