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その晩、俺は夢を見た。母さんの夢だ。いや、違う。母さんに似た女の人の夢だ。その人は、俺に手を差し伸べた。その手は荒れていた。それで俺は、その人が母さんではないと分かった。母さんの手は、いつも白くてきれいだったから。
荒れたその手の人は、俺に向かって微笑んでいた。俺はそれを、空しいと思った。だってそれは、母さんではなかったから。多分それは、短い夢だった。俺は疲れていて、とても疲れていて、深く深く眠っていたから、目が覚めるまでの一瞬、そんな夢を見たのだろう。
目が覚めたとき、俺は確かに、そこにヨウさんがいることを願った。そして、そのことについて自分で自分に驚いた。だって、ヨウさんとは知り合ったばかりで、彼についてはまだなにも知らないと言ってもよかったから。夢から目が覚めて、最初に存在を願うような関係ではなかった。確かに。
俺はよろよろとベッドから起き上がった。寝すぎたのだろう、背中と腰が痛かった。スマホは家へ置いてきていたし、ヨウさんの家にはどこを探しても時計がない。今が何時かは分からなかった。もしかしたら、まる一日か二日か、眠り続けていたのかもしれなかった。
ふらつく足下のままリビングへ行くと、ローテーブルの上にカップ麺が山盛りに置かれていた。それを見るに、ヨウさんは一度はこの部屋に戻ってきたらしかった。余計に、数日間寝ていた可能性が濃厚になった。
母さんは俺を探すだろうか、と思って、すぐにその可能性をかき消した。母さんは、心が弱い。現実に向かい合ったりは、もうできない。警察なんていう、現実を目の前に突き付けてくる場所に、一人で行けるとは思えなかった。
俺は、つまり自由になったのだ。
カップ麺の山を眺めながら、そんなことを思った。
思っても、達成感はまるでなかった。ただ、ぼんやりと頭の芯がしびれていた。
腹が減ったな、となんとなく思って、ぎこちない動作でカップ麺を一個拾い上げる。カップ麺は、ひとつも被た味のものがないように、選んで置かれているようだった。
ヨウさんがいてくれればよかったのに。
もう一度思って、自分でも戸惑った。
とにかくカップ麺に湯を注ぎ、リビングのテーブルで啜り込む。
一人だな、と思った。それでも案外孤独に飲まれるでもないことが、自分でも意外だった。
白い部屋は、しんと静まり返っていた。俺はただ、今は夜なのだな、と、そんなことを思っていた。
荒れたその手の人は、俺に向かって微笑んでいた。俺はそれを、空しいと思った。だってそれは、母さんではなかったから。多分それは、短い夢だった。俺は疲れていて、とても疲れていて、深く深く眠っていたから、目が覚めるまでの一瞬、そんな夢を見たのだろう。
目が覚めたとき、俺は確かに、そこにヨウさんがいることを願った。そして、そのことについて自分で自分に驚いた。だって、ヨウさんとは知り合ったばかりで、彼についてはまだなにも知らないと言ってもよかったから。夢から目が覚めて、最初に存在を願うような関係ではなかった。確かに。
俺はよろよろとベッドから起き上がった。寝すぎたのだろう、背中と腰が痛かった。スマホは家へ置いてきていたし、ヨウさんの家にはどこを探しても時計がない。今が何時かは分からなかった。もしかしたら、まる一日か二日か、眠り続けていたのかもしれなかった。
ふらつく足下のままリビングへ行くと、ローテーブルの上にカップ麺が山盛りに置かれていた。それを見るに、ヨウさんは一度はこの部屋に戻ってきたらしかった。余計に、数日間寝ていた可能性が濃厚になった。
母さんは俺を探すだろうか、と思って、すぐにその可能性をかき消した。母さんは、心が弱い。現実に向かい合ったりは、もうできない。警察なんていう、現実を目の前に突き付けてくる場所に、一人で行けるとは思えなかった。
俺は、つまり自由になったのだ。
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思っても、達成感はまるでなかった。ただ、ぼんやりと頭の芯がしびれていた。
腹が減ったな、となんとなく思って、ぎこちない動作でカップ麺を一個拾い上げる。カップ麺は、ひとつも被た味のものがないように、選んで置かれているようだった。
ヨウさんがいてくれればよかったのに。
もう一度思って、自分でも戸惑った。
とにかくカップ麺に湯を注ぎ、リビングのテーブルで啜り込む。
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