ふたなりのままでいようと思ったら、知略の王子と不敵なる王から、狙われてしまった私

sierra

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第一章

テディベア(改)

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 プリシラは寝室への扉を開けるとクリスを招き入れた。

「これは・・・」

 居間とは違い、薄いクリームイエローを基調とし、ピンクのカーテンに、ベッドにソファ・・・大変女の子らしく可愛らしい部屋である。その中でも特に目を奪われたのが、壁一面にぎっしり並んでいるテディベア。

「プリシラ様らしい、可愛いお部屋ですね」

 プリシラが嬉しそうな顔をした。

「はい! 私は可愛い物が大好きなんです! クリス様だったらそう仰って下さると思いました。前に従姉達がうっかり入ってしまった時には、散々馬鹿にされた上に、私に可愛い部屋は似合わないと言われてしまって・・・それから普段は鍵を掛けて誰も入れないようにしております」

 余程傷ついたのであろう。俯いたその姿は痛々しくとても悲しそうだ。

「その従姉達は馬鹿者ですね。きっと美しくて人柄も良い、プリシラ様に嫉妬したんですよ」

 華奢な肩に両手を掛けると、涙で潤んだ翡翠色の瞳で見上げられる。儚くて、今にも消えてしまいそうだ。

「クリス様・・・」

 心臓の鼓動が跳ね、思わず抱き締めたい衝動に駆られる。突然押し寄せてきた感情を理解できず、気持ちを落ち着かせるために視線を逸らした。
 
「と、ところで、あそこに並んでいるテディベアは・・・?」
「はい・・・私はテディベアが大好きで、少しずつですが、収集しているんです」
「手に取って見てもよろしいですか?」
「もちろん。どうぞ」

 クリスがそっと一つを手に取る。

「もしかして、シュタイン社製ですか? この国を代表するぬいぐるみの老舗ブランドですよね」
「はい。他のブランドのものもありますが、やはりシュタインのものが一番です」
「こちらは、他のものとは種類が異なりますね」

 クリスが手にしたものは、毛が他のものよりも長く、シュタイン社のものが触るとしっかりしていて固めなのに対し、柔らかくてふわふわしている。

「あ、それは・・・私が作ったものです」
「プリシラ様が? 凄いですね。これ可愛い上に、抱き心地がとてもよいです。大変気に入りました」
「良かったら差し上げます」

 クリスは慌てて棚に返そうとした。

「いいえ、欲しくて言った訳ではありません」
「クリス様にこの子を貰ってほしいのです」

 プリシラがクリスが手にしているテディベアを優しく撫でた。

「そうしましたら、有難く―― いえ、ありがとう。とても嬉しいです・・・!」
「良かった」
 プリシラがにっこりとした。またつい目を逸らしてしまい、最初に思いついた事を口にする。

「妹達にシュタイン社のテディベアを頼まれているのですが」

 プリシラが目を輝かせる。

「でしたら、私がご案内します!」
「え・・・よろしいのですか?」
「はい! 私も行きたいので喜んで! いつにします?」

 早速、翌日にシュタイン社の販売店へと連れ立って出かける約束をした。

「せっかくだから町の見物も致しましょう。私もするので、変装してきて下さいね。特にクリス様が見つかったら観光客や町の者達に囲まれてしまいますから」
「変装・・・」

 自分の変装だったら丁度いいものがある。
 翌日、プリシラの部屋をノックすると、扉を開けたマーサが目を丸くした。奥からプリシラの声がする。

「マーサ、どうしたの? クリス様?」

 クリスが部屋に入ると、プリシラもマーサ同様に驚いて目を丸くした。クリスは男装をしていて、ダークブロンドの髪は黒く染めて後ろに束ねられ、貴族の子息が着るような紺のスーツを身に付けていた。

「とても・・・お似合いです。驚きました。男性にしか見えません」

 すらりとしていて、実際の身長よりも高く見え、少し細身だが均整のとれた体躯をしている。プリシラは思わず見惚れてしまった。

「プリシラ様もとても可愛らしいですよ」

 紅くなりながらプリシラがバッグを取りに行っている間に、クリスはマーサに急いで声を掛ける。

「マーサ、あれは変装になってないんじゃないか?」

 クリス様、男言葉が様になっているわと思いながらも、顔には出さずに同意した。
「そうですね。プリシラ様ですよね」

 プリシラは、銀髪を後ろで一本の三つ編みにし、町の娘達が着るような服装をしている。しかしただ身に付けているだけで、その美しさと気品は全然隠れていない。

「あれでいいんです。プリシラ様は町民達にとても愛されていて、何かあったら皆がすぐに助けてくれるので、プリシラ様と分かったほうが都合がよいのです。もちろん、離れて護衛の騎士も付いて行きますが、大抵は周りにいる町の人達がいつも対応してくれるんです」

「この町の人達はプリシラ様の本当の姿を知っているんだね」
「はい、そうです。幼い頃から優しくて、愛らしいお方でしたから。でも、プリシラ様には皆が正体を知っている事を内緒にして下さいね。他の人物になりきっているのがいい感じに作用しているようで、あの人見知りが出ないんです」
「よく分かった」
 
 どちらにしろプリシラであるのだし、愛らしいことには変わりない。町の見物が楽しみである。

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