トイレの聖女様! ~我々が必要としているのは聖女であって便所ではない! と追放された召喚聖女、砂漠の獣と奇跡を起こす!~

神通力

文字の大きさ
6 / 21
聖女降臨? 編

ミラクル5 ドラ息子のトラ息子

しおりを挟む
「ミタラーイ! お話聞かせてー!」

「聞かせてー! あくやくれーじょーの奴ー!」

「はいはい、ちょっと待ってくださいねー」

族長の賓客である魔術師ミタライは暇人である。彼女の本業は水を売買することであって、それは数日に一度村の各所にある樽に水を補充する作業があれば事足りる。よって、実質的には週休4日か5日みたいなものだ。

日本にいた頃の土曜出勤は当たり前、場合によっては日曜も、というブラック地獄とは比べものにならないレベルの快適さである。が、ネット浸りの可能な前世ならばともかく、ネットも繋がらずパソコンも娯楽もない異世界における暇は、日本のいた頃の何倍も苦痛である

そんな暇人ミタライを、『いつでも遊んでくれる大人』と認識した子供達は、彼女に懐くようになった。彼女は子供嫌いだったが、ここにいる子供達は皆動くヌイグルミのようなフワフワモコモコの毛玉っぽい子猫ちゃん達である。厳密には虎だが。よって、相手をするのはそこまで苦痛ではなかった。

「えーと、前回はどこまで話したんでしたっけ?」

「学園ににゅーがくしたところ!」

「ヒロインちゃんって悪い奴が出てきたとこまでー!」

「ああ、そうでしたね、それじゃあ続きを……」

子供の相手といってもいい歳の大人が鬼ゴッコやかくれんぼをする気にもなれず、適当に日本で読んだネット小説の話を絵本の読み聞かせ代わりに行ってみたところ、それがとても好評だったため、こうして紙芝居屋のお婆さんよろしく、子供達に読み聞かせならぬ読んだ聞かせを行う聖女様。

「――すると第3王子様は言いました。『もう限界だ! アリーヴェ・デ・ルッチ公爵令嬢! 貴様との婚約は今日限り破棄する!』と。すると」

「邪魔するぞ」

聖女様によるお話が盛り上がってきて、子供達が固唾を呑んだその時。テントに入る許可もなく乱入してきた無粋な部外者は、族長ロアによく似た虎獣人の若者だった。父に比べややスリムな細マッチョの虎獣人は、頬に赤い化粧をしておりどこか軽薄な印象を抱かせる。

「ガレット兄ちゃんだー!」

「ガレット兄様!」

「ガレットもミタライのお話聞きに来たの?」

「いや。お前ら、俺はそいつに大事な話がある。話の邪魔になるから出ていけ」

彼は族長の息子、ガレットである。つまりは、清美が揉めた4人の族長夫人達のいずれかの息子だ。ガレットは嘲笑を浮かべ、威圧するように牙を剥いた。清美のことを舐め腐ったあからさまな喧嘩腰に、彼女のぶっ〇すぞセンサーが即座に反応する。

えー!? と子供達からブーイングが上がるが、彼は「うるさい! いいから出ていけ!」と高圧的に怒鳴る。よって、真っ先に文句を言ったのは清美であった。

「は? いきなりアポなしで押しかけてきて何アホなこと言ってるわけ? ここは私のテント。出ていくのはアンタ。お解り?」

「ハッ! 相変わらず礼儀のなっていない不躾な女だな! おい女! 親父が大目に見ているからといって付け上がるなよ! 所詮は信用の置けない人間風情が!」

「礼儀知らずのバカはどっちよ。パパの威光を振りかざして、僕ちゃんは族長の息子なんだぞー偉いんだぞーってこんな小さい子達相手に得意げに威張り散らそうってわけ? あーみっともない。一体どんな育て方されたらこうなるのかしら」

「貴様!」

「あーらごめんなさいね。悔しかったらおうちに帰ってママのおっぱいなりパパの雄っぱいなりしゃぶりながら慰めてもらえば?」

一触即発のムードで火花を散らしながら睨み合う清美と族長の息子ガレット。そんなふたりを周囲に座っている子供達はおお! と歓声を上げながら見上げる。

「ミタライ、凄い迫力!」

「あくやくれーじょーみたい!」

子供達が謎の盛り上がりを見せる前で清美とガレットが今にも殴り合いを始めんばかりに睨み合っていると、テントの外から何事かとテオが駆け込んできた。

「なんの騒ぎだ!」

「チッ! お前には関係ない! すっこんでろ!」

「すっこんでるのはアンタだって言ってるのが聞こえなかったかしら? これだから頭も顔も育ち態度も悪いクソガキは嫌いなのよ!」

「ミタライよせ! 怒っているのは分かるが、それ以上無為に挑発するな!」

テオは彼女を背に庇うように、清美とガレットの間に割って入った。族長ほどではないが、テオも筋骨逞しい屈強な虎獣人である。目の前に現れた肉の壁に、双方の視界からお互いが消える。

「すまないガレット。俺は族長から彼女の警護を任されている。今の君と彼女とふたりきりにすることはできない」

「俺が、その女を害するとでも?」

「せめてその爪をしまってから言ってくれ。ミタライ、君も何を言われたのかは分からないが、すぐに喧嘩腰になるのはよくない癖だ。互いに大人なのだから」

「大人だからこそ引けない時もあるのよ!」

ブラック勤務時代。舐められた奴から潰されていった。付き合った彼氏がモラハラパワハラ男であることが判明した時は、キッチリアナライズして復讐したアナリストガール御手洗清美(ガールと言える年齢ではない)。だからこそクビにクビを重ねて、ブラック企業のホップステップジャンパーになってしまったわけだが。

「……それで? なんの用かしら? くだらない用事だったら叩き出すわよ?」

「上等だ! その細腕で、できるものならやってみるがいい! この口先だけの口だけ女が!」

「ふたりとも! よさないかと言っているだろう!」

遂にはテオの雷が落ちた。子供達はうひゃー! と一目散にテントの外へと逃げていく。普段優しい人ほど怒ると恐いとは言うが、今のテオはまさにその典型例だろう。

「ガレット! 族長の君が族長の客人である彼女に喧嘩を売ってどうする! そもそも年下の女性を相手に」

「誰が年下よ! 私これでも二十(ピー)歳なんですけど!?」

清美がそう怒鳴ると、ふたりは信じ難いものを見るような目で彼女を見下ろした。あまりの驚きに、怒りすらも一瞬忘れてしまったようだ。外国人の目には日本人は若く映るというが、異世界人もそうなのだろうか。

「なんだと?」

「え? そ、そうなのか?」

「そうよ! 悪い!?」

「悪いとは言わないが、十代ならばともかく、二十(ピー)歳でその落ち着きのなさはどうなんだ……?」

「それ、悪いって言ってるようなもんじゃない!」

しばらく呆気に取られていた様子のガレットだったが、不意にフン! と鼻を鳴らした。

「それで合点がいったぞ。愚かだな、女。人間の分際でありながら折角族長に見初められたというのに、歳の近い男を選ぶとは」

「は?」

ひとり勝手に納得した様子で、ガレットは清美のテントを出ていった。後に残された清美とガレットは、キョトンした顔を見合わせる。

「アイツなんなの? まさか私がアイツのパパの愛人になるのを拒んでテオさんを選んだかのように見えたからって、それで文句言いに来たわけ?」

「あり得ない……ことではないな。ンノカジ族の女にとって、族長の子を産むことは何よりの名誉とされているから、族長の座というものを何よりも神聖視している若者達にとっては、族長ではなく側近の男を選ぶ……選んだように見える理由が理解できなかった可能性は、十分にある」

そのまさかである。族長であるロアの訪問を頑なに拒んでいる魔術師ミタライが、ロアではなくただの族長の側近しかないテオを選ぶ理由が全く理解できなかったガレットとその取り巻き達は、どういうつもりだ女! と清美を問い質しに来たのであった。

「勝手に勘違いして、勝手に納得して、勝手に帰ってったのだとしたら、アイツ、相当な大バカヤローね。あんなのが息子で、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫、と、思いたいが。ガレットもまだまだ成人したばかりの16歳だからな。若気の至りということで、大目に見てもらえると助かる」

秘宝、召喚聖女御手洗清美。一回り近く年下の子供にマジギレしていた模様。四十路の父親が自分と同年代の少女に見える女を追いかけ回しているから苦言のひとつでも言いに来た高校一年生と考えれば、彼の苛立ちも理解できなくもない、かもしれない。

そこは親父に直接言えよ、と清美は思ったが、直接言って効果がなかったからこっちに来た可能性も十分にある。とはいえ、あの老け顔で16歳というのは衝撃だった。てっきりとっくに20は超えているものとばかり。

「……獣人って凄いのね」

「俺からすれば、人間の方がよっぽど凄いと思う」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

処理中です...