共有物としての男

美里

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 無言の、随分と長い時間が流れた気がしたけれど、もしかしたら一瞬のことだったのかもしれない。とにかく、その時間の後、真澄さんは片手で俺の肩を抱いた。しなやかで、なんの引っかかりもない動作だった。そうすることが、ごく当たり前みたいな。その、親しい友人相手にするみたいな動作になぜだか俺は、性の匂いをかいだ。
 国内外問わず、あちこちをふらふらしていた間に、そんな誘いは腐るほど受けた。男からも、おんなからも。どうせすぐに消えていく旅の人間は、一夜の相手にはちょうどよかったのだろう。大抵俺は、その誘いを断った。単純に病気が怖かったし、自分がどこまで行ってしまうのか分からない不安もあった。多分俺は、どの誘いも受け入れることはできたのだ。
 時々誘いに乗ることもあったけれど、それは別に相手が好みの外見をしていたとか、ちょうど性欲がたまっていたとかそんな理由でもなくて、相手の手の切実さにおされてだった。今、俺が拒絶をしたら、この相手は、なにかとんでもないことをしでかすかもしれない。レイプや、他殺や、自殺や、もっとひどいなにかを。そんな切実さがあるときだけ、俺は性的な誘いに乗った。
 その切実さは大抵の場合、金銭的、身体的、精神的にも、絶望的な縁にいるひとから発せられた。だから俺は、金銭的に恵まれ、外見も非常にうつくしく、常の態度も穏やかで文句のつけようがない真澄さんから、その手の切実さが感じ取れたことに、内心でかなり驚いていた。
 「……、」
 あの、
 その先になにか、言葉を用意できていたわけではない。ただ、なにか言葉を発しないといけないと、切り立った崖に追い詰められたみたいな気分で考えていただけだ。けれども、俺が決死の覚悟で口にした言葉はそのまま、真澄さんの喉奥に吸い込まれていった。
 人形みたいにうつくしいひとでも、こんなに性的なキスをするのか。
 喉の奥の奥まで探るようなキスをされながら、俺はぼんやりそんなことを思った。じりじりと鳴り続ける警報と、真澄さんから漂う切実な気配。俺は多分、自分で思うより混乱していた。だから、なんの言葉も紡げず、わずかな抵抗も示せず、そのまま真澄さんの部屋に引き入れられたのだ。毎朝食事を運ぶその部屋は、常に適切な温度に保たれているはずなのに、服を脱がされ、ベッドに身を横たえてみると、ひどく寒いように感じられた。
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