境界線

美里

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トレーに月見バーガーと、コーラとポテト二人分を乗っけ、潤の正面の席に座る。
 潤は月見バーガーの包を開きながら、私にちらりと目をやった。
 慣れた視線だった。とっとと話せ、と潤は目線で促しているのだ。
 一時間。
 ちらりと腕時計に目をやると、もうすぐ午後10時だ。
 潤は優しいから、本当に一時間で切り上げるつもりで来てはいないだろう。私の話が終わるまで、なんだかんだで黙って話を聞いてくれるはずだ。けれど彼は高校生で、明日も朝から授業がある。そう長くは引き止めておけなかった。
 「兄貴に呼び出されたの。」
 頭の中がまとまらないまま。私はぎくしゃくと言葉を紡ぐ。
 「食事に行かないかって。それで、行ったの、私。」
そう、と、月見バーガーをかじりながら潤が軽く頷く。
 それで……。
 私は言葉に詰まり、コーラを一口啜った。
 潤は特に言葉を急かしもせずに、ポテトに手を出した。
 「それでね……、また誘うって、言われたわ。」
 声は掠れた。兄とキスをしたと、本当は言いたかった。潤に、聞いてほしかった。それでも唇は躊躇った。だって、潤は16歳の高校生だ。
 すると、その16歳の高校生は、ポテトをコーラで飲み下した後、寝たの? と問うてきた。あまりにもさばけた、当たり前のことみたいなトーンで。
 私は首を横に振った。そして、キスはした、と言った。
 潤ははじめから、私と兄がキスをしたことを承知の上だったのかもしれない、と思った。だから、寝たの、なんて訊いてみて、私が少しでも話しやすいように。
 「それは、無理やり? それとも、美月ちゃんも望んで?」
 私は言葉に詰まり、曖昧に首を傾げた。
 無理やりだと言ってしまいたかったけれど、潤の前で不正確な事を言うのが嫌だった。
 無理やり、だったのだろうか。私は、わずかたりともそれを望まなかったと言い切れるだろうか。
 兄の口づけ。
 一瞬たりともそれを望まなかったと、言い切れるのだろうか。
 黙り込んだ私の前で、潤は淡々とポテトを消費していたが、いつもの彼らしい冷涼とした調子で言った。
 「望んでいたとしても、後悔はするんでしょう。だったらそれは、望んでないのと一緒のことだよ。」
 後悔。
 私はそれをし続けてきたと言っても過言ではない。
 涙が出そうになって、瞬きを繰り返す。
 潤は表情を変えずに、ペーパーナプキンを私によこしてくれた。


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