伯爵令嬢エリカは王子の恋を応援します!なのにグイグイこられて、あなたは男装王女の筈ですよね?

sierra

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22 執務室は右へ行くのになぜ左?

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「エリカ様……?」

 驚きで硬直しているフォルカーが、腰にしがみ付いているエリカを見下ろす。
 
「あなたが案内してください!」

 周囲はシーンと静まり返る。
 
(うん……?)

 辺りを見回すと、騎士から使用人からそこにいる全ての人達が、エリカとフォルカーに注目をしていた。
 
(まずい! 人前で男性に抱きついてしまった!)
 
 パッとしがみついていた手を離す。

「す、すいません、失礼いたしました」

 しかしさすがは騎士団長。動じもせずに紳士的な態度で応じる。

「いいえ、それは構いません。ただ、わたくしは用事がありまして……エリカ様もそのほうがよろしいのではないでしょうか?」

「わたくしはフォルカー様に案内して頂きたいのです!」

 さも残念そうな表情を浮かべて、フォルカーを見上げる。

「だめですか……?」

 フォルカーがふっと微笑んだ。

「優しい方ですね。さすが殿下が選んだ女性だけはある」

「あ、今の……、」

「何でしょうか?」

「自然な笑顔、とても素敵です」

「………」

 フォルカーが頬を紅潮させて目を逸らした。

 どうも笑顔を褒められたのは初めてのようで、当惑しているようである。

(”戦場の鬼神”と呼ばれるフォルカー様が、何か可愛い……。フォルカー様はメイン攻略者ではないけれど、ダニエル様のお相手はフォルカー様でもいいわけだし。上手く二人の間をサポートできるよう、親しくしておかないと) 

「案内してくださいますね――」

 エリカがつと出した手を取って、フォルカーが頭を下げた。

「仰せのままに」

 案内のために先に立って歩くフォルカーは、エリカの歩くスピードに合わせて足を運んでくれる。

(ああ、やはりこの人は優しいのだわ)

 暫く廊下をそのまま進み、右折するところを何故かフォルカーは左に曲がった。

(――執務室へは右が早くなかったっけ?) 

 ”騎士団長が間違えるはずないわよね”と後をついていくと、その先にある階段を上り、執務室のある二階を通り越して、三階まで上る。

(あれ?)

 その後も別棟に行ったり会議室の前を通ったりと、散々引っ張りまわされた挙句、庭園に出た。

 王子が発表したばかりの婚約者――

 連れまわされている間もそうだったが、庭園でもエリカは注目の的だ。

 おまけに、”なんて愛らしいんでしょう”とか、”華奢で守ってあげたくなる”とか、普段はありえない賛辞が聞こえてくる。
 
(平凡な私でも、強面でガタイのいい騎士団長と歩くとそう見えるのか……)

「フォルカー様。わたくし疲れました。殿下に”エリカには会いたくないから、連れまわして追い返せ”とでも言われたのですか?」 

 ヒールの高い靴でずっと歩き回っていたので、足が悲鳴をあげている。

「それは違います!」

 フォルカーが慌てた様子で振り返った。 
 
 小柄なエリカが、辛そうに立っている姿を目にして、彼の胸がズキンと痛む。

 意を決したフォルカーがエリカに近づいた。

「失礼いたします」

「え、ちょっ、ちょっと待って!」

 エリカを横に抱きあげると、驚く周囲には構わずに、早足に庭園の奥へと入っていった。
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