5 / 23
2
しおりを挟む
「なんで観音通りなんかにいるの。」
男がそう訊いた。
かつては長屋だった観音通りの建物群を改築したラブホテルの一室だった。
よく訊かれることだ。時代錯誤の立ちんぼなんかやっている光の生い立ちやなんかを根掘り葉掘り聞きたがった挙句、セックスだけはしっかりやっていく男。
うんざりだった。人格を取り戻したくはなかった。
「親に借金があって。」
だから光は適当な嘘を吐く。客にとって光がただの肉であるのと同じように、光にとって客はただの金でしかない。どうしてそれが分からないのかと半ばあきれてしまう。
「親の借金か……。随分苦労してるんだね、若いのに。」
憐れむような男の声音に、光はただ曖昧な微笑を返す。
「いつからあの通りにいるの?」
「1ヶ月くらいですかね。」
「その前は? なにをしていたの?」
「学生。」
適当に応えながら、光は服を脱ぐ。早くシャワーを浴びましょう、と、男に微笑みかけながら。
ホテル代別一時間一万五千円が男にとっての光の価値であるのと同じように、光にとっての男の価値も一時間一万五千円でしかない。それに気が付かない男は滑稽で苛立ちを誘った。
かつて、ここがラブホテル街ではなく、女たちが住む長屋が立ち並んでいた頃、娼婦たちは自分の部屋で20分いくらで客を取っていたらしい。
そのときの方が楽だったな、と光は思う。
20分だったら、こんな面倒な会話をしている時間なんかない。
「はやく、気持ちいいことしましょうよ。ね?」
つまらないことを言っている、と思う。自分がとんでもない馬鹿になったような気がする。それでもこうやって人格をなくす時間を持たなくては、やっていられなかった。人格をなくし、身体だけを求められる時間。
それが光には必要だったのだ。
客とシャワーを浴びて、ベッドに入る。男の物を舐めるのも、尻に挿れるのも挿れられるのも、もう慣れた。初めの頃は絶望的な気持ちになったものだが、今はもう何も感じない。
男が喜ぶように喘ぎ声を出して、身体を抱き寄せて、肌と肌とを縒りあわせる。
男は光の名前を呼んだ。
光は聞こえないふりをした。
脳裏には、和巳の顔があった。
実の息子は抱けないと言ったひと。
本当だろうか、と思う。この男がそうであるように、和巳にだって性欲はあるはずだ。 本当だろうか。聖人ぶってみても、セックスしてしまえば客の男と変わらないのではなかろうか。
そんなことを考えながら、光は男の物を体内で緩く締め付けて射精を促している。
男がそう訊いた。
かつては長屋だった観音通りの建物群を改築したラブホテルの一室だった。
よく訊かれることだ。時代錯誤の立ちんぼなんかやっている光の生い立ちやなんかを根掘り葉掘り聞きたがった挙句、セックスだけはしっかりやっていく男。
うんざりだった。人格を取り戻したくはなかった。
「親に借金があって。」
だから光は適当な嘘を吐く。客にとって光がただの肉であるのと同じように、光にとって客はただの金でしかない。どうしてそれが分からないのかと半ばあきれてしまう。
「親の借金か……。随分苦労してるんだね、若いのに。」
憐れむような男の声音に、光はただ曖昧な微笑を返す。
「いつからあの通りにいるの?」
「1ヶ月くらいですかね。」
「その前は? なにをしていたの?」
「学生。」
適当に応えながら、光は服を脱ぐ。早くシャワーを浴びましょう、と、男に微笑みかけながら。
ホテル代別一時間一万五千円が男にとっての光の価値であるのと同じように、光にとっての男の価値も一時間一万五千円でしかない。それに気が付かない男は滑稽で苛立ちを誘った。
かつて、ここがラブホテル街ではなく、女たちが住む長屋が立ち並んでいた頃、娼婦たちは自分の部屋で20分いくらで客を取っていたらしい。
そのときの方が楽だったな、と光は思う。
20分だったら、こんな面倒な会話をしている時間なんかない。
「はやく、気持ちいいことしましょうよ。ね?」
つまらないことを言っている、と思う。自分がとんでもない馬鹿になったような気がする。それでもこうやって人格をなくす時間を持たなくては、やっていられなかった。人格をなくし、身体だけを求められる時間。
それが光には必要だったのだ。
客とシャワーを浴びて、ベッドに入る。男の物を舐めるのも、尻に挿れるのも挿れられるのも、もう慣れた。初めの頃は絶望的な気持ちになったものだが、今はもう何も感じない。
男が喜ぶように喘ぎ声を出して、身体を抱き寄せて、肌と肌とを縒りあわせる。
男は光の名前を呼んだ。
光は聞こえないふりをした。
脳裏には、和巳の顔があった。
実の息子は抱けないと言ったひと。
本当だろうか、と思う。この男がそうであるように、和巳にだって性欲はあるはずだ。 本当だろうか。聖人ぶってみても、セックスしてしまえば客の男と変わらないのではなかろうか。
そんなことを考えながら、光は男の物を体内で緩く締め付けて射精を促している。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる