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後日談
11 任せろ! 顔は避ける!
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「今、何て言ったのかしら……?」
ぴきっとこめかみに青筋を立て、ばきばき指を鳴らしながら、クリスがイーサンに近付いてくる。
「………えっ?」
「痛い目に合わないと分からないようね――」
「ひぃいいいい!!」と後ずさるイーサンを、ガシッと両側から屈強な騎士が押さえつけた。
「クリス様!!」
アーネストが警告の声を上げる。
「任せろ! 顔は避ける!」(我を忘れると男言葉になる)
「何かクリス様……雰囲気が変わりましたね。それにしても大丈夫ですか?」
心配する騎士隊長。
「顔は避けると言っているし、大丈夫でしょう……多分」
「いや、そうじゃなくて、あんな細腕で……拳も痛めてしまいますよ?」
「ああ、」
この最果てに近い北の国までは、クリスが主に王子として育った事は伝わっていないのだろう。
「私が直々に護身術をお教えいたしましたし、クリス様は優秀な生徒でしたから」
「ほう、護身術を!? どういったものですか?」
「関節技です」
バキッ、ボキッ、グシャ、と鈍い音が鳴り響き、イーサンは悲鳴を上げて呆気なく気絶してしまった。クリスは周りが呆然とするなか、ぐったりしたイーサンの胸倉を掴んで引き起こし、ビシッ! と横っ面を引っ叩く。
「あ、……」
隊長が思わず声を漏らし
「クリス様! 顔、顔!!」
アーネストが慌てて注意したが時すでに遅し。
「どうにかなる!!」
「あ~……」
嘆息を漏らすアーネストに、たちまち目を覚ますイーサン。
「ヒッ!!」
「R商会の件…」
「やっ、やります!! やってみせます!!」
ビビッて皆まで言わせないイーサンの胸を、クリスは力を入れてガッ、と突いた。簡単に突き倒され、虫けらを見る目で睨みつけられ、イーサンは身体を縮こませて震えあがる。ふんっ、とクリスは鼻息も荒く踵を返した。
「ああ、なるほど……関節技ならあまり力は必要ないし、相手も傷がつかない。片頬は腫れてしまいましたが……いや、そんな事より、見事な腕前でした」
「そうですな……ははは……」
乾いた笑い声を上げるアーネスト。
踵を返したクリスがグリフィスに捕まるのを見て、隊長が呟いた。
「30分では出発できないかもしれませんな……」
熱いくちづけが終わった後は、ぎゅうぎゅうに抱きしめられている。
「グリフィス…ぐるじぃ……」
「私が参りましょう――」
「あっ、アーネスト殿!」(あなた勇者ですか!)
アーネストは二人に近付くと、グリフィスの首根っこを掴んでべりっと勢いよく引き剥がした。
「グリフィス様、今は時間がございません。クリス様、顔は駄目だと申し上げたでしょう…!」
「ごめんなさい……」
しゅんとするクリスを優しく腕の中に抱き寄せて、グリフィスがアーネストから庇う。
「大目に見てやってくれ、俺を想っての行動だ。奴にコートを着せて、フードを被せれば問題ないだろう?」
「まぁ、確かにクリス様のお気持ちも分かりますが……」
”この場合は仕方がないか”と、アーネストは頭を切り替えて、問題点を指摘する。
「グリフィス様。寒くもないのにコートにフードでは怪しさ満点ですぞ」
「ではクリスがイーサンを拒絶して暴れ、腕が顔に当たった事にしよう」
「クリス様に拒絶されたら、イーサンはもう、駆け落ちのための逃走資金を用意する必要はなくなります。R商会と取引できなくなりますぞ」
「必要だろう? 愛しのクリスを無理やり連れ去るためには」
片眉を上げるグリフィスに、アーネストがため息交じりに頷く。
「その線でいきますか。さっ、取引現場へ向かいますぞ」
「もうそんな時間か? クリス――」
グリフィスはもう一度クリスを抱き締めた。
「すぐに片づけて、帰ってくる」
「気を付けてね」
背伸びをして、グリフィスの頬にくちづけると、彼に耳元で何事かを囁かれ、クリスは頬を赤らめた。
ぴきっとこめかみに青筋を立て、ばきばき指を鳴らしながら、クリスがイーサンに近付いてくる。
「………えっ?」
「痛い目に合わないと分からないようね――」
「ひぃいいいい!!」と後ずさるイーサンを、ガシッと両側から屈強な騎士が押さえつけた。
「クリス様!!」
アーネストが警告の声を上げる。
「任せろ! 顔は避ける!」(我を忘れると男言葉になる)
「何かクリス様……雰囲気が変わりましたね。それにしても大丈夫ですか?」
心配する騎士隊長。
「顔は避けると言っているし、大丈夫でしょう……多分」
「いや、そうじゃなくて、あんな細腕で……拳も痛めてしまいますよ?」
「ああ、」
この最果てに近い北の国までは、クリスが主に王子として育った事は伝わっていないのだろう。
「私が直々に護身術をお教えいたしましたし、クリス様は優秀な生徒でしたから」
「ほう、護身術を!? どういったものですか?」
「関節技です」
バキッ、ボキッ、グシャ、と鈍い音が鳴り響き、イーサンは悲鳴を上げて呆気なく気絶してしまった。クリスは周りが呆然とするなか、ぐったりしたイーサンの胸倉を掴んで引き起こし、ビシッ! と横っ面を引っ叩く。
「あ、……」
隊長が思わず声を漏らし
「クリス様! 顔、顔!!」
アーネストが慌てて注意したが時すでに遅し。
「どうにかなる!!」
「あ~……」
嘆息を漏らすアーネストに、たちまち目を覚ますイーサン。
「ヒッ!!」
「R商会の件…」
「やっ、やります!! やってみせます!!」
ビビッて皆まで言わせないイーサンの胸を、クリスは力を入れてガッ、と突いた。簡単に突き倒され、虫けらを見る目で睨みつけられ、イーサンは身体を縮こませて震えあがる。ふんっ、とクリスは鼻息も荒く踵を返した。
「ああ、なるほど……関節技ならあまり力は必要ないし、相手も傷がつかない。片頬は腫れてしまいましたが……いや、そんな事より、見事な腕前でした」
「そうですな……ははは……」
乾いた笑い声を上げるアーネスト。
踵を返したクリスがグリフィスに捕まるのを見て、隊長が呟いた。
「30分では出発できないかもしれませんな……」
熱いくちづけが終わった後は、ぎゅうぎゅうに抱きしめられている。
「グリフィス…ぐるじぃ……」
「私が参りましょう――」
「あっ、アーネスト殿!」(あなた勇者ですか!)
アーネストは二人に近付くと、グリフィスの首根っこを掴んでべりっと勢いよく引き剥がした。
「グリフィス様、今は時間がございません。クリス様、顔は駄目だと申し上げたでしょう…!」
「ごめんなさい……」
しゅんとするクリスを優しく腕の中に抱き寄せて、グリフィスがアーネストから庇う。
「大目に見てやってくれ、俺を想っての行動だ。奴にコートを着せて、フードを被せれば問題ないだろう?」
「まぁ、確かにクリス様のお気持ちも分かりますが……」
”この場合は仕方がないか”と、アーネストは頭を切り替えて、問題点を指摘する。
「グリフィス様。寒くもないのにコートにフードでは怪しさ満点ですぞ」
「ではクリスがイーサンを拒絶して暴れ、腕が顔に当たった事にしよう」
「クリス様に拒絶されたら、イーサンはもう、駆け落ちのための逃走資金を用意する必要はなくなります。R商会と取引できなくなりますぞ」
「必要だろう? 愛しのクリスを無理やり連れ去るためには」
片眉を上げるグリフィスに、アーネストがため息交じりに頷く。
「その線でいきますか。さっ、取引現場へ向かいますぞ」
「もうそんな時間か? クリス――」
グリフィスはもう一度クリスを抱き締めた。
「すぐに片づけて、帰ってくる」
「気を付けてね」
背伸びをして、グリフィスの頬にくちづけると、彼に耳元で何事かを囁かれ、クリスは頬を赤らめた。
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