女衒真澄と三人の女郎

美里

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 野分花魁の居室は、一年以上前に足を踏み入れた時と、まるで様子が変わっていなかった。調度品は渋い銀色と濃い青色で統一され、やはり濃い青の浴衣を着た野分花魁も、うつくしい調度品の一部に見える。
 「真澄さんを連れてまいりました。」
 こはまが襖の前で、きちんと正座をしてそう告げると、こちらに背を向けて煙管をふかしていた野分がゆっくりと振り返る。
 「こはま、下がっていなさい。」
 「はい。」
 涼しげな声音や視線はかつてのまま、ただ、もとよりすらりとしていた肢体が、以前より幾分痩せた気もする。
 「真澄、こっちに。」
 「……はい。。」
 なにか野分花魁に怒られるようなことをしたっけな、などと職員室に呼び出された子供のようなことを考えながら、真澄は野分花魁のすぐ隣に用意された濃紫色の座布団に腰を下した。
 がちがちに緊張する真澄を見て、野分はさも可笑しそうに口元を押さえて笑った。この花魁の笑顔は華やかでうつくしいのだけれど、なぜだか周囲の気温を数度は下げる。真澄は野分花魁を直視できず、彼女の肩の少し上あたりに視線を固めていた。
 「叱るために呼んだんじゃないのよ。」
 くすり、と笑いながら野分はそっと真澄の肩を叩いた。
 「じゃあ、どんな御用で?」
 なにもかも見抜かれているようだ、と落ち着かない気分で尋ねながらも、真澄の気持ちはこはまから聞いた、直巳の不在の方に偏っている。
 それを察したのだろう、野分花魁は真澄の肩から手を離し、静かに言った。
 「直巳なら出て行ったわよ、夜中に。もう、戻っては来ないでしょうね。」
 「なんで、出て行ったんですか?」
 身を乗りだして問う真澄に、野分花魁は苦笑を一つ漏らした。
 「そんなの、直巳にしか分からないでしょう。」
 そう言われても、真澄だって、はい、そうですか、と引き下がるわけにもいかない。
 「野分花魁なら、知ってるんじゃないですか?」
 「さぁ。一緒に行こうって誘ったのに、断られてしまったしね。」
 「一緒に?」
 「ええ。」
 「花魁も、桜町を出るつもりだったんですか?」
 真澄は驚いて、野分花魁の切れ長の双眸を凝視した。桜町から出て行く。野分花魁が。驚きすぎてそれ以上の言葉は紡げなかった。
 そんな真澄を見て、野分花魁はまた笑った、長い睫毛を伏せ、どこか遠くを見るような目で、ふふ、と軽く。
 花魁、と真澄が彼女を呼ぶ。それ以上なにも言えないまま、花魁、と繰り返し彼女を呼んだ。
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