17 / 34
3
しおりを挟む
「弟? あんたは弟に手を出すのがほんとに好きみたいだね。天涯孤独のくせに。」
投げ出すように吐かれた台詞は、耳を疑うようなものだった。
天涯孤独のくせに、弟に手を出すのが好き。
言語として矛盾しているし、ソラはユウに手など出されていない。そんな素振りすら見たことはない。
どういう意味だ、と、ソラがじっと耳を澄ませて身を固くしていると、ユウがまた低くなにか言うのが聞こえた。内容までは、今度も聞き取れない。
「見せてよ、あんたの弟。」
見知らぬ男の声が、小ばかにしたようにその台詞を口にすると、ユウが今度ははっきりと聞き取れる激したトーンで、やめて、と口にした。
「イズミには関係ないだろ。関わらないでくれ。」
「関係ない? どこが? あんたの新しい男って言うなら、俺には関係あるでしょ。新しい男できたからって、簡単に捨てられると思うなよ。」
「イズミ、」
「見せろ。」
自分に関することで、誰かが揉めている。それ自体がもう、ソラには堪えられないことだった。やめて、と言って、咄嗟に玄関まで駆け出していく。ユウが、驚いたようにこちらを見る、その視線に反応することもできないまま、ソラはユウと男の間に割り込んだ。男は、ソラを見ると、喉の奥で低く笑った。それは、どこからどう聞いても不穏な笑い声だった。
「へえ、また、ガキ。俺が育ったから、乗り換えるってわけ。」
イズミ、と呼ばれたその男は、ソラよりは年上だろうが、ユウよりはいくつか年下に見えた。18歳くらいだろうか。容姿は十分に18歳のみずみずしさを持っているのに、表情が年増の女のように、よく言えば老成した色気があり、悪く言えば随分と老けて色悪に見えた。
「そんなんじゃ、ない。」
ユウの言葉には力がなかったし、常の飄々とした雰囲気もなく、追い詰められたように聞こえた。ソラはそのことに驚き、ユウの顔を見上げた。
ユウは、ソラを見ていなかった。ただ、ソラの頭の上を越えて、イズミを見つめていた。
「……金なら、持ってけ。でも、もう家には来ないでくれ、頼むから。」
「ふざけんなよ、金で片づけられる話だと思ってんのか。」
「……思ってない。思ってないけど、金くらいでしか片づけられない話だとも、思ってるよ。」
ユウはそう呟くように言うと、唇をきつく噛み、俯いてソラの肩をリビングの方へ押しやった。
「中にいて。」
ソラは、もちろん躊躇った。これまで、ユウの言いつけに背いたことはなかった。でも、今室内に戻ることは、そのまま完全にユウとイズミに、ひいてはユウの過去に背を向けることになると思うと、言いつけにそのまま従うことはできなかった。
投げ出すように吐かれた台詞は、耳を疑うようなものだった。
天涯孤独のくせに、弟に手を出すのが好き。
言語として矛盾しているし、ソラはユウに手など出されていない。そんな素振りすら見たことはない。
どういう意味だ、と、ソラがじっと耳を澄ませて身を固くしていると、ユウがまた低くなにか言うのが聞こえた。内容までは、今度も聞き取れない。
「見せてよ、あんたの弟。」
見知らぬ男の声が、小ばかにしたようにその台詞を口にすると、ユウが今度ははっきりと聞き取れる激したトーンで、やめて、と口にした。
「イズミには関係ないだろ。関わらないでくれ。」
「関係ない? どこが? あんたの新しい男って言うなら、俺には関係あるでしょ。新しい男できたからって、簡単に捨てられると思うなよ。」
「イズミ、」
「見せろ。」
自分に関することで、誰かが揉めている。それ自体がもう、ソラには堪えられないことだった。やめて、と言って、咄嗟に玄関まで駆け出していく。ユウが、驚いたようにこちらを見る、その視線に反応することもできないまま、ソラはユウと男の間に割り込んだ。男は、ソラを見ると、喉の奥で低く笑った。それは、どこからどう聞いても不穏な笑い声だった。
「へえ、また、ガキ。俺が育ったから、乗り換えるってわけ。」
イズミ、と呼ばれたその男は、ソラよりは年上だろうが、ユウよりはいくつか年下に見えた。18歳くらいだろうか。容姿は十分に18歳のみずみずしさを持っているのに、表情が年増の女のように、よく言えば老成した色気があり、悪く言えば随分と老けて色悪に見えた。
「そんなんじゃ、ない。」
ユウの言葉には力がなかったし、常の飄々とした雰囲気もなく、追い詰められたように聞こえた。ソラはそのことに驚き、ユウの顔を見上げた。
ユウは、ソラを見ていなかった。ただ、ソラの頭の上を越えて、イズミを見つめていた。
「……金なら、持ってけ。でも、もう家には来ないでくれ、頼むから。」
「ふざけんなよ、金で片づけられる話だと思ってんのか。」
「……思ってない。思ってないけど、金くらいでしか片づけられない話だとも、思ってるよ。」
ユウはそう呟くように言うと、唇をきつく噛み、俯いてソラの肩をリビングの方へ押しやった。
「中にいて。」
ソラは、もちろん躊躇った。これまで、ユウの言いつけに背いたことはなかった。でも、今室内に戻ることは、そのまま完全にユウとイズミに、ひいてはユウの過去に背を向けることになると思うと、言いつけにそのまま従うことはできなかった。
11
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる