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第六章
執 着 8 自分が許せない
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凄い勢いで向かってくるフランチェスカをスティーブが止めようとした。
「おま! フラン! 男子宿舎だぞ! 水浴び後の裸の男もうろうろしているのに、何入ってきてるんだ!」
「そんなの、兄さんで見飽きてるわよ!!」
フランチェスカはカイトに向き直った。
「カイト、お願い! 姫様と話して! 痩せてしまって、いくら勧めても食べないの。それなのに公務を目一杯入れて、あれではやがて倒れてしまうわ。できれば・・・できれば許してさし上げて」
「リリアーナ様に頼まれて来たのか?」
「――っ!!」
フランチェスカは右手を振り上げると、カイトの頬を思い切り引っ叩いた。
「リリアーナ様はそんなこと頼まないわ!! 私が勝手に来ただけよ!」
スティーブがフランチェスカを羽交い絞めにする。
「フラン、落ち着け!」
「放してよ! もう一発叩かないと気が済まない! リリアーナ様のした事は確かに許されないけど、人は間違える事だってあるじゃない!! 貴方は絶対間違えないの!? 神様ってわけ!?」
暴れるフランチェスカをスティーブが無理矢理外に連れて行った。集まってきた野次馬を騎馬隊長のアルフレッドが散らす。
「お前、わざと叩かれたろう」
「いいえ、よけ損ねただけです」
カイトは手の甲で口を拭うと、その場を後にした。
フランチェスカは城の前庭までスティーブに連れて行かれた。
「もう放してよ。暴れないから」
スティーブが放すと、フランチェスカは掴まれていた所を軽く揉む。
「カイトも苦しんでるんだぜ」
「あれのどこが!?」
「さっきの絶対わざと言った。それにあのカイトがお前に叩かれるまで、ずっと動かなかったじゃないか」
「・・・まあ、確かに・・・」
スティーブはカイトとの会話のあらましを話した。
「え・・・じゃあ、何でカイトはそれをさっき言わなかったの?」
「もうリリアーナ様に会うつもりがないからだろう。それに、自分を少しでも罰したかったんじゃないか? 最近あいつ、きつい仕事ばかり選んでるし」
「リリアーナ様もそうなの! まるで自分を罰するように公務の予定を入れるの。それも慈善活動中心で・・・じゃあ、二人共お互いのための贖罪 (しょくざい) な訳? それって何だか・・・」
「・・・二人共、少し時間を置いたほうがいかもしれないな」
一ヶ月が過ぎ、まだまだ暑いが夏も終わりを告げる頃――
「カイト、お前の申し出は却下する。明日は休め」
「イフリート団長、自分は休みがなくても平気です。働かせて下さい」
「駄目だ! 鏡を見てみろ、顔色が悪いぞ。ただ部屋で寝てるだけでもいい! とにかく休め!」
「分かりました・・・」
騎士の礼をし、退室しようしたカイトにイフリートは声をかけた。
「カイト、リリアーナ様を許す気にはなれないのか?」
「・・・もうとっくに許してます。許せないのは自分のした事です」
最後の言葉と共にドアが閉まった。
四角いガラス窓からベッドに月明かりが射している。そのベッドに着替えないまま横になった。
ポケットからハンカチを取り出して、月明かりの中で広げてみる。
武術大会で対戦相手のヴァレットが、ライオンの刺繍の事を子猫と言っていたけれど、確かに子猫に見えなくもない。
『刺繍する人に似るのだろうか?』
あの細い首に手を掛けた時、顔には絶望が広がると思った。
微笑んで、まさかあんな事を言われるなんて・・・
ハンカチが落ちてカイトの顔を隠し、涙がぽたりとシーツに落ちた。
やはり自分が許せない――
同じ月明かりの中、リリアーナは指輪を見ていた。カイトや、幸せな時を思い出して最初は見るのが辛かったけど、今は貰えて良かったと思う。たった一つの思い出だから。本当はまだ見るのが辛いけど・・・
最近は食べるようにしている。公務先で、倒れそうになったからだ。じいやに痩せすぎだと怒られた。
男性にも慣れるように練習し出した。最近のリーフシュタインは、揃っている騎士が優秀なので、敷地内は安全だ。なので時々警護をつけず散歩するようにしている。男性騎士達も分かっていて、リリアーナに出会うと、少し距離を取って接してくれる。まだ近くにいけないし怖いけど、随分ましにはなった。
毎日が充実しているのに、胸には大きな穴が空いている。どんなに頑張って成果が出ても、心が動かず喜びを感じない。
『俺を騙したのか――!!』あの声が頭を離れない。
傷つけたのは私――
これは、その罰なのだ。
「おま! フラン! 男子宿舎だぞ! 水浴び後の裸の男もうろうろしているのに、何入ってきてるんだ!」
「そんなの、兄さんで見飽きてるわよ!!」
フランチェスカはカイトに向き直った。
「カイト、お願い! 姫様と話して! 痩せてしまって、いくら勧めても食べないの。それなのに公務を目一杯入れて、あれではやがて倒れてしまうわ。できれば・・・できれば許してさし上げて」
「リリアーナ様に頼まれて来たのか?」
「――っ!!」
フランチェスカは右手を振り上げると、カイトの頬を思い切り引っ叩いた。
「リリアーナ様はそんなこと頼まないわ!! 私が勝手に来ただけよ!」
スティーブがフランチェスカを羽交い絞めにする。
「フラン、落ち着け!」
「放してよ! もう一発叩かないと気が済まない! リリアーナ様のした事は確かに許されないけど、人は間違える事だってあるじゃない!! 貴方は絶対間違えないの!? 神様ってわけ!?」
暴れるフランチェスカをスティーブが無理矢理外に連れて行った。集まってきた野次馬を騎馬隊長のアルフレッドが散らす。
「お前、わざと叩かれたろう」
「いいえ、よけ損ねただけです」
カイトは手の甲で口を拭うと、その場を後にした。
フランチェスカは城の前庭までスティーブに連れて行かれた。
「もう放してよ。暴れないから」
スティーブが放すと、フランチェスカは掴まれていた所を軽く揉む。
「カイトも苦しんでるんだぜ」
「あれのどこが!?」
「さっきの絶対わざと言った。それにあのカイトがお前に叩かれるまで、ずっと動かなかったじゃないか」
「・・・まあ、確かに・・・」
スティーブはカイトとの会話のあらましを話した。
「え・・・じゃあ、何でカイトはそれをさっき言わなかったの?」
「もうリリアーナ様に会うつもりがないからだろう。それに、自分を少しでも罰したかったんじゃないか? 最近あいつ、きつい仕事ばかり選んでるし」
「リリアーナ様もそうなの! まるで自分を罰するように公務の予定を入れるの。それも慈善活動中心で・・・じゃあ、二人共お互いのための贖罪 (しょくざい) な訳? それって何だか・・・」
「・・・二人共、少し時間を置いたほうがいかもしれないな」
一ヶ月が過ぎ、まだまだ暑いが夏も終わりを告げる頃――
「カイト、お前の申し出は却下する。明日は休め」
「イフリート団長、自分は休みがなくても平気です。働かせて下さい」
「駄目だ! 鏡を見てみろ、顔色が悪いぞ。ただ部屋で寝てるだけでもいい! とにかく休め!」
「分かりました・・・」
騎士の礼をし、退室しようしたカイトにイフリートは声をかけた。
「カイト、リリアーナ様を許す気にはなれないのか?」
「・・・もうとっくに許してます。許せないのは自分のした事です」
最後の言葉と共にドアが閉まった。
四角いガラス窓からベッドに月明かりが射している。そのベッドに着替えないまま横になった。
ポケットからハンカチを取り出して、月明かりの中で広げてみる。
武術大会で対戦相手のヴァレットが、ライオンの刺繍の事を子猫と言っていたけれど、確かに子猫に見えなくもない。
『刺繍する人に似るのだろうか?』
あの細い首に手を掛けた時、顔には絶望が広がると思った。
微笑んで、まさかあんな事を言われるなんて・・・
ハンカチが落ちてカイトの顔を隠し、涙がぽたりとシーツに落ちた。
やはり自分が許せない――
同じ月明かりの中、リリアーナは指輪を見ていた。カイトや、幸せな時を思い出して最初は見るのが辛かったけど、今は貰えて良かったと思う。たった一つの思い出だから。本当はまだ見るのが辛いけど・・・
最近は食べるようにしている。公務先で、倒れそうになったからだ。じいやに痩せすぎだと怒られた。
男性にも慣れるように練習し出した。最近のリーフシュタインは、揃っている騎士が優秀なので、敷地内は安全だ。なので時々警護をつけず散歩するようにしている。男性騎士達も分かっていて、リリアーナに出会うと、少し距離を取って接してくれる。まだ近くにいけないし怖いけど、随分ましにはなった。
毎日が充実しているのに、胸には大きな穴が空いている。どんなに頑張って成果が出ても、心が動かず喜びを感じない。
『俺を騙したのか――!!』あの声が頭を離れない。
傷つけたのは私――
これは、その罰なのだ。
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