9 / 19
5
しおりを挟む
痛い、俺は言った。本当はどこも痛くはなかったけれど、とっさに出た台詞だった。
すると想像通り、高峰さんは俺の衣類を剥ぎ取る手を止めた。
痛い。
そんな一言で揺らぐような決意なら、レイプなんかするもんじゃない。
速人はいつも、俺が本気で痛がっても、吐くほど嗚咽しても、絶対に手を止めたりはしあい。
世間一般の見方からすれば、高峰さんが善人で速人は悪人なんだろうけど、俺にはそうは思えなかった。
犯すなら、身体も心も犯すつもりなら、無駄な優しさなんて出すもんじゃない。
それがレイプする側のせめてもの礼儀だろう、と、イカれた俺の頭は考える。
「ごめんね。」
高峰さんの声は掠れていた。それは、今にも泣き出しそうなくらい。
大きな身体と端正な容姿を持つ大の男が、ほんの小さな男の子のように見えた。
俺はしばらく躊躇った後、自分で残りの服を脱いだ。
「これで、最後にしましょうよ。」
俺の声は掠れても震えてもいなかった。そのことに安堵しながら、俺は高峰さんの頭を胸に抱き込む。
「ちょっとだけ道を間違えただけですよ。今からでも修正はちゃんと効く。高峰さんは、頭も要領もいいんですから。」
この声が高峰さんに、優しく聞こえていればいいな、と思った。
優しくしたいと思ったのは本当だった。だって、速人に抱かれてぼろぼろになった俺を癒やしてくれたのは、確かにこの人の腕なのだから。
俺の薄い胸の中で、高峰さんは深く息を吐いた。
俺はその呼気に気がついていないふりをした。
だって、俺には高峰さんを受け入れるだけの余裕がない。
「大丈夫。高峰さんなら上手くやれますよ。」
その言葉も、慰めではなくて本気だった。
高峰さんなら上手くやれる。俺にはもう不可能なことだって。
「……きみは、最後まで優しいね。」
ぽつん、と、高峰さんが言った。
俺はそれが聞こえないふりをした。
俺は優しくなんかない。それは、俺自身が一番よく分かっている。
ただ、高峰さんが『最後』と言ってくれたことには安堵をしていた。
これで最後。もう二度と会わない。
それから俺達はセックスをした。ぽつん、ぽつん、と、お互いを思いやるような、そんなセックスを。
それからいつもの通りに、高峰さんは俺を家まで送ってくれた。
車の中では、なんの話もしなかった。ただ、黙っていた。
そして、車から降りるとき、高峰さんは俺を引き寄せ、キスをした。
長い口づけだった。俺はじっとして、高峰さんの唇の温度を記憶に刻みつけていた。
すると想像通り、高峰さんは俺の衣類を剥ぎ取る手を止めた。
痛い。
そんな一言で揺らぐような決意なら、レイプなんかするもんじゃない。
速人はいつも、俺が本気で痛がっても、吐くほど嗚咽しても、絶対に手を止めたりはしあい。
世間一般の見方からすれば、高峰さんが善人で速人は悪人なんだろうけど、俺にはそうは思えなかった。
犯すなら、身体も心も犯すつもりなら、無駄な優しさなんて出すもんじゃない。
それがレイプする側のせめてもの礼儀だろう、と、イカれた俺の頭は考える。
「ごめんね。」
高峰さんの声は掠れていた。それは、今にも泣き出しそうなくらい。
大きな身体と端正な容姿を持つ大の男が、ほんの小さな男の子のように見えた。
俺はしばらく躊躇った後、自分で残りの服を脱いだ。
「これで、最後にしましょうよ。」
俺の声は掠れても震えてもいなかった。そのことに安堵しながら、俺は高峰さんの頭を胸に抱き込む。
「ちょっとだけ道を間違えただけですよ。今からでも修正はちゃんと効く。高峰さんは、頭も要領もいいんですから。」
この声が高峰さんに、優しく聞こえていればいいな、と思った。
優しくしたいと思ったのは本当だった。だって、速人に抱かれてぼろぼろになった俺を癒やしてくれたのは、確かにこの人の腕なのだから。
俺の薄い胸の中で、高峰さんは深く息を吐いた。
俺はその呼気に気がついていないふりをした。
だって、俺には高峰さんを受け入れるだけの余裕がない。
「大丈夫。高峰さんなら上手くやれますよ。」
その言葉も、慰めではなくて本気だった。
高峰さんなら上手くやれる。俺にはもう不可能なことだって。
「……きみは、最後まで優しいね。」
ぽつん、と、高峰さんが言った。
俺はそれが聞こえないふりをした。
俺は優しくなんかない。それは、俺自身が一番よく分かっている。
ただ、高峰さんが『最後』と言ってくれたことには安堵をしていた。
これで最後。もう二度と会わない。
それから俺達はセックスをした。ぽつん、ぽつん、と、お互いを思いやるような、そんなセックスを。
それからいつもの通りに、高峰さんは俺を家まで送ってくれた。
車の中では、なんの話もしなかった。ただ、黙っていた。
そして、車から降りるとき、高峰さんは俺を引き寄せ、キスをした。
長い口づけだった。俺はじっとして、高峰さんの唇の温度を記憶に刻みつけていた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる