黒の転生騎士

sierra

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第四章

カミラの毒  

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 帆船がリーフシュタイン港に着いた。サイラスが城に早馬で知らせを送っていた為に、迎えの者達と、罪人用の牢屋のような大型の荷車が用意されていた。カイトがリリアーナの馬車が見当たらないと辺りを見回していると、サファイア付きの騎士ラザファムが近付いてきた。
「リリアーナ様、本当にご無事で何よりでした。ヴィルヘルム国王陛下とイフィゲニア皇后陛下、並びに他の方々も城でお待ちでございます」
「ありがとうラザファム。今日はサファイア姉様の護衛はいいの?」 
「はい、すぐ自分の代わりに迎えに行くよう、朝の七時に叩き出され・・ではなくて! 言い付かりました」
 今から三時間近く前に・・・可哀想にとリリアーナとカイトは思った。
 
「ラザファム先輩、リリアーナ様の馬車が見当たらないのですが」
「それについてだが、城までの道のりでパレードを行う事になった」
「・・・攫われて帰って来て、パレードですか・・・?」
「この間の武術大会でお前の知名度が上がったからな。ぶっちぎりで優勝した騎士のカイトがリリアーナ様にはついている。今回もすぐにお救いできたし、騎士団の活躍も一緒に宣伝して、リリアーナ様に手を出そうとする者達を牽制する狙いだ。サファイア様達がいらっしゃらなかったのも、自分達に注目がいっては注意がそれて効果が薄れてしまうかもしれないからだ」
「パレードは納得しましたがそのための馬車は?」
「お前の馬にリリアーナ様と一緒に乗ってくれ」
「何故馬に二人乗り・・・?」
「インパクトを与えたいらしい。二人一緒である事をできるだけ強烈に人々の脳裏に植え付けるそうだ。最近、観光客も多いからな。皆、国に帰ってこの話をしてくれるだろう。騎士と二人で馬に乗ってパレードする姫君も初めてだし」
「・・・俺はいいですがリリアーナ様はドレスなので横乗りしないといけないし、もちろん支えますが、バランスを取りづらくお辛いんではないでしょうか?」
「二人乗り用の鞍を持ってきた。乗りやすいように上手く設計されてるらしいぞ」

 もう決定事項のようだ。カイトは鞍を付け替えると、まず自分が跨り馬を落ち着かせ、その後にイフリートに手伝って貰いリリアーナを前に座らせた。左手でリリアーナの身体に腕を回し、右手だけで手綱を取る。
「リリアーナ様、何かありましたらおっしゃって下さい」
「分かったわ、でも多分大丈夫。カイトと一緒だから」
 信じきった澄んだ瞳で見上げられてにっこりと微笑まれた。
「・・・・・・」
「カイト?」
「はい、大丈夫です」
 若干顔の赤いカイトは『やはり、至近距離でいきなり微笑まれるのはヤバイ・・・』と思っていた。

 一番先頭をイフリートとサイラス、その後にリリーアーナを乗せたカイト、警護にはグスタフとラザファム、スティーブがついた。

「リリアーナ様!!」
「ご無事で良かったです!」
「リリアーナ様!」
 沿道から声を掛けられる。リリアーナがためらいがちに手を振ると、ワッと歓声が上がった。嬉しそうに頬を染めるのがまた可憐で愛らしく、リリアーナと一緒に群集が移動する勢いだ。

「あの、黒髪の騎士がカイトよね!」
「今回もリリアーナ様を取り戻すのに立派な働きをしたらしいぞ!」
「リリアーナ様の黒い騎士ね!」
 子供達の声も聞こえてきた。
「あ、たいじゅつのぶで勝ったきしだ!」
「かっこいーい!」
「ドゲザのきしだ!」
 ぶっ、とスティーブが吹き出した。 
「お前、ドゲザの騎士だってよ!」
「褒められまくるよりマシだ」

「ロングボーンで勝ったグスタフもいるー!」
 わーい、と手を振っている。グスタフも振り返す。
「2位のラザファムもいるー!」
 わーいとまた手をふっている。
「あれだれ?」
「知らなーい」
 とスティーブを指差している。
「俺だよ! 俺! 剣術の部で五位だった!」
 う~ん、と子供たちは悩んでいる。
「ほら、最初がスで始まる・・・」
「スティーブやめろ。子供達が怖がってるぞ」

 一番最後は罪人用の荷車で、傭兵達とカミラが乗せられていた。沿道から石を投げつけてくる者もいる。騎士達が止めに入るのだがそれがなかなかやまない。荷車に乗せられる時も怒った群衆に取り囲まれ、ドレスを裂かれたり叩かれたりした。リーフシュタインの民たちにとって、やっと人前に出れるようになったリリアーナを無理矢理攫った怒りはまだ収まらない。カミラの額に石が当たり、生暖かい血が流れ落ちるのを感じた。
 パレードの前方では歓声が飛んでいるのに自分たちには怒号だけ・・・カミラの胸の中は憎しみで溢れ返る。結い上げていた髪に手を当てるようにして、髪の中に隠していた折りたたみ式ナイフを取り出すと、自分の足に掛かっている縄を人目に付かないよう切り始めた。

 リーフシュタイン城は小さな山の上にある。てっぺんが広く平らなために、居城として必要な施設も充分に併設する事ができ、理想的な場所である。城門をくぐり、城の入り口まで来ると、ヴィルヘルム達一行が待ち構えていた。カイトが先に馬から下りて、リリアーナを抱き下ろす。
 イフリートがヴィルヘルムとアレクセイに報告している間にイフィゲニア達が飛んできた。王族らしかぬ行動だが愛情深さが伝わってくる。
「リリアーナ! 良かったわ!本当に良かった」
 それぞれ口にしながら抱き合っている。心温まる光景を皆で目にしていると、不穏な空気が伝わってきた。振り返ると騎士達が次々に城の本館の中庭へと走って行く。カイトとスティーブ達もそれに続いた。

 本館の中庭は石畳みになっており、中央からキッチン寄りに大きい井戸があるだけだ。そこにはカミラが立っていた。額からは流れ出た血が固まっており、着ていたドレスもボロボロで、裂けたドレスの間からも所々血が見える。高々と上げた右手には白い陶器の小瓶が握られていて、コルクで蓋がしてあるように見える。
 イフリートとサイラスも駆けつけてきた。
「何でカミラがここにいるんだ!!」
「はい! 牢屋に移そうと荷車から降ろしたところ、いきなり傍にいた騎士をナイフで切りつけ逃走し、ここに逃げ込まれたのです」
「ナイフを隠し持っていたのか!? あの右手にもっている物は・・・?」

「これ借りるよ」
 カイトは騎士見習いが持っていたロングボウを手に取った。


 
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