24 / 79
24 エリカ様は殿下の婚約者
しおりを挟む
「……姉の子供が2歳になるのですが、生まれた時からよく一緒にいるせいか、こんな私でも懐いてくれています」
話している時に思い出したのか、フォルカーの目元が和んだ。
「それです……!」
「はい?」
「その子のことを思い浮かべて、肩から力を抜いて、緊張してはいけませんよ? それからじろじろ見てもいけません」
「はい」
言われるままに肩から力を抜いて、姉の子供を思い浮かべる。
雰囲気が柔らかくなったフォルカーに、リスがそろそろと近づいてきた。
リスは様子を窺いつつ、フォルカーの膝に乗ろうとする。
緊張した彼の身体に力が入り、リスがピクッと動きを止めた。
”また駄目か”……と諦めそうになったフォルカーに、エリカが寄り添うようにして、そっと腕に触れた。
「大丈夫です……お姉さまのお子さんを思い出してください」
囁かれる声に、再び姉の子供を思い出す。
あどけない仕草で、抱っこをねだってくる可愛らしい甥っ子。
落ち着きを取り戻したフォルカーの膝に、リスがそろそろと乗ってきてクッキーを掴んだ。
「!」
そのままカリコリと膝の上で食べている。
「×#&!!」
フォルカーは叫びそうになるのを、グッと我慢してエリカを見る。
「良かったですね。フォルカー様は緊張するあまり、無用な力が入っていたんです。緊張して力が入って、怖がらせての繰り返しで、そこから抜け出せないでいたんですね」
思ったよりもエリカの顔が近くにあり、ボッと顔を紅潮させるフォルカー。
笑みを湛えて見上げてくるエリカに、フォルカーが尋ねた。
「あなたは私が怖くはないのですか?」
「はい、怖くないです」
エリカが顔をほころばせた。
「だってフォルカー様はこんなに優しい方なんですもの。これから女性や子供の前で緊張しそうになったら、お姉様のお子さんのことを思い出してください。きっとみんながフォルカー様のことを大好きになりますよ」
フォルカーが驚きの表情でエリカを見下ろす。
ニコッと微笑むエリカが、何かに気づいた。
「あ、ほら、2匹目がきました」
「え……? 本当だ」
2匹目もフォルカーの膝の上でクッキーを食べ始めた。
嬉しさを隠せずにいるフォルカーに、”癒される”と思うエリカ。
(オズワルド王子より、フォルカー団長のほうがダニエルに合うかもしれない)
「信じられない。リスが全部食べてくれました」
考え事をしていたエリカに、フォルカーが話しかけながら立ち上がり、その肩にはリスが乗っていた。
「懐きましたね」
「エリカ様のお陰です」
「仲良しになれるお手伝いができて、わたくしも嬉しいです」
エリカをじっと見つめたフォルカーが背を向けた。
自分に言い聞かせるようにボソボソと呟く。
「エリカ様は殿下の婚約者。エリカ様は殿下の…」
「……何か仰いましたか?」
「いいえ、何でもありません。足はもう大丈夫ですか? 良かったらお運びいたします」
「大丈夫です」
頬を赤らめたエリカは、”あまり注目を浴びたくないから”と断った。
「そうですか……」
フォルカーがやや残念そうな表情を浮かべたが、エリカは周囲の景色を、噴水を囲むように立つ植木や、花々を見渡していて気づかなかった。
「こんな場所があったんですね。緑に囲まれてとても綺麗」
「ここは王族専用の庭園です。王族の方以外は、私のように許しを得ている者しか入れません」
「だから誰も見かけないのですね……って、わたくしは良いのですか? 王族でもないのに」
「エリカ様はダニエル様の婚約者なので問題ありません」
(そうだ。婚約を撤回してくれと文句を言いに来たんだった……)
王族専用の庭園の出口には、ラファエル率いる騎士団の面々と、好奇心むき出しの貴族たちが待ち構えていた。
「団長良かった! やはりこちらにいらっしゃったんですね」
「ラファエル、これは何事だ」
「殿下が”いくら何でも遅い”とお二人を探すよう、命じられたのです」
「そうか。私がいけなかったのだ。あちこち連れまわ…」
「わたくしの気分が悪くなってしまい、フォルカー団長がこちらの庭園で休ませて下さったのです」
フォルカーの言葉を遮って、説明をするエリカ。
「そうだったのですか。大事でなくて良かった」
自分を庇うエリカを見ていたフォルカーが、唐突に目の前に跪いた。
「フォ、フォルカー様?」
「エリカ様お願いです。あなた様に忠誠を誓わせて下さい――」
「…………はい?」
「私フォルカー・グレンヴィルは、エリカ・バートレイに忠誠を誓います」
エリカの手を取り、その甲に恭しくくちづける。
周囲がざわざわとざわめいた。
「会ったばかりの騎士団長に、忠誠を誓わせるとは……!」
「戦場の鬼神が、あんなに優し気な表情で!」
「やはりダニエル王子の婚約者だけはある」
(婚約の撤回が益々しづらくなってしまった……)
話している時に思い出したのか、フォルカーの目元が和んだ。
「それです……!」
「はい?」
「その子のことを思い浮かべて、肩から力を抜いて、緊張してはいけませんよ? それからじろじろ見てもいけません」
「はい」
言われるままに肩から力を抜いて、姉の子供を思い浮かべる。
雰囲気が柔らかくなったフォルカーに、リスがそろそろと近づいてきた。
リスは様子を窺いつつ、フォルカーの膝に乗ろうとする。
緊張した彼の身体に力が入り、リスがピクッと動きを止めた。
”また駄目か”……と諦めそうになったフォルカーに、エリカが寄り添うようにして、そっと腕に触れた。
「大丈夫です……お姉さまのお子さんを思い出してください」
囁かれる声に、再び姉の子供を思い出す。
あどけない仕草で、抱っこをねだってくる可愛らしい甥っ子。
落ち着きを取り戻したフォルカーの膝に、リスがそろそろと乗ってきてクッキーを掴んだ。
「!」
そのままカリコリと膝の上で食べている。
「×#&!!」
フォルカーは叫びそうになるのを、グッと我慢してエリカを見る。
「良かったですね。フォルカー様は緊張するあまり、無用な力が入っていたんです。緊張して力が入って、怖がらせての繰り返しで、そこから抜け出せないでいたんですね」
思ったよりもエリカの顔が近くにあり、ボッと顔を紅潮させるフォルカー。
笑みを湛えて見上げてくるエリカに、フォルカーが尋ねた。
「あなたは私が怖くはないのですか?」
「はい、怖くないです」
エリカが顔をほころばせた。
「だってフォルカー様はこんなに優しい方なんですもの。これから女性や子供の前で緊張しそうになったら、お姉様のお子さんのことを思い出してください。きっとみんながフォルカー様のことを大好きになりますよ」
フォルカーが驚きの表情でエリカを見下ろす。
ニコッと微笑むエリカが、何かに気づいた。
「あ、ほら、2匹目がきました」
「え……? 本当だ」
2匹目もフォルカーの膝の上でクッキーを食べ始めた。
嬉しさを隠せずにいるフォルカーに、”癒される”と思うエリカ。
(オズワルド王子より、フォルカー団長のほうがダニエルに合うかもしれない)
「信じられない。リスが全部食べてくれました」
考え事をしていたエリカに、フォルカーが話しかけながら立ち上がり、その肩にはリスが乗っていた。
「懐きましたね」
「エリカ様のお陰です」
「仲良しになれるお手伝いができて、わたくしも嬉しいです」
エリカをじっと見つめたフォルカーが背を向けた。
自分に言い聞かせるようにボソボソと呟く。
「エリカ様は殿下の婚約者。エリカ様は殿下の…」
「……何か仰いましたか?」
「いいえ、何でもありません。足はもう大丈夫ですか? 良かったらお運びいたします」
「大丈夫です」
頬を赤らめたエリカは、”あまり注目を浴びたくないから”と断った。
「そうですか……」
フォルカーがやや残念そうな表情を浮かべたが、エリカは周囲の景色を、噴水を囲むように立つ植木や、花々を見渡していて気づかなかった。
「こんな場所があったんですね。緑に囲まれてとても綺麗」
「ここは王族専用の庭園です。王族の方以外は、私のように許しを得ている者しか入れません」
「だから誰も見かけないのですね……って、わたくしは良いのですか? 王族でもないのに」
「エリカ様はダニエル様の婚約者なので問題ありません」
(そうだ。婚約を撤回してくれと文句を言いに来たんだった……)
王族専用の庭園の出口には、ラファエル率いる騎士団の面々と、好奇心むき出しの貴族たちが待ち構えていた。
「団長良かった! やはりこちらにいらっしゃったんですね」
「ラファエル、これは何事だ」
「殿下が”いくら何でも遅い”とお二人を探すよう、命じられたのです」
「そうか。私がいけなかったのだ。あちこち連れまわ…」
「わたくしの気分が悪くなってしまい、フォルカー団長がこちらの庭園で休ませて下さったのです」
フォルカーの言葉を遮って、説明をするエリカ。
「そうだったのですか。大事でなくて良かった」
自分を庇うエリカを見ていたフォルカーが、唐突に目の前に跪いた。
「フォ、フォルカー様?」
「エリカ様お願いです。あなた様に忠誠を誓わせて下さい――」
「…………はい?」
「私フォルカー・グレンヴィルは、エリカ・バートレイに忠誠を誓います」
エリカの手を取り、その甲に恭しくくちづける。
周囲がざわざわとざわめいた。
「会ったばかりの騎士団長に、忠誠を誓わせるとは……!」
「戦場の鬼神が、あんなに優し気な表情で!」
「やはりダニエル王子の婚約者だけはある」
(婚約の撤回が益々しづらくなってしまった……)
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
絶対に近づきません!逃げる令嬢と追う王子
さこの
恋愛
我が国の王子殿下は十五歳になると婚約者を選定される。
伯爵以上の爵位を持つ年頃の子供を持つ親は娘が選ばれる可能性がある限り、婚約者を作ることが出来ない…
令嬢に婚約者がいないという事は年頃の令息も然り…
早く誰でも良いから選んでくれ…
よく食べる子は嫌い
ウェーブヘアーが嫌い
王子殿下がポツリと言う。
良い事を聞きましたっ
ゆるーい設定です
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
【改稿版】夫が男色になってしまったので、愛人を探しに行ったら溺愛が待っていました
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
外観は赤髪で派手で美人なアーシュレイ。
同世代の女の子とはうまく接しられず、幼馴染のディートハルトとばかり遊んでいた。
おかげで男をたぶらかす悪女と言われてきた。しかし中身はただの魔道具オタク。
幼なじみの二人は親が決めた政略結婚。義両親からの圧力もあり、妊活をすることに。
しかしいざ夜に挑めばあの手この手で拒否する夫。そして『もう、女性を愛することは出来ない!』とベットの上で謝られる。
実家の援助をしてもらってる手前、離婚をこちらから申し込めないアーシュレイ。夫も誰かとは結婚してなきゃいけないなら、君がいいと訳の分からないことを言う。
それなら、愛人探しをすることに。そして、出会いの場の夜会にも何故か、毎回追いかけてきてつきまとってくる。いったいどういうつもりですか!?そして、男性のライバル出現!? やっぱり男色になっちゃたの!?
折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!
たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。
なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!!
幸せすぎる~~~♡
たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!!
※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。
※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。
短めのお話なので毎日更新
※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。
※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。
《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》
※他サイト様にも公開始めました!
ヤンデレ王子に鉄槌を
ましろ
恋愛
私がサフィア王子と婚約したのは7歳のとき。彼は13歳だった。
……あれ、変態?
そう、ただいま走馬灯がかけ巡っておりました。だって人生最大のピンチだったから。
「愛しいアリアネル。君が他の男を見つめるなんて許せない」
そう。殿下がヤンデレ……いえ、病んでる発言をして部屋に鍵を掛け、私をベッドに押し倒したから!
「君は僕だけのものだ」
いやいやいやいや。私は私のものですよ!
何とか救いを求めて脳内がフル稼働したらどうやら現世だけでは足りずに前世まで漁くってしまったみたいです。
逃げられるか、私っ!
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる