伯爵令嬢エリカは王子の恋を応援します!なのにグイグイこられて、あなたは男装王女の筈ですよね?

sierra

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24 エリカ様は殿下の婚約者

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「……姉の子供が2歳になるのですが、生まれた時からよく一緒にいるせいか、こんな私でも懐いてくれています」

 話している時に思い出したのか、フォルカーの目元が和んだ。

「それです……!」

「はい?」

「その子のことを思い浮かべて、肩から力を抜いて、緊張してはいけませんよ? それからじろじろ見てもいけません」

「はい」

 言われるままに肩から力を抜いて、姉の子供を思い浮かべる。

 雰囲気が柔らかくなったフォルカーに、リスがそろそろと近づいてきた。

 リスは様子を窺いつつ、フォルカーの膝に乗ろうとする。

 緊張した彼の身体に力が入り、リスがピクッと動きを止めた。

 ”また駄目か”……と諦めそうになったフォルカーに、エリカが寄り添うようにして、そっと腕に触れた。

「大丈夫です……お姉さまのお子さんを思い出してください」

 囁かれる声に、再び姉の子供を思い出す。

 あどけない仕草で、抱っこをねだってくる可愛らしい甥っ子。

 落ち着きを取り戻したフォルカーの膝に、リスがそろそろと乗ってきてクッキーを掴んだ。

「!」

 そのままカリコリと膝の上で食べている。

「×#&!!」

 フォルカーは叫びそうになるのを、グッと我慢してエリカを見る。

「良かったですね。フォルカー様は緊張するあまり、無用な力が入っていたんです。緊張して力が入って、怖がらせての繰り返しで、そこから抜け出せないでいたんですね」

 思ったよりもエリカの顔が近くにあり、ボッと顔を紅潮させるフォルカー。

 笑みをたたえて見上げてくるエリカに、フォルカーが尋ねた。

「あなたは私が怖くはないのですか?」

「はい、怖くないです」

 エリカが顔をほころばせた。

「だってフォルカー様はこんなに優しい方なんですもの。これから女性や子供の前で緊張しそうになったら、お姉様のお子さんのことを思い出してください。きっとみんながフォルカー様のことを大好きになりますよ」

 フォルカーが驚きの表情でエリカを見下ろす。

 ニコッと微笑むエリカが、何かに気づいた。

「あ、ほら、2匹目がきました」

「え……? 本当だ」

 2匹目もフォルカーの膝の上でクッキーを食べ始めた。

 嬉しさを隠せずにいるフォルカーに、”癒される”と思うエリカ。

(オズワルド王子より、フォルカー団長のほうがダニエルに合うかもしれない)

「信じられない。リスが全部食べてくれました」

 考え事をしていたエリカに、フォルカーが話しかけながら立ち上がり、その肩にはリスが乗っていた。

「懐きましたね」

「エリカ様のお陰です」

「仲良しになれるお手伝いができて、わたくしも嬉しいです」

 エリカをじっと見つめたフォルカーが背を向けた。

 自分に言い聞かせるようにボソボソと呟く。

「エリカ様は殿下の婚約者。エリカ様は殿下の…」

「……何か仰いましたか?」

「いいえ、何でもありません。足はもう大丈夫ですか? 良かったらお運びいたします」

「大丈夫です」

 頬を赤らめたエリカは、”あまり注目を浴びたくないから”と断った。

「そうですか……」

 フォルカーがやや残念そうな表情を浮かべたが、エリカは周囲の景色を、噴水を囲むように立つ植木や、花々を見渡していて気づかなかった。

「こんな場所があったんですね。緑に囲まれてとても綺麗」

「ここは王族専用の庭園です。王族の方以外は、私のように許しを得ている者しか入れません」

「だから誰も見かけないのですね……って、わたくしは良いのですか? 王族でもないのに」

「エリカ様はダニエル様の婚約者なので問題ありません」

(そうだ。婚約を撤回してくれと文句を言いに来たんだった……) 

 王族専用の庭園の出口には、ラファエル率いる騎士団の面々と、好奇心むき出しの貴族たちが待ち構えていた。

「団長良かった! やはりこちらにいらっしゃったんですね」

「ラファエル、これは何事だ」

「殿下が”いくら何でも遅い”とお二人を探すよう、命じられたのです」

「そうか。私がいけなかったのだ。あちこち連れまわ…」

「わたくしの気分が悪くなってしまい、フォルカー団長がこちらの庭園で休ませて下さったのです」

 フォルカーの言葉を遮って、説明をするエリカ。

「そうだったのですか。大事でなくて良かった」

 自分を庇うエリカを見ていたフォルカーが、唐突に目の前に跪いた。

「フォ、フォルカー様?」

「エリカ様お願いです。あなた様に忠誠を誓わせて下さい――」

「…………はい?」

「私フォルカー・グレンヴィルは、エリカ・バートレイに忠誠を誓います」

 エリカの手を取り、その甲に恭しくくちづける。

 周囲がざわざわとざわめいた。

「会ったばかりの騎士団長に、忠誠を誓わせるとは……!」

「戦場の鬼神が、あんなに優し気な表情で!」

「やはりダニエル王子の婚約者だけはある」

(婚約の撤回が益々しづらくなってしまった……) 

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