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雛子は、菜乃花の家から電車を使って30分くらいかかるところにあるアパートに住んで、在宅でイラストレーターをしている。独身で、恋人もいないという。雛子を待つ30分間は、いつも長い。とても。髪を直し、化粧を直し、スカートの皺を伸ばす。それでも時間は全然たっていない。それで菜乃花はテレビなんかのスイッチを入れてみる。夫がテレビ嫌い、というか、音の出るものは全て嫌いなので、夫が家にいる間は菜乃花もテレビをつけない、そうして暮らしてみると、別段テレビなんか必要でないような気もしてきて、普段はひとりで部屋にいるときもテレビはつけない。独身時代は、ニュース番組はかかさず見ていたし、恋愛ドラマやお笑い番組にはまったこともあったのだけれど、そんなの全部、嘘みたいだ。
ぱっと明るくなったテレビ画面が、昼間の主婦向けの情報番組を映しだす。菜乃花は画面に集中して、最近はやりだという大型のスーパーマーケットの特集コーナーの内容を頭に入れようとしたのだけれど、すぐに諦めてテレビを消した。なにもかもが耳を素通りしていく。それを自覚するのが嫌だった。
夫は今頃もう、あの男のひとと合流したのだろうか。あのひととふたりきりのとき、夫はどんな顔をするのだろう。いつもの神経質な無表情ではなく、学生時代にそうであったように、笑ったり自分から口をきいたりもするのだろうか。
夫が結婚して数年たつうちに、ほとんどしゃべらず神経質な表情を浮かべるようになったことに対して、菜乃花は別に、騙されたなんて思ってはいない。菜乃花だって、草平と付き合っていたことは見せなかった怠惰なところや、いくらかの意地悪さだって、今の草平には見せている。だからそんなことは、お互いさまだとは思うのだ。だけど時々、あのころの草平に会いたい、と思うことはある。あの頃の草平は、やさしい顔で笑ったし、確かに菜乃花を好きでいてくれた。最後に草平が、菜乃花に愛しげに微笑んでくれたのがいつだったか、菜乃花はもう、思い出せない。
雛子が来る前に、近所のコンビニエンスストアかスーパーマーケットに行って、なにか甘いものでも買ってこようか。
鬱々とまわりだした思考を食いとめたくて、菜乃花はそう考えたのだけれど、ソファに一度腰を下してしまうと、もう腰を上げることができなくなった。
疲れた、というのではない。今日、菜乃花は疲れるようななにもしていないし、昨夜は夫が出かけてしまうことも知らずによく眠った。
だったら、この感覚は、なんなのか。
菜乃花はずんと痺れるように重い瞼を閉じて、ソファの背もたれにもたれかかった。
ぱっと明るくなったテレビ画面が、昼間の主婦向けの情報番組を映しだす。菜乃花は画面に集中して、最近はやりだという大型のスーパーマーケットの特集コーナーの内容を頭に入れようとしたのだけれど、すぐに諦めてテレビを消した。なにもかもが耳を素通りしていく。それを自覚するのが嫌だった。
夫は今頃もう、あの男のひとと合流したのだろうか。あのひととふたりきりのとき、夫はどんな顔をするのだろう。いつもの神経質な無表情ではなく、学生時代にそうであったように、笑ったり自分から口をきいたりもするのだろうか。
夫が結婚して数年たつうちに、ほとんどしゃべらず神経質な表情を浮かべるようになったことに対して、菜乃花は別に、騙されたなんて思ってはいない。菜乃花だって、草平と付き合っていたことは見せなかった怠惰なところや、いくらかの意地悪さだって、今の草平には見せている。だからそんなことは、お互いさまだとは思うのだ。だけど時々、あのころの草平に会いたい、と思うことはある。あの頃の草平は、やさしい顔で笑ったし、確かに菜乃花を好きでいてくれた。最後に草平が、菜乃花に愛しげに微笑んでくれたのがいつだったか、菜乃花はもう、思い出せない。
雛子が来る前に、近所のコンビニエンスストアかスーパーマーケットに行って、なにか甘いものでも買ってこようか。
鬱々とまわりだした思考を食いとめたくて、菜乃花はそう考えたのだけれど、ソファに一度腰を下してしまうと、もう腰を上げることができなくなった。
疲れた、というのではない。今日、菜乃花は疲れるようななにもしていないし、昨夜は夫が出かけてしまうことも知らずによく眠った。
だったら、この感覚は、なんなのか。
菜乃花はずんと痺れるように重い瞼を閉じて、ソファの背もたれにもたれかかった。
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