観音通りにて・兄

美里

文字の大きさ
2 / 34

しおりを挟む
 「ひどい雨だし、こんな時間に……家出?」
 男が軽く首を傾げると、長めに伸びた薄い色の髪が肩に流れ、甘い花の匂いがした。ソラはその匂いに気を取られながら、曖昧に頷いた。家出、というほど積極的なことをしたつもりはない。ただ、いられなくなった家を離れただけだ。ひとり、静かに。
 「歳は……12くらい?」
 「……。」
 ソラはまた、曖昧に頷いた。ソラは本当は15だ。ただ、子どもの頃からずっと栄養状態が悪かったせいか、身長が低いし骨も細い。せいぜい12くらいにしか見えないことは承知していた。
 「行くとこ、ないんだね。」
 うつくしい男娼が、ひとりごとみたいに小さく呟いた。
 「俺と一緒。」
 ソラはその発言を意外に思って、彼の白い顔を見上げた。だってさっきこのひとは、しつこい客が家に来ると言ってきかない、と言っていた。このひとには、帰る家があるはずだ。
 彼は、ソラの視線を瑕疵のないなめらかな頬で受けながら、静かに微笑んだ。ソラはその表情を見て、なぜだか分からないけれど、このひとは泣くかもしれない、と思った。もちろん、実際のところはそんなことはなく、彼はただ微笑んだだけだったのだが。
 「名前、なんていうの?」
 「……ソラ。」
 「そう。俺はユウ。」
 ユウさん、と、ソラは唇になじまない名前をそっと口にしてみる。彼は、じっとソラを見下ろし、少し笑った。
 「俺の家、そこ。」
 彼が指差した先には、こぎれいな白い壁のアパートがあった。駅の裏から歩いてほんの数分だけれど、辺りは静かな住宅街だ。
 「入って。」
 言われたソラは、躊躇った。ソラとて、自分にうっかり関われば、その相手が未成年略取の犯罪者になることくらいは認識していた。
 けれどユウは平気な顔で、またソラの背中にてのひらを当てた。その体温に、ソラの心は簡単に負ける。これまでの人生で、一度も与えられたことがないもの。
 「いいんだ。今肝心なのは、きみがずぶ濡れだってことだけだよ。」
 ユウはさらりとそう言って、アパートの一階角部屋の鍵を開け、ソラの背中を押して中に招き入れた。ソラは、躊躇ったまま、どうしていいのか分からないまま、彼の手に従った。
 「シャワーを浴びてきなよ。なにか、食べるものも用意しておくから。」
 ユウはソラの背中から手を離さず、玄関を開けて右側にある風呂場のドアを開け、ソラを中に押し込んだ。
 ソラは、ユウの浮世離れした見た目に似合わぬ強引さに驚きながら、しばらく風呂場の脱衣所に立ち尽していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...