伯爵令嬢エリカは王子の恋を応援します!なのにグイグイこられて、あなたは男装王女の筈ですよね?

sierra

文字の大きさ
30 / 79

30 知能犯

しおりを挟む
 勝利の女神。

 優勝者には勝利の女神が月桂樹でできた冠を被せ、その頬に祝福のキスを送るのだ。

 そしてその役は総じて美女が多い…………。

 剣士は全員が前もって、勝利の女神を決めておく。

 優勝するような実力者には女性が群がり、好きに選べるので、自然と美しい女性が選ばれるのだ。

 表彰台で女神の祝福を受けられるのは、上位三位までである。

 優勝圏外の選手達は本当は女神を決めなくてもいいのだが、意中の女性に応援をしてもらえるのと、それが縁で結婚。なんていうこともあるので、みな自分の女神を決めていた。

 ダニエルは去年まで、女神の選出を家臣任せにしていた。

「あの……、わたくしなんかよりミランダが、彼女とても美しいので代わってもらって…」

「却下だ。なぜ君という婚約者がいるのに、他の者を女神にしないといけない」
 
「今までの女神は美人揃いでした」

「君も美人だ」

「……殿下。目がお悪いのでは?」

「エリカ……」

 ダニエルが溜息を吐いてエリカを見つめる。

「俺の勝利の女神は君だ。君は美しい」

「……………」

「信じられないって顔だな」 

「はい」

「君の栗色の髪は」

「きゃっ、」

 ソファの上で引き寄せられて、ダニエルの膝の上で仰向かされた。

「絹糸のように艶やかで、豊かに波打つさまが美しい」

 骨ばった指先でゆっくりと髪を梳かれる。

「ダニエル様近いです」

 エリカに覆い被さっているダニエルの、顔と身体が非常に近い。

「”様”はいらない。吸い込まれそうな紫の瞳に、滑らかな白磁の肌…」

「顔、近いです……って、わたしの言ったこと聞いてますか!?」

「聞いているが?」

「婚約騒動を撤回しないことは承知しましたが、さすがに女神役はまずいと思います。剣士と女神って恋人同士が多いのですよ? 見せかけの婚約なのに、国民が益々期待してしまうではないですか」

 ダニエルがふと髪を梳いていた手を止めて、半ば閉じた目でエリカを見下ろす。

「それを狙っているとしたら……」

 ゆっくりと顔を寄せて、エリカの耳元で囁いた。

「どうする?」

「――っ、」

 エリカが細い肩を震わせる。

「エリカ、」

 ダニエルはエリカの耳に髪を流しかけた。

「君はミランダが俺の女神になっても平気なのか?」

「はい?」
 
「俺の女神として席に座り、応援をして、優勝したら俺にキスをするのが君ではなくミランダで平気なのか?」

「いやです――。あっ、……」

 思わず否定してしまった自分にエリカは驚き、ダニエルは表情をふっとなごませる。

 ノックの音がしてラファエルの声が響いてきた。

「ダニエル様、馬車の用意が整いました」

 いつもはエリカの帰宅の時間に合わせて、玄関で待機しているのだが、遅いので様子を見に来たらしい。

「わたし行かないと……、」

 起き上がろうとしたエリカの身体を押さえつけ、ダニエルが椅子に座ったままラファエルに返事をする。

「待機していてくれ」

「かしこまりました」

「俺の女神は君でいいな。エリカ?」

「あ、はい」

「武闘大会まで、毎日一緒に昼食もとろう」

「え、それはっ、毎日は必要ないです」

「誰かが注意してくれないと、昼食を抜いて剣の鍛錬をしてしまいそうだ……」

 遠くを見つめながら、呟くダニエル。

「うぐっ、……来ます」

 エリカはミランダが女神になることに、”いや”と言ってしまった自分に混乱していた。

 そればかりでなく女神役は引き受けてしまうし、毎日食事をする約束までしてしまい、ダニエルを見て呆然とする。

「さぁ、玄関まで送ろう」

 ダニエルはエリカをひょいとソファから立たせてくれた。

 いつもは爽やかな彼の笑みが黒く見えるのは、エリカの気のせいだろうか。


しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

(完結保証)大好きなお兄様の親友は、大嫌いな幼馴染なので罠に嵌めようとしたら逆にハマった話

のま
恋愛
大好きなお兄様が好きになった令嬢の意中の相手は、お兄様の親友である幼馴染だった。 お兄様の恋を成就させる為と、お兄様の前からにっくき親友を排除する為にある罠に嵌めようと頑張るのだが、、、

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

絶対に近づきません!逃げる令嬢と追う王子

さこの
恋愛
我が国の王子殿下は十五歳になると婚約者を選定される。 伯爵以上の爵位を持つ年頃の子供を持つ親は娘が選ばれる可能性がある限り、婚約者を作ることが出来ない… 令嬢に婚約者がいないという事は年頃の令息も然り… 早く誰でも良いから選んでくれ… よく食べる子は嫌い ウェーブヘアーが嫌い 王子殿下がポツリと言う。 良い事を聞きましたっ ゆるーい設定です

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

処理中です...