3 / 34
3
しおりを挟む
土砂降りの中に昼間からずっといたので、すっかりびしょ濡れになっていた服を、長い躊躇の後、ソラは静かに脱いだ。さっき出会ったばかりの赤の他人のテリトリーで裸になることには、恐怖や不安があったけれど、もうどうにでもなれ、と、思い切って全裸になる。痩せた自分の身体には、やはり今日も妙な現実感があり、はっきりと疎ましかった。
白いバスルームに入り、低い温度の湯を浴びる。熱帯夜で火照った身に、その温度が心地よい。
「着替えとタオル、置いとくから。」
擦りガラス越しに声がかかり、ソラは慌てて、ありがとうございます、と応じた。ユウは、それ以上なにも言わずにバスルームから出ていった。ソラはすぐにシャワーを終え、脱衣所に出る。洗濯機の上に、きちんと畳んだスウェットとタオルが置かれいた。両方とも、色は薄い水色だ。
身体を拭いて、スウェットを着て、これからどうしようか、と考え込んだ。行く場所はない。頼れる人もいない。孤独だった。
洗濯機に寄りかかるみたいに膝を抱えて座り、じっと頭を巡らせる。これからどこでどうやって生きていけばいいのか、いくら考えても答えは出そうになかった。
「ソラ? なにしてるの?」
どれくらい時間が経ったのか、脱衣所のドア越しにユウの声が聞こえた。
なにをしているのかは、自分でもよく分からない。これまで、分かったことなんかないような気もした。
ソラが、どう答えていいのか分からなくて黙っていると、開けるよ、と短く断ってからユウがドアを開けた。ソラは、じっと背中を冷たい洗濯機に押し付けていた。心が不安定で、足場も不安定で、そんな中、安定したフォルムの洗濯機に縋るのが一番安心みたいな気がしていた。
ユウは、洗濯機に背中をくっつけて小さくなっているソラを見て、小さく首を傾げた。そして、そんなところにいなくてもいいのに、と囁くように言った。
「食べるものを用意したよ。カップ麺で悪いけど。」
だからね、と、ユウは確かに微笑んだ。けれどソラにはその顔は、どうしようもなく悲しげな、泣き顔に見えた。
「だからね、そんなところに隠れていないで、こっちにおいで。」
ユウがソラに向かって、白くすらりと伸びた腕を差し伸べる。ソラは、その手につかまっていいのかどうか、一瞬逡巡した。けれど、この手を拒絶すれば、ユウが本当に泣くのではないかと思うと、そんなことはできなかった。なぜかは分からない。分からないけれど、ユウは、ソラを見ることで確かに傷ついている。
白いバスルームに入り、低い温度の湯を浴びる。熱帯夜で火照った身に、その温度が心地よい。
「着替えとタオル、置いとくから。」
擦りガラス越しに声がかかり、ソラは慌てて、ありがとうございます、と応じた。ユウは、それ以上なにも言わずにバスルームから出ていった。ソラはすぐにシャワーを終え、脱衣所に出る。洗濯機の上に、きちんと畳んだスウェットとタオルが置かれいた。両方とも、色は薄い水色だ。
身体を拭いて、スウェットを着て、これからどうしようか、と考え込んだ。行く場所はない。頼れる人もいない。孤独だった。
洗濯機に寄りかかるみたいに膝を抱えて座り、じっと頭を巡らせる。これからどこでどうやって生きていけばいいのか、いくら考えても答えは出そうになかった。
「ソラ? なにしてるの?」
どれくらい時間が経ったのか、脱衣所のドア越しにユウの声が聞こえた。
なにをしているのかは、自分でもよく分からない。これまで、分かったことなんかないような気もした。
ソラが、どう答えていいのか分からなくて黙っていると、開けるよ、と短く断ってからユウがドアを開けた。ソラは、じっと背中を冷たい洗濯機に押し付けていた。心が不安定で、足場も不安定で、そんな中、安定したフォルムの洗濯機に縋るのが一番安心みたいな気がしていた。
ユウは、洗濯機に背中をくっつけて小さくなっているソラを見て、小さく首を傾げた。そして、そんなところにいなくてもいいのに、と囁くように言った。
「食べるものを用意したよ。カップ麺で悪いけど。」
だからね、と、ユウは確かに微笑んだ。けれどソラにはその顔は、どうしようもなく悲しげな、泣き顔に見えた。
「だからね、そんなところに隠れていないで、こっちにおいで。」
ユウがソラに向かって、白くすらりと伸びた腕を差し伸べる。ソラは、その手につかまっていいのかどうか、一瞬逡巡した。けれど、この手を拒絶すれば、ユウが本当に泣くのではないかと思うと、そんなことはできなかった。なぜかは分からない。分からないけれど、ユウは、ソラを見ることで確かに傷ついている。
11
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる