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「今更夫を疑うの?」
軽くからかうみたいな口調で雛子が言った。菜乃花は考えることもせずただ素直に、今更だからよ、と答えた。
今更だからだ。今更。これまでずっと、勘違いだけで一緒にいたのだとしたら、子どもができた、今だから。
「好きでもない相手と、なんでセックスするの。」
雛子が心底不思議そうに言って、菜乃花はそれに答える言葉を持たなかった。
好きでもない相手と、なんで。
分からなかった。なんで草平が自分とセックスしたのかも、なんで自分が草平とセックスしたのかも。
最初に性交したのは、大学生のときだ。あの頃の草平は、誰から見ても分かるくらい、菜乃花をほしがっていた。だから、草平が一人暮らしをしていたアパートで抱かれるのは、考えるまでもない当たり前のことみたいな気がしていた。
最後に性交したのは、二か月くらい前。誘ったのは菜乃花だった。ベッドの中で、草平の腰に腕を回した。それが結婚する前からの、菜乃花の合図だった。昔、草平はそんな菜乃花のことを、かわいい、と言って抱いた。でも今は、草平はなにも言わない。ただ、黙ったまま菜乃花を抱くだけだ。部屋が暗いから。そのとき草平がどんな表情をしているのかは、菜乃花には分からない。義務感で、いやいやしていることなのかもしれない。
「ほんとに、不思議よ、菜乃花は。」
雛子が呆れたように呟く。
「私とも、簡単に寝たよね。好きだって言っても、ずっと、冗談でしょって流してきたくせに、抱かせてって言ったら、それはあっさりおっけーだったじゃん。」
「……不思議?」
「不思議。」
「私、変?」
「ちょっとね。」
「……だから、かなあ。」
「なにが?」
「だから草ちゃんは、行っちゃうのかな。」
菜乃花が変だから、草平は菜乃花じゃない別のひとと、温泉旅行なんかに行ってしまうのだろうか。菜乃花に疲れて。数回だけ顔を見たことがある、あの男のひとは、普通な感じだった。同性愛者、という雰囲気すらない、清潔な感じのする、普通の男のひと。
「……さあ。」
雛子は菜乃花から視線をそらさないまま、軽く肩をすくめた。
「旦那さん、顔だけはいいもんね。それに、ああいう陰気な感じを色っぽいって思うひとって、案外いそう。」
もてるだろうね、相手には困らないんじゃない、と、雛子は嫌味っぽくもなく言った。菜乃花も、だからあっさり頷いた。相手には困らないであろう夫。その夫が、おんなのひとではなくて、わざわざ男のひとと行ってしまうこと。それは何か特別なことのような気がして、菜乃花は認めたくないのかもしれなかった。
軽くからかうみたいな口調で雛子が言った。菜乃花は考えることもせずただ素直に、今更だからよ、と答えた。
今更だからだ。今更。これまでずっと、勘違いだけで一緒にいたのだとしたら、子どもができた、今だから。
「好きでもない相手と、なんでセックスするの。」
雛子が心底不思議そうに言って、菜乃花はそれに答える言葉を持たなかった。
好きでもない相手と、なんで。
分からなかった。なんで草平が自分とセックスしたのかも、なんで自分が草平とセックスしたのかも。
最初に性交したのは、大学生のときだ。あの頃の草平は、誰から見ても分かるくらい、菜乃花をほしがっていた。だから、草平が一人暮らしをしていたアパートで抱かれるのは、考えるまでもない当たり前のことみたいな気がしていた。
最後に性交したのは、二か月くらい前。誘ったのは菜乃花だった。ベッドの中で、草平の腰に腕を回した。それが結婚する前からの、菜乃花の合図だった。昔、草平はそんな菜乃花のことを、かわいい、と言って抱いた。でも今は、草平はなにも言わない。ただ、黙ったまま菜乃花を抱くだけだ。部屋が暗いから。そのとき草平がどんな表情をしているのかは、菜乃花には分からない。義務感で、いやいやしていることなのかもしれない。
「ほんとに、不思議よ、菜乃花は。」
雛子が呆れたように呟く。
「私とも、簡単に寝たよね。好きだって言っても、ずっと、冗談でしょって流してきたくせに、抱かせてって言ったら、それはあっさりおっけーだったじゃん。」
「……不思議?」
「不思議。」
「私、変?」
「ちょっとね。」
「……だから、かなあ。」
「なにが?」
「だから草ちゃんは、行っちゃうのかな。」
菜乃花が変だから、草平は菜乃花じゃない別のひとと、温泉旅行なんかに行ってしまうのだろうか。菜乃花に疲れて。数回だけ顔を見たことがある、あの男のひとは、普通な感じだった。同性愛者、という雰囲気すらない、清潔な感じのする、普通の男のひと。
「……さあ。」
雛子は菜乃花から視線をそらさないまま、軽く肩をすくめた。
「旦那さん、顔だけはいいもんね。それに、ああいう陰気な感じを色っぽいって思うひとって、案外いそう。」
もてるだろうね、相手には困らないんじゃない、と、雛子は嫌味っぽくもなく言った。菜乃花も、だからあっさり頷いた。相手には困らないであろう夫。その夫が、おんなのひとではなくて、わざわざ男のひとと行ってしまうこと。それは何か特別なことのような気がして、菜乃花は認めたくないのかもしれなかった。
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