47 / 79
47 ダニエル様は恥ずかしくないのですか!?
しおりを挟む
「いま、扉が開いて、フォルカー様の声がしませんでしたか?」
「フォルカーだった」
「………え?」
エリカはダニエルの胸を強く押しやり、信じられないといった様子で彼を見やる。
「なぜ、言って下さらなかったんですか……!」
(どうしよう……フォルカールートは風前の灯だというのに。いや、それよりも……)
見下ろす彼の目が細められ、周囲の温度がヒヤリと下がった。
「フォルカーに見られて、なぜそこまで狼狽える?」
「扉が開いて、見られたのはフォルカー様だけではないでしょう!? 睦み合っているところを、皆に見られたんですよ! ダニエルは恥ずかしくないのですか!」
奥手で(実は)慎み深く、元は日本人でもあるエリカは、羞恥心に押しつぶされそうだ。
「睦み………」
ぷっとダニエルが吹き出した。
「な、なにを笑って……もうわたし、馬車から降りられないわ!」
ワナワナ震えて立ち上がり、離れようとするエリカの腰に、ダニエルの両腕が巻き付いた。
「離して!」
ぽかぽかと彼を叩くエリカを、痛くも痒くもないといった風情で、ダニエルは腰掛けたまま、両腕を外さずに彼女を見上げる。
「大丈夫だ。見たのはフォルカーだけだ。彼の大きい身体が邪魔をして、他の奴らは見られなかった」
頬を膨らませたエリカは、ダニエルを見下ろした。
「でもフォルカー様には見られたのでしょう?」
「牽制のためだ。しかたがない」
「牽制?」
「”君は俺のものだ”と」
エリカは紅く頬を染めて黙り込む。
「そんな目くじら立てなくても大丈夫だ。俺も君が愛らしく喘ぐ姿を他の男には、もう見せたくない」
「喘いでません!」
くすくす笑いながら、腕を回したままでダニエルが問う。
「この間は先見の話が出てはぐらかされたが……、なぜフォルカーの部屋にいたんだ?」
「私があまりに動揺していたので、”殿下と喧嘩したのですか?”って、匿ってくれたのです」
「俺がフォルカーの執務室を覗いた時は、隠れていたのか――」
エリカを見つめる瞳が陰り、エリカは何だか申し訳ない気持ちになる。
「気持ちを落ち着ける時間がほしくて……」
ダニエルは彼女の後ろめたそうな気持ちを察し、”ここが引き際”と話題を変えた。
「分かった。もうこれ以上は詮索しないからキスしてくれ」
「え……」
顎を上げてエリカを見つめ、催促をする。
「なぜそういう話になるんですか」
頬を赤らめてワタワタするエリカに、ダニエルは再び迫った。
「さあ、してくれ」
「まるで子供みたいですよ?」
引かないダニエルに微笑むエリカ。こうしたちょっとしたやり取りをエリカは楽しいと感じる。
「分かりました。目を瞑ってください」
目を閉じたダニエルの頬を、エリカが両手で優しく包んだ。
(この人が…好き……)
身をかがませて、そぅっと、柔らかく……ダニエルの目元に唇を押し当てた。
ダニエルが残念そうに溜息を吐く。
少々大げさなその溜息は、ダニエルなりの気遣いかもしれない。
エリカが気まずい思いをしないで済むよう、『残念、やはり唇ではないのか』と笑いに変えれるように。
(ダニエルが女性でもやはり好き)
一度唇を離し、顔を傾けて……唇にくちづけた。
彼の身体が固くなり、微かに息を呑む。
顔を離し、エリカは静かに上体をもとに戻した。
(だからわたしは、貴方から離れなければならない――)
「フォルカーだった」
「………え?」
エリカはダニエルの胸を強く押しやり、信じられないといった様子で彼を見やる。
「なぜ、言って下さらなかったんですか……!」
(どうしよう……フォルカールートは風前の灯だというのに。いや、それよりも……)
見下ろす彼の目が細められ、周囲の温度がヒヤリと下がった。
「フォルカーに見られて、なぜそこまで狼狽える?」
「扉が開いて、見られたのはフォルカー様だけではないでしょう!? 睦み合っているところを、皆に見られたんですよ! ダニエルは恥ずかしくないのですか!」
奥手で(実は)慎み深く、元は日本人でもあるエリカは、羞恥心に押しつぶされそうだ。
「睦み………」
ぷっとダニエルが吹き出した。
「な、なにを笑って……もうわたし、馬車から降りられないわ!」
ワナワナ震えて立ち上がり、離れようとするエリカの腰に、ダニエルの両腕が巻き付いた。
「離して!」
ぽかぽかと彼を叩くエリカを、痛くも痒くもないといった風情で、ダニエルは腰掛けたまま、両腕を外さずに彼女を見上げる。
「大丈夫だ。見たのはフォルカーだけだ。彼の大きい身体が邪魔をして、他の奴らは見られなかった」
頬を膨らませたエリカは、ダニエルを見下ろした。
「でもフォルカー様には見られたのでしょう?」
「牽制のためだ。しかたがない」
「牽制?」
「”君は俺のものだ”と」
エリカは紅く頬を染めて黙り込む。
「そんな目くじら立てなくても大丈夫だ。俺も君が愛らしく喘ぐ姿を他の男には、もう見せたくない」
「喘いでません!」
くすくす笑いながら、腕を回したままでダニエルが問う。
「この間は先見の話が出てはぐらかされたが……、なぜフォルカーの部屋にいたんだ?」
「私があまりに動揺していたので、”殿下と喧嘩したのですか?”って、匿ってくれたのです」
「俺がフォルカーの執務室を覗いた時は、隠れていたのか――」
エリカを見つめる瞳が陰り、エリカは何だか申し訳ない気持ちになる。
「気持ちを落ち着ける時間がほしくて……」
ダニエルは彼女の後ろめたそうな気持ちを察し、”ここが引き際”と話題を変えた。
「分かった。もうこれ以上は詮索しないからキスしてくれ」
「え……」
顎を上げてエリカを見つめ、催促をする。
「なぜそういう話になるんですか」
頬を赤らめてワタワタするエリカに、ダニエルは再び迫った。
「さあ、してくれ」
「まるで子供みたいですよ?」
引かないダニエルに微笑むエリカ。こうしたちょっとしたやり取りをエリカは楽しいと感じる。
「分かりました。目を瞑ってください」
目を閉じたダニエルの頬を、エリカが両手で優しく包んだ。
(この人が…好き……)
身をかがませて、そぅっと、柔らかく……ダニエルの目元に唇を押し当てた。
ダニエルが残念そうに溜息を吐く。
少々大げさなその溜息は、ダニエルなりの気遣いかもしれない。
エリカが気まずい思いをしないで済むよう、『残念、やはり唇ではないのか』と笑いに変えれるように。
(ダニエルが女性でもやはり好き)
一度唇を離し、顔を傾けて……唇にくちづけた。
彼の身体が固くなり、微かに息を呑む。
顔を離し、エリカは静かに上体をもとに戻した。
(だからわたしは、貴方から離れなければならない――)
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!
たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。
なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!!
幸せすぎる~~~♡
たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!!
※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。
※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。
短めのお話なので毎日更新
※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。
※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。
《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》
※他サイト様にも公開始めました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる