共有物としての男

美里

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叔父

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 俺にお屋敷での仕事の話を持ち込んできたのは、数年前、中国に行く船の上で知り合った、友人と言うほどの仲ではないけれど、知り合いと言ってしまうと若干引っ掛かりがあるような、そんな関係の男だった。
 「とにかく、見ざる言わざる聞かざるができるやつが条件なんだよ。お前、そういうの得意だろ?」
 男の物言いには、いささかの皮肉が感じられた。彼とは、何回か寝た。最後は彼の恋人の女性が殴りこんできたのだけれど、そのとき俺はなにも言わなかった。ただ、服を着て、彼の部屋を出た。言うことがなにもなかったからだ。彼は多分、そのときのことを思い出しているのだろう。彼は恋人を置いて俺を追ってきたのだけれど、俺はそれを無視した。
 「……そうだね。」
 真冬だった。午後から雪がちらつきだしたけれど、空はぼんやりとまだ明るかった。喫茶店の中は暖房が効いていてあたたかく、俺はホットココアのカップで手を温めながら、ぼんやりと頷いた。
 高校を出てから、ずっと国内外を問わず、ふらふらしながら時間をやり過ごしてきた。金がなくなればアルバイトをしたけれど、ひとところに落ちつけたことはなかった。そろそろまともに働かなくてはならない。そんなふうに思いはじめたのは、兄貴に娘が生まれたせいだろうか。兄貴とは年が離れていたけれど、俺だって年は取る。いくら時間を適当に潰していたって、そのまま人生が、流れるように終わってくれるとも限らない。
 俺の向かいで珈琲を飲みながら、テーブルの下で手を握ってくる男は、前にその屋敷で働いていたのは、口のきけないひとだったと言った。それを聞いて俺は、そこでしばらく働いてみようかな、と思ったのかもしれない。とにかく、しばらく。落ち着ける場所があるならば、人間落ち着いて暮らした方がいい。いろんなところを彷徨った結果、俺はそう学んではいた。
 「……いいね。紹介してくれる?」
 「もちろん。……意外だな。お前が勤労するって。」
 「意外? じゃあ、なんで声かけたの?」
 この男も、俺と同じようにあちこちを旅行して回っているタイプで、日本に戻ってきたときにも、これまで一度も連絡を取ったことはなかった。それがいきなり電話をかけてきたと思ったら、仕事を紹介したいと言い出したのだ。
 「……なんでだろうな。向いてるような気がしたよ。」
 やっぱり若干の皮肉がこもっているように聞こえる男の言葉を、俺は曖昧に聞き流した。
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