観音通りにて・兄

美里

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三人目

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 ユウとソラの二人での暮らしに、三人目の男が割り込んできたのは、ソラが漢字練習帳の一冊目を終えたその日だった。
 「……これ、終わって。」
 もしよければ、二冊目が欲しい。
 ソラが、ユウの顔色を窺いながらそう切りだした、秋の午後。差し出された漢字練習帳を受け取り、ぱらぱらと目を通したユウは、ぱっと顔を明るくした。
 「もう終わったの? すごいじゃん。お祝いしないとな。」
 「え?」
 お祝い? なんの? と、ソラは驚いて目を白黒させた。これまで、なにについてでも、お祝いなんてされたことがなかった。
 「二冊目、買いに行こう。なにか読みたい本も買おう。実践がないと飽きるだろ。」
 飽きる、ということはなかった。ソラにとって、勉強をする、ということ自体が人生のイレギュラーで、とにかく知的好奇心は無尽蔵の泉みたいに尽きることがなかったのだ。でも、実践的になにかの本を、辞典片手に読んでみたいな、と思っていたのも事実だったから、ユウの申し出は、素直にうれしかった。
 「それに、お祝いのケーキでも買おうか。」
 ユウはそう付け加え、スウェットのままソファから立ち上がった。
 お祝いのケーキ。そういうものがこの世に存在することはなんとなく知ってたけれど、それが自分の身に降ってくることがあるとは、ちっとも思っていなかった。戸惑ったソラがその場に突っ立ったままでいると、ユウはにこりと微笑んで、彼の背中にてのひらを当てた。
 「行こう。」
 「……はい。」
 2人は、連れだって駅前の商店街に出た。一冊目の漢字練習帳を買った本屋で、二冊目を選ぶ。ソラは、難易度別に並んだ練習帳の下から二番目を選び出し、ユウは、絵本売り場で次々とうつくしい表紙の絵本を引っ張り出しては、ソラの前に並べた。
 「どれがいい?」
 「……分かりません。どれなら読めるのかな。」
 「絵が好きなのにすればいいよ。そうすれば、もしまだ読めなくても楽しい。」
 散々迷った挙句、ソラは表紙に銀箔入りで魚群の影が描かれた絵本を一冊選び出した。ユウは、もうちょっと難しいのも挑戦用に買っておこうか、と言って、子供用の偉人の伝記も買ってくれた。
 「じゃあ、次はケーキだ。」
 本の入った紙袋をぶら下げたユウが、無造作な仕草でケーキ屋のドアを開け、中に入って行く。お菓子の家みたいな薄オレンジ色の屋根とクリーム色の壁をしたその建物が、自分の人生に関係してくることがあるなんて、全く思っていなかったソラは、無意識に小さくなりながら彼の後を追った。
 
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