16 / 34
2
しおりを挟む
ケーキがずらりと並んだショーウィンドウの前で、ソラは固まってしまった。これまで、生活必需品以外を選んで購入するという経験がなかったので、きらきらと小さく、その割に高価なケーキたちの前で、なにをどう選べばいいのかもわからず硬直してしまったのだ。
「チョコが好き? それともクリーム?」
見かねたユウが助け舟を出してくれても、それにも上手く答えられなかった。チョコもクリームも、好きとか嫌いとか言うほど食べたことがない。
「見た目が好きなのにしたら?」
ユウが、ショーウインドーを覗き込んでいた視線をソラに向け、ぽん、と彼の肩を叩いた。
じゃあ、これ、と、ソラは、おそるおそる、一番近くにあった白いケーキを指さした。するとユウは、すぐに頷いて、そのケーキを二つ買った。
ソラは、そっと持ってね、と、ユウに念を押されたケーキの箱を抱いて、部屋までの道をそわそわと歩いた。
部屋に戻るとすぐに、ユウがティーバックの紅茶を入れてくれた。ソファに並んで座り、本を片付けてからケーキの箱をあける。
「……きれい。」
ソラは、思わずそう呟いた。白いクリームに覆われ、きらきらのゼリーを飾り付けられた苺のショートケーキは、思わずそう呟いてしまうだけの魅力を持って、箱の中に鎮座していた。
「よかった。」
ユウは微笑んで、皿の上にケーキを乗せ、ソラの前に丁寧な仕草で置いた。
「漢字の練習、よく頑張ったね。」
ユウの白いてのひらが、ソラの髪を静かに撫でた。15歳の少年にするには、いささか不釣り合いな仕草だと思ったソラは、自分が年齢を偽っていることを、心苦しく思った。15歳。実年齢を知られれば、この家を追い出されるのではないかと思って怯えている自分がいた。
「ありがとう、ございます。」
声が、少しだけ震えた。ユウは、気が付かないふりをしてくれた。そして、二人がショートケーキにフォークをつけたところで、玄関のチャイムが鳴った。
「誰だろ?」
きょとんと、ユウが首を傾げた。この部屋に客が来たことは、ソラがここに来てから一度もなかった。
「ちょっと待っててね、見てくる。」
ユウがソファから立ち上がり、急ぎ足で玄関へ出ていく。ソラは、警戒しながらテーブルに皿を置き、じっと物音を探った。ユウは、どうしたって不用心なところがある。しつこい客がユウの後をつけてこの部屋の場所を知ってやってきた、なんてことも、あるかもしれない。
玄関のドアが開く低い音がして、その後ユウが、なにか言うのが分かった。声が潜められていて、内容までは聞き取れない。そしてその後、ソラの知らない男の声が続く。
「新しい男、作ったらしいね。見に来ちゃったよ。」
男? なんのことだろう、と首を傾げたソラの耳に、ユウの少し慌てたような声が突き刺さる。
「それ、弟。」
「チョコが好き? それともクリーム?」
見かねたユウが助け舟を出してくれても、それにも上手く答えられなかった。チョコもクリームも、好きとか嫌いとか言うほど食べたことがない。
「見た目が好きなのにしたら?」
ユウが、ショーウインドーを覗き込んでいた視線をソラに向け、ぽん、と彼の肩を叩いた。
じゃあ、これ、と、ソラは、おそるおそる、一番近くにあった白いケーキを指さした。するとユウは、すぐに頷いて、そのケーキを二つ買った。
ソラは、そっと持ってね、と、ユウに念を押されたケーキの箱を抱いて、部屋までの道をそわそわと歩いた。
部屋に戻るとすぐに、ユウがティーバックの紅茶を入れてくれた。ソファに並んで座り、本を片付けてからケーキの箱をあける。
「……きれい。」
ソラは、思わずそう呟いた。白いクリームに覆われ、きらきらのゼリーを飾り付けられた苺のショートケーキは、思わずそう呟いてしまうだけの魅力を持って、箱の中に鎮座していた。
「よかった。」
ユウは微笑んで、皿の上にケーキを乗せ、ソラの前に丁寧な仕草で置いた。
「漢字の練習、よく頑張ったね。」
ユウの白いてのひらが、ソラの髪を静かに撫でた。15歳の少年にするには、いささか不釣り合いな仕草だと思ったソラは、自分が年齢を偽っていることを、心苦しく思った。15歳。実年齢を知られれば、この家を追い出されるのではないかと思って怯えている自分がいた。
「ありがとう、ございます。」
声が、少しだけ震えた。ユウは、気が付かないふりをしてくれた。そして、二人がショートケーキにフォークをつけたところで、玄関のチャイムが鳴った。
「誰だろ?」
きょとんと、ユウが首を傾げた。この部屋に客が来たことは、ソラがここに来てから一度もなかった。
「ちょっと待っててね、見てくる。」
ユウがソファから立ち上がり、急ぎ足で玄関へ出ていく。ソラは、警戒しながらテーブルに皿を置き、じっと物音を探った。ユウは、どうしたって不用心なところがある。しつこい客がユウの後をつけてこの部屋の場所を知ってやってきた、なんてことも、あるかもしれない。
玄関のドアが開く低い音がして、その後ユウが、なにか言うのが分かった。声が潜められていて、内容までは聞き取れない。そしてその後、ソラの知らない男の声が続く。
「新しい男、作ったらしいね。見に来ちゃったよ。」
男? なんのことだろう、と首を傾げたソラの耳に、ユウの少し慌てたような声が突き刺さる。
「それ、弟。」
11
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる