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第四章
舞踏会+夏の宴 怒ると子猫
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「リリアーナ様、失礼致しました。すぐに下ろしますので」
まだ若干、明後日の方向を向いているカイトはそろそろとリリアーナを床に下ろした。
が、リリアーナはそのままフワッと座り込んでしまった。スカートが花びらのように広がってその様は大変愛らしい。
「リリアーナ様!?」
「カイト・・・さっきの男性が本当に気持ちが悪かったの・・・私凄く気が張ってたみたいで、恥かしいけど・・・」
最後のほうは殆ど聞き取れなくて、しゃがんでリリアーナの口元近くまで顔を寄せなければならなかった。微かにリリアーナの良い香りも感じる。
『これは一種の拷問だろうか――』
カイトは顔を寄せる時に気を引き締めた。
「腰が抜けたみたい・・・」
その言い方も恥かしそうで、小さく座っている姿がまた可愛らしい。
カイトは更に気を引き締める。
「大丈夫です。お運び致します」
リリアーナを横に抱き上げると、歩きながら話しかけた。
「どこか行きたい所はございますか?それとも部屋に戻られますか?」
「まだ少しここに居たいわ。歩けるようになったら・・・私、ダンスを踊りたいの! 以前は踊るのが大好きだったのよ! お祖母様のお城でもずっと先生に付いてもらっていて、おじいさんの先生だったから、怖くなかったし優しかったし・・・」
リリアーナはカイトを見ながら話す。
「フランチェスカからカイトはダンスが上手だと聞いているわ。私の相手をしてくれる?」
カイトは侯爵家出身だ。ダンスはちゃんと仕込まれている。
「かしこまりました。最初のダンスはアレクセイ様がよろしいかと思います。その後に私でいかがでしょうか?」
「ええ、それでお願い!」
リリアーナが笑顔を浮かべると、周りの雰囲気も華やぐようだ。
「それでしたら歩けるようになるまで、吟遊詩人の物語でも聞きに参りましょう」
庭に出て、近くの石造りのベンチにリリアーナを下ろすとゲルマン叙事詩の勇者ベオウルフの物語に耳を傾けた。
わくわくするような面白い話に耳を傾けていて夢中になってしまい、カイトに声を掛けられた時は、結構な時間が過ぎていた。
「リリアーナ様、そろそろホールに行きませんと、あまり遅くならないほうが・・・」
「まあ!ほんとね。急ぎましょう」
ホールはピークを過ぎたようで、踊る人数も少なくなっていた。アレクセイは皇太子であるが故に、まだご令嬢と踊っていた。
周りにはきっとにこやかに見えるであろうが、リリアーナには兄が疲れて少しうんざりしているのが見てとれた。
「カイト、お兄様はまだ他の女性と踊らないといけないようだし、疲れているみたいだから遠慮したほうがいいと思うわ」
カイトもアレクセイの様子を伺った。
「そのようですね」
カイトはリリアーナに右肘を差し出す。
「それではリリアーナ様、お手をどうぞ」
リリアーナはカイトの右腕に軽く手を添えると、曲が切れたところでホールに出た。ずっと社交界に顔を出していなかったリリアーナと、体術の部で優勝したリリアーナの騎士は注目を浴びている。
リリアーナが緊張しているのを感じたカイトはリリアーナと視線を合わせると悪戯っぽくウィンクをした。
『カイトがウィンク!?』
真面目なカイトがウィンクしているのに驚いている内に曲が流れ始める。お陰で緊張も上手く流れた。
滑るように踊りだす。カイトのリードはとても上手で、大変付いていき易い。周りから見ても綺麗なホールドである上に、お互いが動きやすい位置にいられる。
ただでさえ目を引いている上に二人の相性はピッタリで、リリアーナが楽しそうに踊っているのがまた微笑ましいのであった。楽士たちもその楽しい様子に釣られて、音楽がテンポが良いものになってくる。そして最後に拍手を受ける事となった。
リリアーナの希望でもう一曲続けて踊る。二人でのダンスはカイトも楽しいものであった。二曲目が終わったところで、アレクセイが次のダンスの申し込みに来た。パートナーを代わってカイトは下がる。
カイトにダンスのパートナーになって欲しそうなご令嬢方もいたが、仕事中モードを醸し出していたのと、最初の衛兵時の床ダン、が怖かったようで、遠巻きにしているだけだ。内心助かったと思っていると――
黒いドレスを着た妖艶な美しさを持つ女性が近付いてきた。後方には金髪の男性騎士と銀髪の女性騎士を引き連れている。先ほどまでは取り巻きに囲まれていた筈なのに、騎士二人だけとはもう帰るところであろうか? 女性騎士には何だか見覚えがある。
その女性はカイトのすぐ傍で足を止めて、右手を優雅に差し出した。
「こんばんは、黒髪の騎士様、私はカミラ・フォン・シュぺーと申します」
カイトは淑女の挨拶を返した。
「はじめまして、私はリリアーナ様付きの騎士をしている者です」
「名前を教えては頂けませんの? 私は名乗りましたのに」
「カイト・フォン・デア・ゴルツと申します」
カミラ・フォン・シュぺーは伯爵であったマクシミリアン・フォン・シュぺーの未亡人である。普通未亡人になれば、実家に戻されるものだが嫡男を産んでいるので、そのまま残っているのである。あまりいい噂を聞かないので、カイトは係わり合いになりたくなかった。
「踊って頂けるかしら?」
「職務中です」
「素っ気ないのね・・・でもそこが素敵だわ」
カミラは艶やかな笑みを浮かべると、カイトの顎に手を添えた。
「私の騎士として働かない?給金は今の二倍、いいえ三倍出してもいいわ」
カイトはすぐその手を払い退ける。
「お断りいたします」
「あんなお嬢ちゃんと一緒にいるよりずっと楽しいわよ」
カイトはカミラをわざとじっと見た後に答えた。
「とてもそうは思えませんが」
「ふ・・・ん・・・益々気に入ったわ。簡単に手に入るものなんてつまらないもの」
ちょうどそこで曲が終わり、リリアーナが足早に近付いて来た。
「さっきの話を考えておいてね!」
わざと周りに聞こえるように声高に言うと、リリアーナに向かって深く膝と腰を折り失礼の無いように挨拶だけをしっかりして去ってしまった。カイトは`余計な事を!‘と瞬間顔を歪ませる。
「カイト!今のはどういう事!?」
珍しくリリアーナが興奮している。
「リリアーナ様のお耳に入れるほどの事ではございません」
「嘘! 考えておいてねって言ってたし、カイトに親しげに触っていたわ!」
いつものリリアーナらしかぬ言動にカイトも驚いたし、周りの好奇の目も集まってきた。
アレクセイがやって来て助け舟を出す。
「場所を移して話そう」
王族専用の建物部分にある小部屋に場所を移した。リリアーナは膨れている。
カイトがありのままを話すと、アレクセイが反応した。
「実は彼女が麻薬の売買に関わっているという情報があるんだ。これを利用して、カイトを潜入させられたら・・・」
「ああ、その手がありますね――」
男二人で話を進めているとリリアーナが牙を剥いた。
「駄目! 絶対に駄目! カイトは私の騎士だから!!」
アレクセイは`リリアーナが珍しい‘という顔をしているし、カイトは`怒っても子猫のようで怖くないな‘と思っていた。
「リリアーナ、お前もう眠いだろ? さっきからお前らしくないぞ。普段はそんな言い方しないし・・・疲れて眠いのに無理して起きてるから、頭が少し興奮しているんじゃないか?」
今はもう12時を過ぎて、夜会もお開きになっている頃だ。男性恐怖症で皇太后の所に身を寄せていたリリアーナは修道女のような生活をしていた。今でもこの時間はとっくに寝ている時間である。
「今日は眠くない」
不服そうに横を向く。
「カイト、リリアーナを部屋まで運んでくれ。話の続きはまた明日に」
「かしこまりました」
「何それ! 話なら今にして!」
「リリアーナ様、失礼いたします」
カイトは、毛を逆立てている子猫を横に抱き上げると、入り口を開けて押さえてくれているアレクセイに礼を述べて退室した。
まだ若干、明後日の方向を向いているカイトはそろそろとリリアーナを床に下ろした。
が、リリアーナはそのままフワッと座り込んでしまった。スカートが花びらのように広がってその様は大変愛らしい。
「リリアーナ様!?」
「カイト・・・さっきの男性が本当に気持ちが悪かったの・・・私凄く気が張ってたみたいで、恥かしいけど・・・」
最後のほうは殆ど聞き取れなくて、しゃがんでリリアーナの口元近くまで顔を寄せなければならなかった。微かにリリアーナの良い香りも感じる。
『これは一種の拷問だろうか――』
カイトは顔を寄せる時に気を引き締めた。
「腰が抜けたみたい・・・」
その言い方も恥かしそうで、小さく座っている姿がまた可愛らしい。
カイトは更に気を引き締める。
「大丈夫です。お運び致します」
リリアーナを横に抱き上げると、歩きながら話しかけた。
「どこか行きたい所はございますか?それとも部屋に戻られますか?」
「まだ少しここに居たいわ。歩けるようになったら・・・私、ダンスを踊りたいの! 以前は踊るのが大好きだったのよ! お祖母様のお城でもずっと先生に付いてもらっていて、おじいさんの先生だったから、怖くなかったし優しかったし・・・」
リリアーナはカイトを見ながら話す。
「フランチェスカからカイトはダンスが上手だと聞いているわ。私の相手をしてくれる?」
カイトは侯爵家出身だ。ダンスはちゃんと仕込まれている。
「かしこまりました。最初のダンスはアレクセイ様がよろしいかと思います。その後に私でいかがでしょうか?」
「ええ、それでお願い!」
リリアーナが笑顔を浮かべると、周りの雰囲気も華やぐようだ。
「それでしたら歩けるようになるまで、吟遊詩人の物語でも聞きに参りましょう」
庭に出て、近くの石造りのベンチにリリアーナを下ろすとゲルマン叙事詩の勇者ベオウルフの物語に耳を傾けた。
わくわくするような面白い話に耳を傾けていて夢中になってしまい、カイトに声を掛けられた時は、結構な時間が過ぎていた。
「リリアーナ様、そろそろホールに行きませんと、あまり遅くならないほうが・・・」
「まあ!ほんとね。急ぎましょう」
ホールはピークを過ぎたようで、踊る人数も少なくなっていた。アレクセイは皇太子であるが故に、まだご令嬢と踊っていた。
周りにはきっとにこやかに見えるであろうが、リリアーナには兄が疲れて少しうんざりしているのが見てとれた。
「カイト、お兄様はまだ他の女性と踊らないといけないようだし、疲れているみたいだから遠慮したほうがいいと思うわ」
カイトもアレクセイの様子を伺った。
「そのようですね」
カイトはリリアーナに右肘を差し出す。
「それではリリアーナ様、お手をどうぞ」
リリアーナはカイトの右腕に軽く手を添えると、曲が切れたところでホールに出た。ずっと社交界に顔を出していなかったリリアーナと、体術の部で優勝したリリアーナの騎士は注目を浴びている。
リリアーナが緊張しているのを感じたカイトはリリアーナと視線を合わせると悪戯っぽくウィンクをした。
『カイトがウィンク!?』
真面目なカイトがウィンクしているのに驚いている内に曲が流れ始める。お陰で緊張も上手く流れた。
滑るように踊りだす。カイトのリードはとても上手で、大変付いていき易い。周りから見ても綺麗なホールドである上に、お互いが動きやすい位置にいられる。
ただでさえ目を引いている上に二人の相性はピッタリで、リリアーナが楽しそうに踊っているのがまた微笑ましいのであった。楽士たちもその楽しい様子に釣られて、音楽がテンポが良いものになってくる。そして最後に拍手を受ける事となった。
リリアーナの希望でもう一曲続けて踊る。二人でのダンスはカイトも楽しいものであった。二曲目が終わったところで、アレクセイが次のダンスの申し込みに来た。パートナーを代わってカイトは下がる。
カイトにダンスのパートナーになって欲しそうなご令嬢方もいたが、仕事中モードを醸し出していたのと、最初の衛兵時の床ダン、が怖かったようで、遠巻きにしているだけだ。内心助かったと思っていると――
黒いドレスを着た妖艶な美しさを持つ女性が近付いてきた。後方には金髪の男性騎士と銀髪の女性騎士を引き連れている。先ほどまでは取り巻きに囲まれていた筈なのに、騎士二人だけとはもう帰るところであろうか? 女性騎士には何だか見覚えがある。
その女性はカイトのすぐ傍で足を止めて、右手を優雅に差し出した。
「こんばんは、黒髪の騎士様、私はカミラ・フォン・シュぺーと申します」
カイトは淑女の挨拶を返した。
「はじめまして、私はリリアーナ様付きの騎士をしている者です」
「名前を教えては頂けませんの? 私は名乗りましたのに」
「カイト・フォン・デア・ゴルツと申します」
カミラ・フォン・シュぺーは伯爵であったマクシミリアン・フォン・シュぺーの未亡人である。普通未亡人になれば、実家に戻されるものだが嫡男を産んでいるので、そのまま残っているのである。あまりいい噂を聞かないので、カイトは係わり合いになりたくなかった。
「踊って頂けるかしら?」
「職務中です」
「素っ気ないのね・・・でもそこが素敵だわ」
カミラは艶やかな笑みを浮かべると、カイトの顎に手を添えた。
「私の騎士として働かない?給金は今の二倍、いいえ三倍出してもいいわ」
カイトはすぐその手を払い退ける。
「お断りいたします」
「あんなお嬢ちゃんと一緒にいるよりずっと楽しいわよ」
カイトはカミラをわざとじっと見た後に答えた。
「とてもそうは思えませんが」
「ふ・・・ん・・・益々気に入ったわ。簡単に手に入るものなんてつまらないもの」
ちょうどそこで曲が終わり、リリアーナが足早に近付いて来た。
「さっきの話を考えておいてね!」
わざと周りに聞こえるように声高に言うと、リリアーナに向かって深く膝と腰を折り失礼の無いように挨拶だけをしっかりして去ってしまった。カイトは`余計な事を!‘と瞬間顔を歪ませる。
「カイト!今のはどういう事!?」
珍しくリリアーナが興奮している。
「リリアーナ様のお耳に入れるほどの事ではございません」
「嘘! 考えておいてねって言ってたし、カイトに親しげに触っていたわ!」
いつものリリアーナらしかぬ言動にカイトも驚いたし、周りの好奇の目も集まってきた。
アレクセイがやって来て助け舟を出す。
「場所を移して話そう」
王族専用の建物部分にある小部屋に場所を移した。リリアーナは膨れている。
カイトがありのままを話すと、アレクセイが反応した。
「実は彼女が麻薬の売買に関わっているという情報があるんだ。これを利用して、カイトを潜入させられたら・・・」
「ああ、その手がありますね――」
男二人で話を進めているとリリアーナが牙を剥いた。
「駄目! 絶対に駄目! カイトは私の騎士だから!!」
アレクセイは`リリアーナが珍しい‘という顔をしているし、カイトは`怒っても子猫のようで怖くないな‘と思っていた。
「リリアーナ、お前もう眠いだろ? さっきからお前らしくないぞ。普段はそんな言い方しないし・・・疲れて眠いのに無理して起きてるから、頭が少し興奮しているんじゃないか?」
今はもう12時を過ぎて、夜会もお開きになっている頃だ。男性恐怖症で皇太后の所に身を寄せていたリリアーナは修道女のような生活をしていた。今でもこの時間はとっくに寝ている時間である。
「今日は眠くない」
不服そうに横を向く。
「カイト、リリアーナを部屋まで運んでくれ。話の続きはまた明日に」
「かしこまりました」
「何それ! 話なら今にして!」
「リリアーナ様、失礼いたします」
カイトは、毛を逆立てている子猫を横に抱き上げると、入り口を開けて押さえてくれているアレクセイに礼を述べて退室した。
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