雨の夜には

美里

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 翌週も、翌々週も、雨は降らなかった。だから彼に会ったのは、それから一か月ほどがたった真冬の晩になった。その間、俺は雨をずっと待っていた。考えがまとまらない内に彼に会うのが怖いくせに、それでも天気予報を毎日チェックしては、雨マークをさがした。そして、夕方から雨がぱらつきだした今日、まだ彼に言いたいことなんか、まとまってはいなかった。それでも夜中になれば、彼はやってくる。
 深夜、一時。外階段を上る、乱暴な足音が聞こえてくる。俺は、はやる心で玄関に駆けつけそうになる自分を辛うじて抑え込み、ベッドに腰掛けていた。飼い主の帰りを待つ犬みたいに、玄関で彼を待つようにでもなったら、俺は俺を許せない。
 インターフォンが鳴る。こんな時間にやってくるような非常識な知り合いは、彼しかいない。ドアを蹴られないうちに、急いでドアノブを回す。
 「……、」
 なにか言わなくては、と思っているのだけれど、彼と向き合えば言葉は見つからない。これではこれまでと同じように、抱かれて、置き去りにされて、それだけになってしまうと分かっているのに、自分が言いたい言葉すら分からない。
 酸欠の金魚みたいに唇を開いて閉じる。彼は多分、そんな俺に気が付いてさえいない。間髪入れずに俺の襟首を掴んで、大股にベッドに歩み寄って行く。
引きずられながら、俺は、今この場にふさわしい言葉を一つでもいいから絞り出したい、と、凍りついたみたいになった頭を必死でめぐらせようとする。そうしている間にも、彼はひどく冷たい手で俺のシャツを引きはがしていく。その彼の手を自分の両手で包んだのは、本当に咄嗟の行動だった。言葉が見つからないから、せめて、みたいに身体が動いた。彼は、一瞬怪訝そうに目を細めて俺を見たけれど、すぐになんでもないみたいに俺の手を振り払った。俺は、必死だったのに。
 「待てよ。」
 その言葉は、ほとんど怒りから発せられた。こっちがこんなに必死にもがいているのに、その対応はないんじゃないか、と。彼はまた怪訝そうな顔をしたけれど、だからといって待つ気はないようだった。性急に俺の肌を手繰り寄せてくる。
 「待てってば。」
 また、怒りからの言葉が口をついた。同時に、彼の腕を力ずくで押しのける。俺も男だから、その気になれば力負けするはずもない。そのことに、改めて気が付くと、それは天啓みたいにすら感じられた。
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