観音通りにて・ウリ専

美里

文字の大きさ
21 / 23

2

しおりを挟む
「さすがだね。なんでもあるのがドンキホーテ。」
 そんなことを冗談めいた口調で言いながら、光は袋づめされた虎ロープを一袋手に取り、涼を振り向いた。
 「涼の分もいるでしょ?」
 涼は適当に肩をすくめ、ああ、と短く肯定した。
 「結構細いけど大丈夫かな。」
 「大丈夫だろ。虎ロープってかなり頑丈だぞ。」
 へえ、そうなんだ、と、感心したように頷きながら、光はそのままレジに向かった。
 涼は店の前で光を待った。ロープを購入してなお、すべてのものが現実的ではない気がしていた。
 「おまたせ。」
 「おう。」
 「ねぇ、どこで死ぬ? 途中で邪魔が入るのは絶対イヤだけど、死後すぐに発見はされたいよね。」
 「そんな贅沢なあなたに、」
 「お?」
 「丁度いい山がありますよ。」
 「山?」
 「駅裏の。あそこなら交番近いし、すぐ見つけてもらえるだろ。」
 「ああ、あそこか。懐かしいね。まだあるんだ。」
 ドンキホーテがある駅の東口は、カラオケや居酒屋もあってそれなりに栄えているのだが、反対側の西口はなにもない。ただ住宅街が広がっているだけだ。
 その住宅街の中に、小高い山というか丘がある。涼と光は子供の頃、時々そこで遊んだ。
 ドンキのビニール袋をひらひらさせながら、光が先に立って歩き出す。涼がついてくることを、一点の曇もなく信じた態度だった。
 涼とて、光のその信頼を裏切るつもりもない。
 二人は明けかけた住宅街を、死に場所を求め、てくてくと歩いていく。
 舗装路を外れ、足の下がふかふかする土になったとき、光が振り向きもしないで言った。
 「なんかごめん。」
 ここまで来ると、周囲は木々に囲まれ、家々の明かりも見えなくなる。涼はスマホのライトで足元を照らしながら、なにが、と訊き返した。
 「なんだろう……全部?」
 まだ暗い空を見上げながら、光は案外楽しそうに言ってきた。
 涼もつられて、少し笑った。
 「なんだよ、それ。」
 「一応言っとこうかなと思って。」
 「へぇ。」
 それ以降は、ろくな会話をしなかった。
 この丘で遊んだ頃の思い出話しをした後は、二人とも無言で丘を登った。単純に、運動不足がたたって息が切れ、会話どころではなくなったのだ。
 それでもなんとか丘の頂上まで登り、二人揃って肩で息をする。
 少し呼吸が整ってきたところで、光がドンキの袋からロープを取り出した。
 「どこに吊ろっか。」
 「あのへんの木とか?」
 「いいね、じゃあ俺はその隣の木にする。」
 ちょうどよく枝が張り出した木を見つけた二人は虎ロープの包装を破り、銘々木の枝にロープを結び付けはじめた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

処理中です...