5 / 94
第一章
テディベア(改)
しおりを挟む
プリシラは寝室への扉を開けるとクリスを招き入れた。
「これは・・・」
居間とは違い、薄いクリームイエローを基調とし、ピンクのカーテンに、ベッドにソファ・・・大変女の子らしく可愛らしい部屋である。その中でも特に目を奪われたのが、壁一面にぎっしり並んでいるテディベア。
「プリシラ様らしい、可愛いお部屋ですね」
プリシラが嬉しそうな顔をした。
「はい! 私は可愛い物が大好きなんです! クリス様だったらそう仰って下さると思いました。前に従姉達がうっかり入ってしまった時には、散々馬鹿にされた上に、私に可愛い部屋は似合わないと言われてしまって・・・それから普段は鍵を掛けて誰も入れないようにしております」
余程傷ついたのであろう。俯いたその姿は痛々しくとても悲しそうだ。
「その従姉達は馬鹿者ですね。きっと美しくて人柄も良い、プリシラ様に嫉妬したんですよ」
華奢な肩に両手を掛けると、涙で潤んだ翡翠色の瞳で見上げられる。儚くて、今にも消えてしまいそうだ。
「クリス様・・・」
心臓の鼓動が跳ね、思わず抱き締めたい衝動に駆られる。突然押し寄せてきた感情を理解できず、気持ちを落ち着かせるために視線を逸らした。
「と、ところで、あそこに並んでいるテディベアは・・・?」
「はい・・・私はテディベアが大好きで、少しずつですが、収集しているんです」
「手に取って見てもよろしいですか?」
「もちろん。どうぞ」
クリスがそっと一つを手に取る。
「もしかして、シュタイン社製ですか? この国を代表するぬいぐるみの老舗ブランドですよね」
「はい。他のブランドのものもありますが、やはりシュタインのものが一番です」
「こちらは、他のものとは種類が異なりますね」
クリスが手にしたものは、毛が他のものよりも長く、シュタイン社のものが触るとしっかりしていて固めなのに対し、柔らかくてふわふわしている。
「あ、それは・・・私が作ったものです」
「プリシラ様が? 凄いですね。これ可愛い上に、抱き心地がとてもよいです。大変気に入りました」
「良かったら差し上げます」
クリスは慌てて棚に返そうとした。
「いいえ、欲しくて言った訳ではありません」
「クリス様にこの子を貰ってほしいのです」
プリシラがクリスが手にしているテディベアを優しく撫でた。
「そうしましたら、有難く―― いえ、ありがとう。とても嬉しいです・・・!」
「良かった」
プリシラがにっこりとした。またつい目を逸らしてしまい、最初に思いついた事を口にする。
「妹達にシュタイン社のテディベアを頼まれているのですが」
プリシラが目を輝かせる。
「でしたら、私がご案内します!」
「え・・・よろしいのですか?」
「はい! 私も行きたいので喜んで! いつにします?」
早速、翌日にシュタイン社の販売店へと連れ立って出かける約束をした。
「せっかくだから町の見物も致しましょう。私もするので、変装してきて下さいね。特にクリス様が見つかったら観光客や町の者達に囲まれてしまいますから」
「変装・・・」
自分の変装だったら丁度いいものがある。
翌日、プリシラの部屋をノックすると、扉を開けたマーサが目を丸くした。奥からプリシラの声がする。
「マーサ、どうしたの? クリス様?」
クリスが部屋に入ると、プリシラもマーサ同様に驚いて目を丸くした。クリスは男装をしていて、ダークブロンドの髪は黒く染めて後ろに束ねられ、貴族の子息が着るような紺のスーツを身に付けていた。
「とても・・・お似合いです。驚きました。男性にしか見えません」
すらりとしていて、実際の身長よりも高く見え、少し細身だが均整のとれた体躯をしている。プリシラは思わず見惚れてしまった。
「プリシラ様もとても可愛らしいですよ」
紅くなりながらプリシラがバッグを取りに行っている間に、クリスはマーサに急いで声を掛ける。
「マーサ、あれは変装になってないんじゃないか?」
クリス様、男言葉が様になっているわと思いながらも、顔には出さずに同意した。
「そうですね。プリシラ様ですよね」
プリシラは、銀髪を後ろで一本の三つ編みにし、町の娘達が着るような服装をしている。しかしただ身に付けているだけで、その美しさと気品は全然隠れていない。
「あれでいいんです。プリシラ様は町民達にとても愛されていて、何かあったら皆がすぐに助けてくれるので、プリシラ様と分かったほうが都合がよいのです。もちろん、離れて護衛の騎士も付いて行きますが、大抵は周りにいる町の人達がいつも対応してくれるんです」
「この町の人達はプリシラ様の本当の姿を知っているんだね」
「はい、そうです。幼い頃から優しくて、愛らしいお方でしたから。でも、プリシラ様には皆が正体を知っている事を内緒にして下さいね。他の人物になりきっているのがいい感じに作用しているようで、あの人見知りが出ないんです」
「よく分かった」
どちらにしろプリシラであるのだし、愛らしいことには変わりない。町の見物が楽しみである。
「これは・・・」
居間とは違い、薄いクリームイエローを基調とし、ピンクのカーテンに、ベッドにソファ・・・大変女の子らしく可愛らしい部屋である。その中でも特に目を奪われたのが、壁一面にぎっしり並んでいるテディベア。
「プリシラ様らしい、可愛いお部屋ですね」
プリシラが嬉しそうな顔をした。
「はい! 私は可愛い物が大好きなんです! クリス様だったらそう仰って下さると思いました。前に従姉達がうっかり入ってしまった時には、散々馬鹿にされた上に、私に可愛い部屋は似合わないと言われてしまって・・・それから普段は鍵を掛けて誰も入れないようにしております」
余程傷ついたのであろう。俯いたその姿は痛々しくとても悲しそうだ。
「その従姉達は馬鹿者ですね。きっと美しくて人柄も良い、プリシラ様に嫉妬したんですよ」
華奢な肩に両手を掛けると、涙で潤んだ翡翠色の瞳で見上げられる。儚くて、今にも消えてしまいそうだ。
「クリス様・・・」
心臓の鼓動が跳ね、思わず抱き締めたい衝動に駆られる。突然押し寄せてきた感情を理解できず、気持ちを落ち着かせるために視線を逸らした。
「と、ところで、あそこに並んでいるテディベアは・・・?」
「はい・・・私はテディベアが大好きで、少しずつですが、収集しているんです」
「手に取って見てもよろしいですか?」
「もちろん。どうぞ」
クリスがそっと一つを手に取る。
「もしかして、シュタイン社製ですか? この国を代表するぬいぐるみの老舗ブランドですよね」
「はい。他のブランドのものもありますが、やはりシュタインのものが一番です」
「こちらは、他のものとは種類が異なりますね」
クリスが手にしたものは、毛が他のものよりも長く、シュタイン社のものが触るとしっかりしていて固めなのに対し、柔らかくてふわふわしている。
「あ、それは・・・私が作ったものです」
「プリシラ様が? 凄いですね。これ可愛い上に、抱き心地がとてもよいです。大変気に入りました」
「良かったら差し上げます」
クリスは慌てて棚に返そうとした。
「いいえ、欲しくて言った訳ではありません」
「クリス様にこの子を貰ってほしいのです」
プリシラがクリスが手にしているテディベアを優しく撫でた。
「そうしましたら、有難く―― いえ、ありがとう。とても嬉しいです・・・!」
「良かった」
プリシラがにっこりとした。またつい目を逸らしてしまい、最初に思いついた事を口にする。
「妹達にシュタイン社のテディベアを頼まれているのですが」
プリシラが目を輝かせる。
「でしたら、私がご案内します!」
「え・・・よろしいのですか?」
「はい! 私も行きたいので喜んで! いつにします?」
早速、翌日にシュタイン社の販売店へと連れ立って出かける約束をした。
「せっかくだから町の見物も致しましょう。私もするので、変装してきて下さいね。特にクリス様が見つかったら観光客や町の者達に囲まれてしまいますから」
「変装・・・」
自分の変装だったら丁度いいものがある。
翌日、プリシラの部屋をノックすると、扉を開けたマーサが目を丸くした。奥からプリシラの声がする。
「マーサ、どうしたの? クリス様?」
クリスが部屋に入ると、プリシラもマーサ同様に驚いて目を丸くした。クリスは男装をしていて、ダークブロンドの髪は黒く染めて後ろに束ねられ、貴族の子息が着るような紺のスーツを身に付けていた。
「とても・・・お似合いです。驚きました。男性にしか見えません」
すらりとしていて、実際の身長よりも高く見え、少し細身だが均整のとれた体躯をしている。プリシラは思わず見惚れてしまった。
「プリシラ様もとても可愛らしいですよ」
紅くなりながらプリシラがバッグを取りに行っている間に、クリスはマーサに急いで声を掛ける。
「マーサ、あれは変装になってないんじゃないか?」
クリス様、男言葉が様になっているわと思いながらも、顔には出さずに同意した。
「そうですね。プリシラ様ですよね」
プリシラは、銀髪を後ろで一本の三つ編みにし、町の娘達が着るような服装をしている。しかしただ身に付けているだけで、その美しさと気品は全然隠れていない。
「あれでいいんです。プリシラ様は町民達にとても愛されていて、何かあったら皆がすぐに助けてくれるので、プリシラ様と分かったほうが都合がよいのです。もちろん、離れて護衛の騎士も付いて行きますが、大抵は周りにいる町の人達がいつも対応してくれるんです」
「この町の人達はプリシラ様の本当の姿を知っているんだね」
「はい、そうです。幼い頃から優しくて、愛らしいお方でしたから。でも、プリシラ様には皆が正体を知っている事を内緒にして下さいね。他の人物になりきっているのがいい感じに作用しているようで、あの人見知りが出ないんです」
「よく分かった」
どちらにしろプリシラであるのだし、愛らしいことには変わりない。町の見物が楽しみである。
0
あなたにおすすめの小説
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
襲われていた美男子を助けたら溺愛されました
茜菫
恋愛
伯爵令嬢でありながら公爵家に仕える女騎士イライザの元に縁談が舞い込んだ。
相手は五十歳を越え、すでに二度の結婚歴があるラーゼル侯爵。
イライザの実家であるラチェット伯爵家はラーゼル侯爵に多額の借金があり、縁談を突っぱねることができなかった。
なんとか破談にしようと苦慮したイライザは結婚において重要視される純潔を捨てようと考えた。
相手をどうしようかと悩んでいたイライザは町中で言い争う男女に出くわす。
イライザが女性につきまとわれて危機に陥っていた男ミケルを助けると、どうやら彼に気に入られたようで……
「僕……リズのこと、好きになっちゃったんだ」
「……は?」
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる