水面に月

美里

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佐原

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  「相方とは、週何でやってんの? おたくらの年齢じゃ、やりまくりだろ。」
 「馬鹿かよ。あいつは男なんか抱かない。」
 「遠回しに、俺のこと馬鹿って言ってる?」
 「全然、直球。」
 そんなやり取りを交わした。佐原はベッドで煙草を吸っていた。彬は服を着直し、とっとと部屋を出ていこうとしていた。おたくらの年齢。佐原はもう30を超えたが、彬は多分まだはたちになっていない。
 「もう帰んのか。」
 「用もないだろ。」
 「冷たいね、相変わらず。」
 ベッドサイドの灰皿で、煙草をもみ消す。彬の冷たさは、完全にいつものことと言ってよかった。
 じゃあ、とか、また、とか、そんな最低限で意味の薄いの言葉さえ口にせず、彬は部屋を出ていった。見慣れた、まだ骨の細い背中。
 何度あいつと寝たのだろう。
 シャワーを浴びにベッドから下りながら、佐原はそんなことを考えている。 
 考えても、詮のないことだ。彬には、『相方』がいる。詳しく話を聞いたことはないし、彬が佐原に身の上話をするとも思えないが、同い年くらいの男で、一緒に故郷から出てきて一緒に住んでいるらしい。
 それでも、考えずにいられない。粘膜接触の数でなにが変わるとも思っていなかったくせに、自分の案外の女々しさに、佐原は自嘲気味に笑うしかない。
 このホテルで、もう両手では足りないくらい身体を重ねた。
 始まりは簡単なことで、佐原が仕事をさぼるときによく使う喫茶店で、彬がバイトしていたのだ。はじめ見たときは、好みの顔の女がいるな、と思った。その一瞬後、なんだ、男か、と気が付きはしたのだが、なんとなく目が離せなくなった。
 店内で話しかければ、彬は完全無欠の笑顔で応じてくれる。それでも、彼自身に踏み込もうとするとするりとかわされる。多分、その近そうで全然手が届かない感じにもどかしさを感じた時から、佐原は彬にのめり込みかけていたのかもしれない。
 そんなある日、彬の上がり時間と、佐原が店を出るタイミングが重なったことがあった。突然のひどい土砂降りだった。喫茶店のドアを開けて軽く眉をひそめる彬は、傘を持っていないようだった。
 天気予報とか見ないのかね、最近の若い子は。
 そんなことを口の中で呟きながら、佐原は彬の頭の上に自分の傘を広げた。
 「駅まで?」
 「……いえ……。」
 「ん?」
 「家、近くて。」
 喫茶店店員の皮がはがれた後に残った彬は、警戒心が強い猫みたいに見えた。
 

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